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長野のタイ人スナック、抱けなかったミーナ #1

2021年9月あたりだったか、「なぜだか原因がはっきりしないし、偉い人がちゃんと説明できないが」感染者がグっと減った時期があった。

いわゆるメジャーでない生演奏を伴うような音楽シーンはしばらく停滞気味だったが、その隙間を縫って「コロナ前が戻って来た!(ほんの一時期かもしれないけどね)」とここぞとばかりに毎日のようにライブを開催した。
俺の所属しているバンドも、コロナ中は地方ツアーがほぼゼロだったんだけども毎日感染者数が1桁2桁になった頃をみはからって地方のハコにアポを取った。
感染者数爆発していた頃こそ「来てもらっても困る」という態度だったが「東京がこの数値なら」という姿勢になったので久々のツアーを組んだ。1本だけだけど。

会場はここ数年結構行っている、長野県のとある市のバー。
ほぼ2年ぶりの帰還(故郷じゃないけどね)でお客さんが来るか不安だったが、なんと結構な数の方々が来てくれた。
みんなやっぱり生演奏に飢えていたんだな、このまま感染者が増えず落ち着いていけばどんなに良いだろう。みんなそれぞれに思ってはいただろうが再爆発は時間の問題だろうともそれぞれに心に秘めていたに違いない。

その夜ばかりはそんな暗澹たる未来も完全に忘れ、マスクはすれど皆さん超盛り上がって頂いてこれまで以上にアンコールをいただいたりライブ後も一緒に飲んで盛り上がったりで本当に楽しい一夜となった。

しかし。
ミュージシャンの夜というものは、演奏後も大切な活動がある。
全員に当てはまるものでもないし得意ジャンルもそれぞれなので出来ればそっとしておいて欲しいが、まあ夜の街へ繰り出しての課外活動である。

ある者はヘルス、ある者はキャバクラ・スナック、またある者はお客さんともう1軒など各々が本日最後の気力を振り絞り最高のトゥナイトをフィニッシュすべく街へ繰り出す。
中でも俺はここ6,7年ぐらい、ライブ前後のスナック活動に勤しんでいる。

スナックといえばバブル時期はキャバクラ等に押されパっとしない時代が続いてきたと思うが場末からも消えて無くならなくて本当によかったな、オジサンになった今そう思う。そこは例えでなく本当に「オジさんのオアシス」だ。(もちろん色々な業態があるので、行く前にチェックしたほうが幸せには慣れるかも)

パトロンを捕まえられていない芸術家なんてものは実家が太いとかヒモにしてくれている女がいるとか以外は大抵ビンボーで、俺も自由にキャバクラやスナックに行けるなあなんて収入になった頃にはもうすっかりオジサンになっており青春が過ぎ去った感があるが、まあ結婚もしてしまったし適度な距離感が保てるスナックがしっくり来たのだろう。

都内ライブの時では色々事情があり(早く帰ってこいとかね)中々自由に飲みにも行けないのだが、地方ツアーで泊まりとなるともうこれは無限の自由を手に入れたようなザ・ワールド感を感じるものでついつい飲みすぎてしまう。そうなるとキャバクラとかはシャンパンとか入れてしまうとあっというまに3-5万円が飛んだりするので危険だが、スナックであれば3000円とか5000円とかで飲み放題となるところが結構あるので安全だ。

++

そんな安全地帯であるオアシスも下調べなしで飛び込み訪問してスリルや強烈なママと出会うのが地方での醍醐味になっていて、今回の長野ツアーでのスナックも「チャンスがあれば行ったこと無いスナックに飛び込もう!」と思い1軒目のスナックに向かう。
実は2,3年前に来た時にハコの常連から紹介されたスナックでユキちゃんという若い子と仲良しになっていたのだがお店自体が移転栄転とかでどうにかなってしまったようでLINEで連絡もつかないし、まあお店行ってみようと思い到着した時にお店が真っ暗で営業していなかったのでちょっと凹んでしまった。
ジョジョ好きでhide(ex.X-JAPAN)マニアでめっちゃ美人ではないけど色白でよく笑うユキちゃんにもう会えないとなると寂しかったが、これは新しい出会いが俺を待っているのだと前向きに捉えて新規開拓をすべくスナック集合地帯に向かう。

狙うは前から気になっていた3軒並びのスナック三兄弟、歩いてすぐのところだ。3軒が兄弟かどうかは知らないが、こんな近距離であれば相当なヘベレケでもハシゴ3連チャンも可能だろう。淡い期待を抱き右端のスナックへご入店。

こんなご時世ではあるが、というかこんなご時世だからか15席ほどの店内は結構賑わっている。
左手に長いカウンターがあり、右側にボックス席が数個の縦長の店内でママは海外出身らしかった。フィリピンかタイか、そのあたりっぽい陽気そうでハデな化粧だ。1つだけ空いていたボックス席に通され、ママ以外の女の子がお客さんのテーブルについているのでママが対応してくれた。
「オー客さん初めてネ」
「そうなんだよね、ここら辺は何回か来てるんだけど。いつも行ってたお店のリーリーが休みでね」
「オウ、そう最近休みだねリーリーは」
「あーそうなんだ。だから気になってたココに来てみたのよ」
「でも良かったネ!ここ最高ヨ!」
ママはボディタッチを交えながら陽気にお酒を作りつつ俺に聞く、
「なんかオツマミ食べたい?」
「そうだねーなにかもらおうかな、少し食べたいな。ママも飲んでよ」
「アリガトウネーいただきます!!じゃ卵焼き作るネ」
そう言って席を立ちキッチンへとママが向かった少し後にカランと音がして入り口から女の子が入ってくる。
お、今頃出勤か?と思ったがカウンターへ座りボトルを出してもらい飲み始めるのでどうやらお客さんらしかった。キッチンのママと何か話しているが何語かさっぱり分からない、英語だったら5%くらいわかるのに。ゼロ%。
「お待たセ!美味しいヨ!」
ママが焼き上がった玉子焼きを俺の席まで持ってくる、
「ありがとう。ねえねえあの女の子、一人で飲みに来てるの?珍しいね!」
「そうネ、別の店の女の子だけど終わってからここに飲みに来るネいつも」
「へぇーそうなんだ!ボトルなんか入れちゃってすごいじゃない。」
「そう!あの子ネー面白いヨ、一緒に飲むイイネ!ミーナこっち!」
ママがその女の子を呼びつけ、有無を言わさず俺の向かいに座らせる。
店員じゃない子と一緒に飲めるのは俺も悪い気はしないから、断る理由も無い。若者言葉でいうとワンチャンあるかもしれないし。

「ミーナです、おジャマしまーす💓お兄さん、イケメンね!嬉しい!」
あきらかに社交辞令だけど、弾ける笑顔で言われると弱い。
この子も海外の子だったけれども愛嬌のある顔をしていて笑顔がかわいい。たぶん25-28才くらいだろう。
「おーミーナちゃん、じゃんじゃん飲んでよ!」

もう既に術中にハマっているのだが良い気分のまま飲み進めるのであった、#2へ続く…


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