待ちわびた秋とあの店のおはぎ
誰でも好きなお店のひとつやふたつはすぐに思い浮かぶと思う。
好きなお店があると、頭のどこかにかすかにお店の存在がいつもあって、利用するたびに生活の中の小さな喜びが増えていく。小さな喜びは心に蓄積し再びその店が好きになる、という好循環をもたらしてくれる。
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最近とても好きなお店がある。それが「移動販売のお団子屋さん」だ。
このお店を見つけたのは本当に偶然だった。ある日、近所の直売所の出入り口で、テーブルいっぱいにお団子を並べて売っていたのだ。「なんとなく美味しそうだから買ってみよう」という気軽な気持ちで手に取ったのが始まり。
そのお団子は、これまでの人生で食べたことがないくらいに美味しかった。
うっとりするようなうるち米の柔らかさ、みずみずしさ。お口の中は幸せの絶頂。地元産のお米を100%使っていて、あんこやみたらしなどトッピングも手作り、というのも嬉しかった。
その日からこのお団子屋さんの虜になってしまった。
ただ、このお店の特徴は「あくまで移動販売がメイン」であるということ。近所の直売所に決まった日に来てくれるとは限らない。
それだけに、偶然会えた日には喜びも倍増する。「待っていたんですよお」と販売員さんに言いながら、どうやってそんなに食べきるの?という本数のお団子を購入する。
ある日、お団子のパッケージに「公式LINE始めました」というシールが貼ってあることに気が付いた。もちろんすぐさま登録した(笑)。ただ、LINEは頻繁に届かないということが分かった。大切なお知らせを送りたいときに送るのだろう。
そう思っていた矢先のこと、お団子屋さんから珍しく通知が届いた。
「お彼岸のため、本日から二日間限定でおはぎを販売しております」
心が躍った。メッセージの最後には販売店一覧が掲載されており、ラッキーなことに近所の直売所の名前もある。これはもう行くしかないだろう。
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おはぎは想像以上に美味しかった。
つぶあん、こしあん、きなこ、すり胡麻、どれもが絶品だった。もち米はほどよく粒が残っていて、柔らかさも甘さもちょうど良い。
数日前から涼しい風が突然吹くようになり、夜は薄手の毛布では寒いくらいになった。風の匂いも変わった。夏ってこんなに分かりやすく終わるんだっけと考える。
待ちわびた秋だ。
自然の便りからも、食べ物からも、いろいろなところから秋が届き始めている。
そんなタイミングで二日間だけおはぎを作ってくれたお団子屋さん。これからもこのお団子屋さんにはしばらくお世話になりそうだ。
そのとき必要なことに必要な分だけ、ありがたく使わせていただきます。