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短すぎても長すぎてもダメ!? キャリアの渡り方

社会人になって会社や団体などの組織に就職した人は、仕事をしているうちに「果たしてこのままこの仕事を続けていていいのだろうか、この職場にいていいのだろうか」と考えることもあろうかと思います。むしろ、何も疑問を持たずにずっと同じ職場で働いていけるなどという人はいないのではないでしょうか。今回は、このまま今の仕事を続けるかどうかに迷ったときに、どのようなことを考えればいいかについて、筆者の過去の経験も踏まえながら考えてみます。

3年で3割辞めると言われる新卒社員の離職率

厚生労働省の調査 (※1)によると新規学卒者 (新卒)のうち、就職後3年以内に辞める人の割合は約3割になるとのこと。職種や学歴によっては5割近くが辞めてしまうようです。

報道では、わりと最近になって新卒がすぐに辞めることが取り上げられている印象もありますが、厚生労働省の資料を見ると、景気動向等による多少の波はあるものの、全体で平均約3割というのは1987年 (昭和62年) からほぼ横ばいです。

また、1年目、2年目、3年目で辞める人の割合は、全体ではそれぞれ約1割ずつ、また、学歴が低くくなるにつれて (大学卒⇒短大卒⇒高校卒⇒中学卒) 離職率が高くなる傾向がありますが、顕著なのは1年目の離職率で中学卒だと5割、3年までになんと7割が辞めてしまうようです。ただ、どの学歴でも2~3年目の離職率は約1割で変わらずです。職業別で離職率の高い職種での1年目、2年目の離職率は公表されていませんが、おそらく学歴別で離職率が高いところと傾向は似ており、1年目の離職率が高くなっているものと思われます。

「石の上にも3年」は本当か?

さて、年配者はよく「最近の若者は何をやっても長続きしない、すぐ辞めてしまう」といいますが、本当にそうでしょうか。少なくとも労働統計上は、30年前から新卒者が辞める傾向は変わらないということが出ています。

ことわざに「石の上にも3年」というのがありますが、江戸時代に「冷たい石の上でも3年座って入れば温まってくるので、辛抱強く耐えていればそのうち成功する」と言われていたのが由来です。しかし、耐えていれば本当に成功するかは、最初に見極める必要があります。

前回の記事では、伸びる、伸びないに環境、運、自分の努力等の要因があることを示唆しました。新しい職場に入ってみて「あれ、なんか違うな?」と思ったら、まずは自分で制御できる範囲のことをきちんと実践してみましょう。つまり、まずは上司や師匠に言われたことをそのまま実践してみてうまくいくか、頑張れるかどうか試してみましょう

しかし、自分でできるあらゆる努力をしても環境とのギャップが埋まらないときは、早めに思い切って転職するのも手です。精神力や忍耐力は人によっても違いますが、精神を病まないうちに降りることも時には必要です。

キャリア志向の人が就職するべき先

また、伝統的な日本の職場環境では「年功序列」の思想をもとに就職して最初の数年間は (場合によっては10年以上) 丁稚奉公をさせる傾向にあります。これは社会人人生の最初は給料を抑える代わりに人生の後半で退職金等を含め元が取れるようになっていました。

しかし、少子高齢化、低成長の日本社会ではこの仕組が崩れ、年功序列は社会に合わなくなってきました。企業側も終身雇用が保証できなくなって来た一方、昔と比べて外資系企業やスタートアップも日本市場で多く雇用をしており新卒採用やインターン採用を行っているところもあるため、就職するなり、より実践的で高給な業務に就く同期も出てくることになります。

また、丁稚奉公は給料だけでなく、その人の思考も縛られることがあります。つまり、丁稚奉公の間は上司の言うことを従順に聞いていればよく、むしろ自分で考えてはいけないと教育される場合があります。社会人の前半でそのような習慣が付いてしまうと、後々困ることになりかねません。

以上のことから、もし貴方が他の同期よりも先んじてキャリアを積みたいと思うなら、キャリアの最初の方で外資系やスタートアップを経験して、丁稚奉公ではないより実践的な業務で経験を積むのが近道でしょう。また、就職した先の業務や仕事のやり方が期待値と違ったということを減らすために、インターン制度を活用して、社風や業務、内情をよく知った上で就職することをお勧めします。

スペシャリストかゼネラリストか?

