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緊急事態宣言でまた暇なので、上半期読んだ本ベスト10を語らせてくれ

定期的にしっかりサボってしまうお気に入りの日記帳を久々に開くと、8月ももう半ばだという。本当に、早いですよね。

8月というとまだまだ今年もある、そんな感じもするが、9月になった途端来年へのカウントダウンが始まったみたいで、いつも急かされる気がするのは何故なんだろう。ただ毎年9月に機械的に歳を取る、からなんだろうか。

そんなこんなで早かったのか長かったのかいまいちピンとこない7ヶ月半だが、それでも様々な本に出会えたことで幸福レベルの平均値が底上げされてたのは間違いない。これだけは本当。


まあ緊急なんとかのおかげでみなさんも僕も基本的に暇な夏休みかと思いますので、ほんの数分の暇つぶし程度で面白い本の話でも聞いて下さい。今回もお金もらってるわけでもないし、アフェリエイトのリンク貼っているわけでもないし、別に頼まれているわけでもないので何のためにやってるかと言われると困るんですが。


(*僕が今年上半期に読んだものであり、今年上半期に出版されたもののベスト10というものではありません

10位 取材・執筆・推敲 書く人の教科書

古賀 史健 

早速ぶあっついのでごめんなさい。

結局は文章の書き方の「教科書」ではなく、筆者個人のノウハウの書き下ろし、という体裁なので、これを読んだから文章が書けるなんでものではない。しかし、いかに取材対象を「読み」、世界を「読み」、自分のアウトプットを「読む」かについて深く考えさせられる。

自分で文章を書くのが難しいのではない。

自分で自分の文章を読むのが難しいのだ。

(僕に取ってはどっちも全然難しいけど)



9位 楽園をめぐる闘い: 災害資本主義者に立ち向かうプエルトリコ 

ナオミ・クライン  星野 真志 (翻訳)

2017年、メキシコ湾岸を襲ったハリケーンマリア。その壊滅的な被害(とトランプ前大統領の稚拙な対応)を被ったアメリカ保護領・プエルトリコでは、ハリケーンの惨事に便乗する形で新自由主義的でウォール街的な民営化・投資を行う超富裕層「プエルトピア人」によって、プエルトリコ一般市民の水道やインフラへのアクセス・民主主義と経済的安定性が破壊されようとしていた。ナオミ・クラインがプエルトリコに乗り込み、そんな「火事場泥棒的資本主義」と戦う現地の環境運動やプエルトリコ人たちの抵抗をリアルに描いたノン・フィクション。

ナオミ・クラインは僕自身が個人的に尊敬するジャーナリスト・アクティビストの一人だが、いささか刺激が強すぎたり、悲観的過ぎるように感じられるところがあって万人にお勧めできるようなものが少ないように思っていた。が、今作はプエルトリコを蝕むショック・ドクトリン、そして現地でそれらと正面から戦う人々の対比で語られるもので、とても力強くempoweringな作品だった。いつものみたいに長編ではなく、ちょっとした文庫本みたいな長さだし。

あ、あと装丁が超カッコいい。持ってるだけで自分も戦っているような気分になれるので、電子書籍でなく実物で読まれることをお勧めします



8位 ソクラテスの弁明

プラトン   納富 信留 (翻訳)

大学一年生の時に読もうとして挫折したものを、光文社古典新訳文庫でリベンジしたもの。古典は読み手の準備ができていないと挫折するということ、そして大学での3年間でちょっとは準備ができたのかもしれない、ということを教えてくれたんですかね。

とはいっても内容は50ページもなく、新訳なので文体も簡単(岩波はよう読まん)なので、お時間があれば2000年以上前の論破厨のおっちゃんの話でも聞いてあげて下さい。

「吟味のない生は人間にとって生きるに値しないものです」

いつでも、自分が全てを知ったような気にならないこと。自分の無知さに謙虚であり続けること。

2、3年の時の自分に聞かせてやりたい。ほんまに



7位 発酵文化人類学

小倉ヒラク

本好きの子に教えて貰ったもの。

自らを「発酵デザイナー」と名乗る筆者が、発酵というミクロな化学反応から文化・社会現象を読み解いていく、というもの。

何より、筆者が自分で「発酵デザイナー」という仕事を作り、「発酵文化人類学」という領域(?)をも作り上げてしまったところが本当にズルイ。内容も文体も引き込まれる良著である前に、仕事なんて自分で作れるんじゃね?と思わせてくれた点で7位にしました。

勝手に仕事作りたい〜〜〜〜〜〜〜



6位 ラオスにいったい何があるというんですか?

村上春樹

大学の大先輩ということで村上春樹の本は意識的(?)に読むようになったんだが、村上さんの紀行文はとても透明度が高いというか、風通しがいいというか、その場所・人・情景がすっと自分の中に入ってきて、あたかも自分自身が村上さんの横で一緒にその土を踏んでいるような感覚になる。 

村上文学のこねくりまわした比喩や、男女の会話の描写、必ず出てくるお酒とグラスの水滴、そして冗長なセックスの話が苦手だという人は、ぜひ村上さんの紀行文を読んでみてほしいです。特に今日この頃、そんな簡単に旅行も行けないしね。

この本では村上さんが24年ぶりにギリシャを訪れる回があるんだが、ぜひギリシャの小島で『ノルウェイの森』を書いていたときの紀行文『遠い太鼓』を読んでから手をつけて下さい。自分自身も懐かしい場所に帰ってきた気分になります。あー、ミコノス行きたい。



5位 武器よさらば

アーネスト ヘミングウェイ  金原 瑞人 (翻訳)

