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「密かな友愛関係のしるし」としての読書【遠野クロニクル#02】

"The Tono Chronicle(遠野クロニクル)"は、自然とビールにガッツリ浸りたくて岩手県遠野市に移住したKoheiの、備忘録的・週報的なニュースレターです。いつまで続くかはわかりません。

📅Overview 今週かんがえたこと

「密かな友愛関係のしるし」としての読書

僕が意識的に本を読むようになったのは2019年、今から3年ほど前になる。ちょうどスウェーデンという国に留学していたころのことだ。
僕には特に仲の良いスウェーデン人と韓国人の友人がいた。僕の知りうる最も教養深く、かつ燦然と輝く知性を持つ二人だった。そして二人とも、本物の読書家だった。そんな友人と対等に立ちたい、というコンプレックスじみた理由から、ストックホルムのクラス・オールソンでKindleを購入した。

初めは、わかりやすい新書やビジネス書に手をつけて自分は賢いのだと勘違いし、そこからマウンティング性能の高い(と勝手に思い込み)哲学書を小難しい顔をしながら読み耽っていた。恥ずかしすぎる。今となってはとても幼稚なモチベーションでファッション読書をしていたものだ、と思うこともあるけれど、あのファッション読書が「ものを読む」ということの基礎的体力のようなものを底上げしてくれたのだとも思う。
そう考えると、見栄っ張りであることってそんなに悪くないですよね。

そこから作家のクリエイター性に自分自身を投影できる(なんて厚かましい)エッセイを等比数列的に読み漁った。おもに三浦英之、高野秀行、そして村上春樹。彼らのエッセイ、ルポタージュはそれはもう必死に読んだ。小説の世界への不可避的な重力を感じ出したのはこのころだろう。作家という人間をエッセイを通じて知るにつれ、そして彼らの編み出す美しい文字の旋律に体を委ねてゆくにつて、「美しい文章」へのモーメントが漸進的に、それでいて確実に自分の中に生まれつつあるのを感じていた。

近所の喫茶店の窓際の席。350円の炭焼きコーヒー。過不足ない午後。

今の僕の読書のスタイルは、1、2冊の長編小説に、数冊のエッセイを挟みつつ読むというものだ。
長編を読むというのはなかなか骨の折れる作業である。村上さんは「走ることについて語るときに僕の語ること」で、小説を書くことは、自分自身の一番根底にある、軽いもの、重いものすべてと心身を削りながら向き合う仕事だ、のようなことを書いていた。そんな作家の人間性の濃縮液をフィルターなしで味わえるのが長編小説だ、と僕はそのときから勝手に思っている。だからこそ、スナック感覚で、寝る前・起きてすぐ適当にページを開いて心持ちよく読めるエッセイは、長編と向き合う上で必要なのだ。

今の布陣は、長編小説が「存在の耐えられない軽さ」(ミラン・クンデラ、訳:千葉栄一)「羊をめぐる冒険」(村上春樹)、エッセイが「人生の旅をゆく」(よしもとばなな)「いま生きているという冒険」(石川直樹)というもの。我ながらなかなか乙だ。遠野市立図書館は2.6万人しかいない田舎町の図書館とは思えないほど資料が充実していて、毎回本当に驚かされる。やはり『遠野物語』の文化的予算収集能力は令和の今でも衰えないようだ。柳田國男、佐々木喜善様様である。

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先日、友人と本について話していたときにお互い共感したことがある。それは、本が「レジスタンス的仲間意識」を媒介するということ。どういうことかというと、電車内や待ち合わせの場所、もっぱら市井の人間が必死にスマホに視線を落としている環境で本を開くという反逆的行為の心地よさ、そして自分と同じくささやかな反逆をしている人を見ると同族意識のような連帯感を感じるよね、ということだ。

このことを話した後、上で紹介した「存在の耐えられない軽さ」に、こんな一節を見つけた。

本はテレザにとって密かな友愛関係のしるしであった。・・・本は満足がえられない生活からの虚構の逃亡を可能にしたばかりではなく、彼女にとってはものとしても意味を持っていた。

「存在の耐えられない軽さ」ミラン・クンデラ、千葉栄一(訳)

これはテレザというウェイトレスをしている女性が、トマーシュという男性客に声をかけられ、彼のテーブルに本を見つけた、というシーンの一説だ。本をふたりをつなげるきっかけに見出したクンデラ、そして「密かな友愛関係のしるし」という訳を当てた訳者に脱帽する。

ひとりの人間が習慣的に本というものを読むようになるのには様々な理由がある。情報収集にもなりうるし、形而上的世界への冒険にもなりうる。美しい文章のキュレーション的な営みでもあるし、ご機嫌に暮らす日々のルーティン・ワークでもある。

