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子どもを生むってどういうこと?を改めて考えさせてくれたオススメ本「夏物語」

すっかりご無沙汰になっていたnoteですが「この本について書かなくて、何について書く?!」というくらい深~く、濃~いオススメの一冊に出会ったので感想を書き留めておきたいと思います。

芥川賞受賞作家の川上未映子さん作「夏物語」です。

精子提供での出産をテーマにした作品です。つまり結婚せずに、精子バンクから精子の提供を受けて、人工授精する事で母になるという事。

精子提供での出産を希望する主人公の結婚・出産・子育て・ジェンダーについての価値観、また、その主人公を取り巻く友人知人の女性たちの価値観が、生い立ちや置かれた環境と共に丁寧に描かれています。

なんで、人は結婚するんだろう。離婚するんだろう。結婚したくないと思うんだろう。

なんで、子供を欲しいと思うんだろう。欲しくないと思うんだろう。

なんで、男女そろわないと出産って出来ないんだろう。そろう必要があるのだろうか。

この本を読んでいると、こんな問いが次々に浮かんできます。

生まれ育った家庭環境や、今までの人生で見て来た世界によって価値観は様々。各登場人物の価値観が多種多様で、「こんな考え方もあるのでは?」「こんな価値観もあるよね?」と、どこまで想像力を広げてテーマについて考えることができるかを試しているような作品でした。

私とは異なる立場の登場人物がたくさん出てきて、「そんな風に育ったら、そう思うようになるかもなぁ。そんな考え方もあるか!」なんて目を開かされることの連続で、分厚い本なのですがあっという間に読み終わってしまいました。

なかでも、とっても衝撃的だった一節はこちら。

これは、自分自身が精子提供により生まれ(実の父親がわからない)、幼い頃から育ての父親に性的暴力を繰り返された女性が、主人公に放った言葉。

「どうしてみんな、子どもを生むことができるんだろうって考えているだけなの。どうしてこんな暴力的なことを、みんな笑顔でつづけることができるんだろうって。生まれてきたいなんて一度も思ったこともない存在を、こんな途方もないことに、自分の思いだけで引きずりこむことができるのか‣・・・子どもを生む人はさ、みんなほんとに自分のことしか考えないの。」

人生は山あり谷あり。辛いこともあれば、楽しいこともある。でも、生まれてこなかった方が良かったかというと、生きて色々経験できる方が最終的には良いに決まっている。

でも、そういう風に思えない程、辛い人生を送ってきた人がいたとしたら?子どもを生む(誰かの人生をスタートさせる)ことを暴力だと感じてしまうかもしれない。

「命は素晴らしくて、生きていることは幸福で、世界はこんなにも美しいってーーー多少の苦しみはあっても、自分たちが生きている世界は相対的には素晴らしい場所だって、信じることが出来る人たち」

そんな人たちが全てではない。それは悲しいけれど事実だろうと思いました。

子どもを生むって、ひとりの人の人生をスタートさせること。
とっても尊くて、そして責任重大なこと。

あの時の私は、それをどこまで自覚して子どもを生んだだろうか。

そこまで深く考えて生んではいなかったのが本当のところだわ!

子どもの人生が幸せなものになるように、親として全力を尽くそうとは思っています。でも、出来ることは全力を尽くすだけで、本当に幸せなものになるかの保証はできないんだな。そう感じました。

でも、保証できないからこそ、やっぱり、せめて全力を尽くすことが大事。

生んだ瞬間から、子どもの人生は子どものもの。親のものではない。ここを勘違いしたら、過干渉となり、また別の問題が起きます。でも、人生を始めた者としての責任ってどう考えたら良いんだろう。そんな事もグルグルと考えてしまいました。(結局、答えは出ていないです)

もう一つのご紹介したい一節はこちら。

これは、シングルマザーとして子どもをめいっぱい愛して育てている女性の言葉。

「こんなことは決して公に言えることではないけれど、子どもを産むまえのわたしは愛のことなど何も知らなかった。世界の半分が手つかずだった。・・・こんなふうな存在があることを知らないままだった可能性があると思うと、それだけで恐ろしい気持ちになる。」

この言葉にはとっても共感しました。

私の場合、子どもを生むということの意味を深~く考えて出産に臨むということは正直無かったのですが、生まれた瞬間、小さな赤ちゃんを見て、今まで感じたことのないような感情が芽生えたのを覚えています。

こんなに無条件に誰かを愛せるという事を、子どもを生んで初めて知りました。作者の方の言葉が美しすぎて、まさにこの通り、としか言いようがありません。

この本を読みながら、結婚、妊娠、出産、ジェンダーを取り巻く様々な価値観に(登場人物を通じて)触れて、想像力を広げて考えてみたり、はたまた、自分の価値観を見つめ直してみたり。一冊の本でこんなにも濃厚な時間を過ごすことが出来るのか、という経験をしました。

本の中って、本当に一つの世界が広がっているんだな、作家ってすごい(当たり前ですね、芥川賞作家の方です・・・!!)としみじみ感じました。

皆さんも興味を持たれたら、ぜひお手に取ってみて下さい。





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