ヘミングウェイは「老人と海」を原文でしか読んだことがなく、初めて日本語訳で読んだ。やはり光文社の古典新訳文庫は本当に優秀。

最後の一文を読み味わうために読むようなもの。

作中にわたって散りばめられた伏線がたった一文で深さと重みでもって回収される、その余韻ではじめてヘミングウェイ作品がどういうものかを、その凄みを思い知らされたように感じる。



4位 生き物を殺して食べる

ルイーズ・グレイ  宮﨑 真紀 (翻訳)

まず表紙裏のメッセージが強烈だ。

「迫りくる人類の人口増を前に、食肉の消費総量は減らしていく他ない。そのためにも、来歴の見える肉=「倫理的食肉」を選択する意義は大きい」

先日のICCレポートで人類活動による気候変動が「疑う余地がない」と初めて断定されたように、温室効果ガスの排出大幅削減をはじめとした気候変動対策が急務であることは間違いない。

昨今のインスタの情報系ポストでよく取り上げられる「エシカル(倫理的であること)」はしばしばヴィーガンや畜産に対するアンチテーゼとして機能しているように感じられるが、その視点からすれば「倫理的食肉」は矛盾を内包したものでしかなく感じる。

読者は筆者とともに悩むだろう。筆者は猟銃の鉄の匂い、ロブスターを〆る瞬間、屠殺の空気感を、本人の動揺とともに詳らかに描いてくれる。

読み終わった後にどんな選択をするかは自由。価値観を変えうるものになるかもしれないし、筆者の自己正当化と割り切ってしまうこともできるが、どちらにせよ考える機会の一つとして読むに値するものだと感じる。



3位 狂気の起源をもとめて―パプア・ニューギニア紀行

野田 正彰 

こんな古い本、全員にお勧めできるようなものではないことは分かっているが、それでも紹介したい。

分裂症(現代では統合失調症)研究医である筆者は、脳の異常から分裂症が発症するという当時の定説に対し、西洋現代文明との接触が一つの要因ではないかという仮説を投げかけ、一路パプア・ニューギニアへ向かう。そこで文明と接触を持った地、未開の土着文明がまだまだ続いている地を渡り歩いた、現地の汗ばむ空気そのままの診療記録/旅行記である。

フィールドで働くということの真髄を感じさせる、文化人類学、ひいては社会科学そのもののあるべき姿であるとともに、40年前のパプア・ニューギニアの生き生きとした情景が手にとるようにわかる優れた紀行文でもある。



2位 災害特派員

三浦 英之

今学期はジャーナリズムのゼミに潜っていたんだが、そこのゼミ生が授業中に教えてくれた本。

今年であの3.11から10年になる。例のコ○ナ関連やオリンピックの話題でとっくに忘れ去られてしまったようにも感じられたり、10年という大きな区切りのその先の報道のあり方や、そもそも五年・十年と勝手に区切って特集を組むという枠組みが本当に正しいのか、そんな議論が行き交った教室を後にし、その興奮の冷めやらぬまま読んだ本。ジャーナリスト・三浦英之さんが震災の翌日(確かそうだった気がする)から現地入りし、原発の避難地域を含んだ被災地を取材し続けた、そのルポタージュである。 

三浦さんのルポはこの本を読んだ後、数冊消化したが、作中のエピソードにおいては三浦さん本人の真っ直ぐさ、かつ不器用さが伝わってくる文章でありながら、文章の造形的な美しさと痛くならないギリギリのレベルのキザさがずるいとまでに思えるほど調和した、完成度の高い災害記録になっている。

写真もまた美しく、切ない。



1位 戦争広告代理店 情報操作とボスニア戦争

高木 徹

凄い本を見つけてしまった。大学の図書館でも表紙が取れそうになる程ボロボロになるまで読まれていた。情報化、IoTなどがしきりに叫ばれる昨今ではあるが、ここまでショッキングに情報というものの包括的な強さと残酷さを描いたものも少ないだろう。

冷戦終結と新世紀への希望で、世界情勢がこれまでにないほど良好なムードだった(であろう)1990年代に大きな影を落とす、旧ユーゴスラヴィア紛争。そのなかでも最大規模のボスニア紛争において、小国ボスニア・ヘルツェゴビナがアメリカの巨大PR会社のスーパーエリートと綿密なPR戦略を展開し、情報戦でセルビアを圧倒したボスニアが国際世論を味方につけ、『ボスニア=被害者、セルビア=凶悪な加害者』という構造を作り上げ、それ以降の国家イメージをも左右させる大勝利を収めた、その舞台裏が赤裸々に語られるさまは自身の価値観が揺らぐほどショッキングだった。なによりも残酷なのは、情報戦が世論を形成し、それによって戦争が発生し、さらに拡大し、より多くの人が死に、勝敗を左右させるという生々しさである。

ひとつのスリリングな戦争「物語」としても優秀だが、情報と戦争に対する見方をアップデートさせられ、さらにはPR戦・情報戦略で大幅に遅れをとるこの国において、決して他人事と済ませられるものでもなく感じられ、うっすらとした不安感を否が応でも残される。それも含めて本当に面白い。




今年始まってからは45冊ほどの本と出会っていたみたい。

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(もろもろの一部)

それでも数ページ読んで秒で飽きてやめたものも多ければ、枕もとにおいて気に入った章を何回もリピートしたものもあった。最後まで読み切らないと読書じゃない、という固定観念は取り払われてきたかもしれない。同時に、「お勉強」の意識も。

まあ気楽に、肩の力抜いて、読んで行きましょうよ。悪くないですよ、読むことも、読んでいる自分を好きになることも。



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