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長野のタイ人スナック、抱けなかったミーナ #2

前回まではこちらでございます

1人で飲みにきたらしかったミーナを、ママが俺の席に連れてきて挨拶もそこそこに楽しく飲み始める。
店員じゃない初対面女性とサシ飲みなんかどうしたらいいものか、と普段なら思うだろうが酒は既に結構入っているのでそんなことは気にならない。

「ミーナちゃん、どこから来たの!フィリピン?」
「チガうよ、タイだよ!この店のママも女の子もみんなタイね」
「へーそうなんだね、タイ好きだよ!パタヤしか行ったことないけど」
「Oh、ワタシのウチはもっと北の方ね、田舎のほう」
「行ってみたいなあ、今度一緒にいこうよ!」
などと軽口を叩きながら玉子焼きを突つきつつ酒を進める。

誤算がある。
いつもならもう少しマトモな状態でスナックにINするのだが、今日は心なしか酒が十二分に回っている。
久々の遠征で浮かれてしまったのか、演奏中とハコ打ち(ライブをやった会場での打ち上げ、移動しないので楽)で結構飲んでしまっていたのだ。
ミーナがどんどん可愛く見えてくる。

ある。
そういうことがあるのである。
酒が進むと、もう下膨れでもエラが張っててもマトリョーシカのような体型でも可愛く見えてくるんである、不思議なことに。
そんなことは百も承知でこの年齢になっている、なっているのだが承知しているからリビドーをコントロールできるかというと出来ないときの方が多いだろう、と思う。

ミーナもかなり酒が強いようで二人で順調に飲み進めすっかりいい気分になってしまい、もう1軒行こうという話しになりお会計をする。
二人で7000円。
安!
なんだか知らないがもうその時は既に首筋にチューしあったりケツを触り合ったりしている。どうしてこうなった。

「ちょっと踊りタイから行こうよ!」と元気いっぱいだ、ミーナの知り合いのお店に向かう。
リーリーのが入っているビルあたりまで戻り、行ったことのないビルの隙間に入っていく。
おーこれはなんかヤバいやつか?まあでもなるようになるか。

扉を開けるとキレイなママが迎えてくれ、これからDJタイムだからとボックス席でなく隣のスペースのクラブスペースのようなところに俺とミーナを導く。
DJタイム?スナックで?DJ来るの?
小さめのテーブルにウイスキーボトルと少しの乾き物を置き、ちょいちょい飲みつまみながらフラフライチャイチャしているとママがDJを始める。

「イェェェェエェェーーーーイ!’#%’(リghjゲy(オイエ’w(tフェグh!!!!!!」
いやお前が回すんかい!
何語だか分からないマイクパフォーマンスとともにランバダが大音量で鳴り響く。
ランバダ!何この今っぽいアレンジのバージョン!
でも今の俺とミーナにはピッタリのアンセムじゃないか、なかなかに気が利く。たしか求愛のやつだったろランバダは。

ランバダ
男女がペアで踊るダンスであるが、密着度が高く、腰をくねくね動かすパフォーマンスと時に片足を相手の股の間に入れてお互いの股間(局部)を太股で刺激するように擦り合わせ腰をすり寄せる格好をする、極めてエロチックなダンスとして話題になった。

wikipedia

こうなったら俺とミーナはもう止まれない、密着しつつ離れつつ回りつつガンガンにランバダするがもう俺の意識は結構怪しく、後から入店してきたブラジル人男性が愛おしくなりチューをしたりして「クレイジーメン!」と言われる始末。

「これからアナタの部屋いくネ、イイ?行こうヨ!ホテルとってるんでしヨ?」
ミーナが耳元で囁く、俺に選択肢はない。行かなければならない。

ようしじゃあ一丁行ってやろうじゃないの!
ママ、お会計。
はい、8000円。
まあ、そんなもんか。ウィスキー3口くらいしか飲んでないけど。

さあこれから俺は頑張らないと行けないぞと思い一緒に店をでて、泊まる予定のホテルまでのタクシーを呼ぶ。
ここからはもう記憶が途切れ途切れだ。
気づいた時にはホテル前にタクシーが泊まり、俺は真っ暗なホテルの周りを入り口探して駆けずりまわった。
おかしい、iphoneでしっかり地図を見ながら進んでいるのに全然着かないし前にまっすぐ進めない。世界が回っているのかiphoneが回っているのかよく分からなくなり、座って落ち着こうとして見るが公転は止まらなかった。

15分ほど駆け回ったろうか、もう入り口が見つからないので泣きそうになりながらこれはもうムリだ別のホテルに連れて行ってもらおうとタクシーに戻りミーナに「俺のホテルに入れない。別のとこに行こう」とタクシー横に倒れ込むとミーナは鬼の形相になり俺に何か汚い言葉をかけられてタクシーで走り去ってしまった。

時計を見ると4:30、もうすぐ明るくなるな。
そしてとても寒い。
気温は3,4度だろうか。
雪こそないが薄手のダウン一枚ではシビれる寒さだった。

とりあえず車が近いから、車に戻ろうか。
このままでは死ぬかもしれない。
戻れるか。
あー、ミーナのケツは掴み甲斐あったな。
顔が地面が近いし、冷たい。
明日って何時に帰ればいいんだっけ。
帰りに七味買ってかないと。
あ、おそばも食べたいし温泉にも寄りたいな。

……

.


気づけば朝10時、俺はコインパークに止めた自車の運転席で丸まっていた。
ダウンジャケットの右袖が破れてそこらじゅうに羽毛が散らばっているし、右手は血塗れで手のひらに傷があった。

あー、こんな感じで野宿(布団以外っていう広義でね)するのは6年ぶりだろうか。
とりあえず生きてて良かったな。
25000円入っていた筈の財布の中身は札が見当たらなかった。
コインパーク出せないな、金下さなきゃ。
まあまあ、気持ち悪いな。


ミーナ、俺のこと待ってるかもな(待ってない)と思い一応お店を見てみようと思いすっかり明るくなった飲み屋ストリートに戻る。

どこなのか探さないでください

もちろんミーナがいるはずもなく、人っ子ひとり歩いてもいない。
あーここはそういう一帯だったんだな。なるほど。
俺は連れ出しに成功してホテル前で気を失った奴として何か言われてるんだろうな。

ミーナを抱けなかったことよりも一晩分の稼ぎを失わせてしまったことに負い目を感じ、深く反省しストリートを後にする。
次は隣の隣の茉莉花あたりから攻めて行こうかなと心に誓った。



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