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逆噴射小説大賞2023ピックアップ

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#逆噴射小説大賞

星を射つ確率 

星を射つ確率 

 深夜2時の天文台にフミとミサ。フミは猟銃を持ち、ミサの手には一眼レフカメラ、望遠鏡まであと数メートル。終わりが近い。

 始まりはそう、西暦2038年カメラからビームが出るようになった。突然に。

 決定的だったのは2年前にサッカー世界大会で決勝ゴールを決めた時だった。無数のカメラがその選手に向けられた瞬間、彼にビームが突き刺さって斃れる様を全世界が目撃した。スマホもビデオカメラも全てが武器にな

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O・D

「一番指名の多い女はね、イク演技が上手い女なの。だからあんたもすぐ指名入ると思うよ」

 同棲している彼女の言葉が不意に思い浮かんだのは、丁度私が逝っていたからだろう。
 いや、いた。というのはおかしいか。
 私の意識はまだある。ということはつまり、逝っている最中だということだ。現在進行系で。

 「くそ、くそ、くそ」

 「よくも、このヤロウ」

 「ざけやがって」

 汚い言葉と共に降ってくる

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「迦陵頻伽(かりょうびんが)の仔は西へ」

「迦陵頻伽(かりょうびんが)の仔は西へ」

 身の丈七尺の大柄。左肩の上には塵避けの外套を纏った少女。入唐後の二年半で良嗣が集めた衆目は数知れず、今も四人の男の視線を浴びている。

 左肩でオトが呟いた。
「別に辞めなくたって」
 二人は商隊と共に砂漠を征き、西域を目指していた。昨晩オトの寝具を捲った商人に、良嗣が鉄拳を振るうまでは。
「奴らは信用できん」
「割符はどうすんの」
 陽関の関所を通る術が無ければ、敦煌からの──否、海をも越えた

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