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上級管理職は部門の仕事を細かく知らなくてもいい?変革される側で学んだこと

デジタルトランスフォーメーションを実現するには、組織のカルチャーの変革が大事であり、それには管理職、マネージャーの役割がとても大きく効いてきます。そのため、最新のマネジメント手法を導入し、管理職を鍛えて変革をリードできるように変えていく必要があります。今回は、変革するマネージャーに必要なマネジメント手法について考えてみます。

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マイクロソフトで学んだ変革される側の立場

私も実は「変革される側」をマイクロソフトのときに体験しました。あれは私がマーケティングに異動してからしばらくした2000年代終盤のことでした。それまで日本では歴史的にアメリカ本国の次に売上が大きかったこともあって、本国のやり方とは違う独自の販売戦略を日本で立てて来ていました。コミュニケーションも製品部以外は日本人内でのやり取りに閉じていたため、営業部門には英語が話せる人もほぼいませんでした。

しかし、だんだん日本の売上の存在感が低くなっていくにつれて、販売戦略にもグローバル化の波が押し寄せ、それまで日本の役員や要職には内部から昇進していたことが多かったのが、本国や外部から管理職が配置されるようになりました。当時の私はそれを見て「何で会社や業務のことを知らない人が上に立つのだろう、モチベーションが落ちるな」と思った記憶があります。

後から考えてみると、あれはカルチャー変革を行うための布石でした。まず変革を行うには変革に適したリーダーが必要です。それは日本法人の社長が担います。ただ、社長一人では組織の制御にグリップを効かせることができないため、要職に同じ考えを持った「息のかかった」管理職を配置します。

トップはカルチャーを変革するための一貫したメッセージを発信し続け、その下の管理職はそれを組織内に浸透させていく、これを徹底することで組織と人は少しずつ変わっていきます。人材も教育されたり入れ替わったりして、英語を話せる人も徐々に増えていきました。

こうして毎年少しずつ本国主導の販売戦略とデータドリブン経営に組み込まれていき、営業部門のレポートラインもそれぞれが本筋もしくは仮想的に本社とやり取りをしてレポートをする体制に変わって行きました。

組織体制も効率化され、国内外のアウトソースも使われるようになりました。全部が完了するまでには数年を要しましたが、開始当初と比べると組織や体制だけでなくカルチャーも大きく変わりました。

そして、いま富士通でも組織が変わっていくために同じようなことが起ころうとしています。

今になってわかったこと

私は今、変革をリードする立場で富士通にいるため、前回とは逆の立場にいます。逆の立場になってわかったのは、変革をリードするのに必ずしも会社や組織のことに詳しい必要はないのです。

大事なのはマーケティング全般、マネジメント、変革に関するソフトスキルと、会社や組織とその業務の固有スキルやカルチャーが結びついて最適化された内容が、組織内に浸透していくことです。これは組織内のメンバーの共同作業によって行われます。前者が会社内になければ外部から持ってきて、後者の会社内にあるものと融合させます。

上級管理職の役割は、特に変革のときには変革に必要な世の中の最新スキルを組織内部に持ち込み、組織内部のカルチャーと正しく融合させるための設計、ビジョンの策定と、それを浸透させることにあるのかもしれません。

そういう意味では、生え抜きの人よりは、外部の組織で成功体験がすでにある人のほうが、能力を発揮しやすいかもしれません。むしろ、内部事情を知りすぎていると、ここは変えられない、変えにくいといった先入観が働いてしまったり、変革される側にいる人の顔が浮かんでしまい、手が鈍ってしまう可能性もあります。

また、自分自身が組織のことに詳しくなくても、組織のことに詳しい同僚や部下とペアを組むことで、組織の知識に関する問題は、少なくとも短期的には解決することができます。

下駄型マネジメント~細部に入っていくか適切な判断をしよう

一方で、某有名なドラマのセリフ「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ。」にあるように、組織では様々なことが現場で起こっています。その様子は、会議室にいる上級管理職からはまさに見えにくい状況にあります。