就職してから下積みを重ねてある程度一人前になってきたら、自分自身で自分のキャリアを設計するようにしてみると良いでしょう。その際、自分が「スペシャリスト」になるのか「ゼネラリスト」になるのかの判断を迫られることになるでしょう。

スペシャリストになるということは、割と狭い分野の中で誰よりも深く専門性を追求してその分野の第一人者になることを目指すことです。一方、ゼネラリストは、広い視野を持ちながら、いくつかの相当程度の専門性を持って全体を見据えた判断ができる役割になることです。

専門性の深さと広さを図に書くと、スペシャリストは太く長い縦棒一本、ゼネラリストはT字や下駄型のように横線と何本かの縦棒で表現できます。

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スペシャリストとゼネラリストはどちらがいいというわけではありません。業種、分野、状況によっても異なってくるので一般論として言うことは難しいですが、一つ言えることは近年はテクノロジーの進化の速度が凄まじく、扱っている分野の賞味期限が昔よりも早くなっていることです。(かならずしもITやテクノロジーの分野だけに影響は留まらず、デジタルトランスフォーメーションと称して、医療や法務なども含めあらゆる分野の仕事に影響します。)

賞味期限が長い分野であればいいですが、短い分野をスペシャリストとして扱う場合、自分たちの分野の賞味期限が切れてしまったときに、他の分野に乗り換えられるだけの準備をしておく必要があります。

私自身は途中からゼネラリストの道を選択しました。その際には自分の強みとしていくつか深く刺さる縦線を作ると同時に横線のカバーも行い、全体的に広く物事をカバーできる体制を整えるように心がけました。

伸びる人、伸びない人が出現する環境要因の数理モデル

前回の記事で触れた、伸びる、伸びないの要因としての環境、運の要因について少し考えてみます。皆さんはこんなことを聞いたことはないですか?

「組織が優秀な人ばかりを集めたはずなのに、いざ組織に入ってみるとできる人とできない人が出てきてしまった。」「働きアリの中でよく働くアリばかりを巣穴に残したが、そこから再び働くアリと働かないアリが出てきてしまった。」

つまり、理論上は優秀な人材だけを集めれば仕事がとてもうまく行くはずなのに、それが何故かうまく行かないのです。これには環境や運の要素が深く関わっていると思われます。

ここで、仕事に環境や運の要因を説明するのに、ひとつわかりやすい数理モデルを使ってみましょう。少し統計物理の話をします。たとえば温度が一定 (平衡状態にある) の気体の分子の速度 (=エネルギー状態) はどれも同じだと思うかもしれませんが、実際には「ボルツマン分布」と呼ばれる分布に従い、速度が速い分子、遅い分子が一定の割合で存在します。

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これは何故かというと、分子同士がお互いに相互作用をしてお互いの速度に影響を及ぼし合っているから、制限をかけているから、ということになります。実際には、問題にしている粒子や粒子間に働く力の種類によって、粒子の「エネルギー状態」は様々な分布を取ることが知られています。

「ちょっと何言っているかわからない」という人は、これを組織と従業員に置き換えてみましょう。物理学の面白いところは、数理モデルを作ったときに、同じ数理モデルに従うのであれば、他の現象であっても同じように表すことができることです。つまり、物理学も物性や宇宙だけでなく金融や社会行動学など様々な分野に応用が可能なのです。

組織力学を統計物理で理解する

話を戻すと、組織の中で従業員がお互いに影響を及ぼし合っているケースを想像してみましょう。統計物理の考え方に従うと、能力が一定 (優秀)だと思っていた従業員を組織の中に放つと、お互いに相互作用をして、高いエネルギー状態 (=成果を出している)と低いエネルギー状態 (=成果を出せていない)にある一定の分布に従って存在することになります。このように、組織の中での人のパフォーマンスは統計物理のアナロジーで理解することが可能です。