それでも、僕が今一番本に求める効用は、それがもたらしてくれる腕章的であり、求愛的でもある「しるし」であり、人間関係のなかにある本の存在そのものなのかもしれない。


それにしても、徒歩1分圏内に二つもすばらしい図書館があるなんて、話が良過ぎないだろうか。何か悪い予感がする。世の中って結局トレードオフのような気がしますもんね。ささやかに生きます。

「こども本の森 遠野」のブック・ディレクションは素晴らしい。さすがBACH。

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📗Book Shelf 今週読んだもの

「ぼくの道具」石川直樹

山に登る人間がテンションの上がる場所は、稜線と登山屋だ。

登山屋が山を凌駕するといわれてもわかる気がする。
これまで幾度となく登山者と山道具屋に買い物に行ったものだが、あの空間に入ると同時に金銭感覚がすっぽりと消えてしまう人間は少なくない。
幸い僕はある程度の節度を持ってこれている。ただお金がないだけですけどね。

岩手山に登った。火山ということもあって、異世界感の強い場所だった。

家の近所に、「こども本の森 遠野」という施設がある。これは「こども本の森」という名前に関わらず、極めて高度な文化的空間であり、僕のいままで行ったことのある本屋・図書館のなかでも指折りの場所だ。遠野に移住してから、二日に一回ペースで足を運んでいる。安藤忠雄らしくない木材が基調の建築で、はだしで歩き回って寝転びながら世界中の、全年代の本を読み耽ることができる。筆舌に尽くし難く最高な場所だ。

もちろん僕は写真・アート・デザイン、そして自然・アウトドア・登山のコーナーをこれでもかと攻めている。そこで再発見したのが、石川直樹という写真家だ。僕がここで紹介するのも本当に身が引けるが、彼は早稲田大学(ここ大切)在学中に7大陸最高峰最年少記録(当時)を打ち立て、東京芸大で博士号を取得し、今も最前線を走る冒険家・写真家だ。恥ずかしながら、名前だけは知っていたものの最近までどういう活動をしている人かは気にかけたことがなかった。星野道夫と同じ本棚に置かれがちの名前、といった認識である。本当に申し訳ございません。

この「ぼくの道具」は、石川さんが自身の山道具・撮影道具を写真・イラスト付きで、経験談と共に紹介するものだ。

山をする人、写真をする人なら全力で共感して欲しいのだが、僕たちってギア大好きですよね?
著名な探検家や写真家がどんなギアをどう使っているかって、喉から手が出るほど気になるものですよね?

そういう人種の恒常的飢餓感に、オーバーキルと思うほどに答えてくれるのが本著である。なんせ、石川さんの高度別の登山靴からフィルムメーカーまで事細かに載っている。たぶん石川さん自身も好きなんだろうし、ニーズわかってるんだろうな。僕も自分のギアの本出したい。需要なかろうが。

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🍳Eat Eat Eat! 今週食べたもの

ほっけの刺身

盛り合わせ。ほっけは中央下赤貝の左斜め上。

岩手県には三陸海岸という世界有数の豊かな漁場がある。遠野は昔から三陸海岸と内陸部を繋ぐ交通の要衝である。

つまり、山深い遠野にも、いつも新鮮な海の幸が記念碑的に供給されるということだ。簡単な演繹法である。

紅屋さんという寿司屋にお邪魔した。気持ちのよい大将が三陸の幸をさっと握ってくれる。おかみさんが生ビールを5タップ、日本酒もつぎつぎと出してくれる。僕はおかみさんがお酒をたくさん飲ませてくれて、気持ちのよい大将が握ってくれる寿司屋が大好きだ。

「このマグロ、マグロよりマグロですね」「美味い、、大将、これ『美味さ』の概念握りですか?」「この串焼き、酒が進んでいるのか、自分が退いているのか、もうわかりません」なんて調子の良いことばっかり言っていた気がする。なんせ飲み過ぎた。反省。

それでも、衝撃だったネタがある。ほっけの刺身、である。

ほっけといえば、こどものころ夕食で出てきて萎えて、大人になって居酒屋で開きのうまさに感動する、くらいものだと思っていた。刺身になるなんて考えようもない魚だ。大将によると、普通は寄生虫などの危険もあるので干物などにされることが多いが、今回は新鮮なものが入った、とのことだった。

見た目は透き通るような白身。鯛に少し近い感触。遠野産わさびと共に口に運ぶ。主張をしすぎない脂のノリ。箸でうまく身を取れず、いい思い出のなかった魚という過去の思い出と、心地よい弾力が下の上で踊る。僕は今幸せだと感じる。

この店のいいところは、コースが終わった後でも、おまかせで海鮮丼を拵えてくれるというところだ。ほどほどでいい、という人は、ほどほどの量の海鮮を楽しめる。たくさん食べたい、という人は、たくさんの量の海鮮を楽しめる。もちろん海鮮丼まで頂いた。なぜなら、僕はたくさんの海鮮を食べたかったからだ。

(歓迎会で連れてってもらいました。僕だけでは絶対にいけません。来世でも無理でしょう。ありがとうございました💜)


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