変革のときかどうかに関わらず、様々なトラブルも発生します。特に変革期には、何かを変えた影響で、思わぬところに歪みができて仕事が回らなくなったり、人や組織感にわだかまりができたりします。これらは会議室から眺めているだけでは取り返しのつかない事態に発展してしまうこともあります。

かといって自分の身は一つで、すべての案件に入る余裕もなく、またマイクロマネジメントは現場のマネージャにも嫌われます。小さいトラブルであれば現場に任せられないようでは、部下も育ちません。

それではどうすればいいのかというと、基本的には現場には手を出さずに "上空" から観察し、案件によっては "落下傘" ですっと地面まで降りていってファクト集めをするとともに直接案件に関わります。いわゆる「下駄型マネジメント」です。キャリアの話をしたときにも下駄が出てきましたが考え方は似ています。ゼネラリストが得意とすべき戦法です。

"下駄" のように、普段は上空のマネジメントを行い、案件によっては地上まで降りてくる「下駄型マネジメント」

特に大きなトラブルだったり、"上空" からだと真偽がわからないような案件は、現場に出向いて直接自分で見聞きすることが重要です。人づてだと話が脚色されたり理解が違ったり途中で変化してしまうことも多く、解決策を考える際にロジックを組み立てるための礎は "ファクト (事実)" であれというのは「ロジカルシンキング」の教えでもあるため、「一次情報」を集めることが早期にトラブルを解決する際に重要になってきます

三遊間を抜かれないために!現場のヤバさ感の臭いを嗅ぎ分けよう

では、どういうときに "落下傘" で現場に降りていくべきか、それを見極めるには、現場のヤバさ加減を嗅ぎ分ける経験が必要です。私は、上級管理職は究極の三遊間プレイヤーであるべきと思っています。

野球における "三遊間" とは、サード (三塁手) とショート (遊撃手) の間のスペースで、右利きのバッターがボールを一番打ちやすい場所で、よく内野の守備が抜かれるポイントです。サードとショートは、お互いがどのように動いて三遊間を守るのかをよく見ながらプレイする必要があります。さもないと、間を抜かれてしまいます。

ビジネスの場でも同じようなことが起こります。組織では、担当業務のうち定型的な内容は部を作って人を配置して業務を行います。部や課にはそれぞれ役割と担当範囲があり、メンバーも同じです。しかし、それぞれの間にスキマがあったり、メンバーや部門の "守備力" が弱くてスキマが広がっていることがあります。そのような場合、業務がスキマに落ちてしまいトラブルに発展するケースがあります。

そのようなスキマを見つけて三遊間のボールをキャッチしトラブルを撃退することが上級管理職には求められます。どこにスキマがあるのかは、様々なトラブルに遭遇して解決している間に勘が働くようになってくるでしょう。様々な報告の中からトラブルの臭いを嗅ぎ分け、どこに "落下傘" すべきかを的確に判断して解決する力をつける必要があります。

ちなみに、トラブルは "自分で" 解決する必要は必ずしもありません。解決のエキスパートが別に居ればその人に頼んでもいいし、本来の担当者が解決すべきであれば、そう指示をするだけでもかまいません。解決の手段は人それぞれです。

さいごに~変革をやりきるとは、浸透力

話は変革の話に戻りますが、自分が変革される側に立って感じたのは、変革の遂行は浸透力によって是非が決まってくるということです。"上空" から観察し、変革の理解が進んでいないところやトラブルを見つけては "落下傘" で降りていって三遊間のボールをキャッチして問題を解決し、行き渡るまで同じメッセージを出し続け浸透させる、という一見単純そうに見えることをいかに根気強くできるか、にかかっているように思いました。

私もまだまだ道半ばですが、肝に銘じていきたいと思います!それでは、また!

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