また、組織の中には「役職」が存在しますが、役職の数は通常限られており、少数の管理職と多数の一般社員に分かれています。役職のポジション数は位が上に行くほど少なくなっています。たとえばある組織の中に営業課長は4人、営業部長は2人、営業本部長は1人だとします。営業課長の能力がある全く同じ能力 (=エネルギー状態) の人が8人いたとします。4人は課長になることができますが、もう4人は能力が同じにも関わらずその役職になることができません。つまり、営業課長の座を占めた4人の存在により相互作用を受け、その座から "追い出されて" しまっています。

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あぶれた4人はどうなるかというと、大抵の場合は営業課長よりも下のポジションに甘んじるでしょう。ひょっとすると一人くらいは運がいい人がいて、ひとつ上の営業部長の座に収まるかもしれませんが、相当なレアケースです。こうして、組織の中に従業員の能力と異なる「役職の分布」が作られます。

一度埋まった役職は、その人が出世するか退職するか異動するまで他の人が埋めることができません。こうなると、同じ能力を持っていてもずっと上に上がれない、自分が持っている能力と比べてパフォーマンスを発揮できない状態になってしまいます。

そんなときに、ふと他の事業部や他社の組織を見てみると、同じレベルの役職のポジションが空いていたりします。そのときにどうするか?同じ組織にとどまりポジションが空くのを待つか、他の事業部や他社に移ってそこに収まるか、考え方は様々ですが、環境や運によって昇進できないこともあることを理解し、そのときは思い切ってほかを当たるという選択肢もあるということがお伝えしたいことです。

キャリアは3年周期で考えよう

貴方がスペシャリストになるにしてもゼネラリストになるにしても、定期的に新しいスキルを付けたり新しい経験をしてキャリアアップをしていく計画は立てておいたほうが良いでしょう。

同じ職場で同じことを長年やっていると、新しい学びがなくなり、いわゆる「カンファタブルゾーン」に入ってしまい、努力や緊張感なくしても業務をこなせてしまえる状態になってしまいます。この状態になると、自分のスキルや経験は伸びなくなり、いつの間にか同期に遅れを取るようになります。

また、同じ職場で同じことを長くやることは、利害関係者との癒着や汚職が起こりやすくなるという観点からも望ましくありません。

新しいスキルや経験を身につけるための周期は、だいたい3~5年くらいで計画するのが良いと言われています。「1年目=学び」「2年目=学びを受けての実践」「3年=工夫をしての集大成」という形でスキルや経験の習得を考えます。場合によってはあと1~2年、学びや工夫の時期が必要になる場合もあります。これ以上長い間同じことをやっていても、学びや工夫をすることがなくなってしまいます。

例外は、社長などのトップです。組織トップは何か大きなことを行う、変革するのにだいたい5~10年必要になる場合があります。人を集め、仕組みを変革し、結果が出るのを見届け更に調整していく、というステップはとても時間がかかるためです。日本の総理大臣もかつて1年でコロコロ変わっている時期がありましたが、そのようなことでは結果はでません。日米のマイクロソフトでもそうでしたし、アップル、マクドナルド、日産など大きな変革を成し遂げた会社は、トップが長い間変わらずに変革を続けていたケースが多いです。

ジョブホッパーにならないように注意

ただし、3年周期もしくはもっと短い期間で会社間を何回も渡り歩くのは避けたほうがよいでしょう。人事や採用担当者にはジョブホッパーとして嫌われる場合が多いです。ジョブホッパーはせっかく採用しても短い期間ですぐに転職してしまうという期待値が付いてしまうからです。

また、転職する理由は必ずしも悪い理由だけではないのですが、成績が出せなかったり人間関係に問題があったり、給与の上昇だけを求めて業界をさまよっているケースもあるので、人事や採用担当者から警戒されてしまいます。

以上のことから、キャリアを積む際には、まず組織内での異動の可能性を最大限に模索することをおすすめします。ただし、どうしても可能性がない場合は、思い切って組織外に出る選択肢も考えてみましょう。


※1 厚生労働省『新規学卒就職者の離職状況(平成29年3月卒業者の状況)


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