光だよって僕が言うから 短編
朝だ。
今日はいつもより目覚めがいい。
狭いマンションの一室には光が差し込んでいる。
あぁ、最悪だ。
ヒカリなんか大っ嫌いだ。
こんな日は君と話したくなる。面と向かって。
僕 おはよう。寂しくなっちゃった
君 おはよう。寂しくなっちゃった
僕 同じだね
君 同じだね
僕 今日の目覚まし時計うるさかったね
君 でもそのおかげでいい感じに起きられたじゃん
僕 確かに。でも日差しで胸が苦しい、吐き気もしてきた
君 確かに。世界の明るさのせいで孤独を感じちゃう。僕の暗さがより際立つっていうか…
僕 うん
君 うん
僕はキラキラしたのが大嫌いだ。だって、それは明るさの象徴だから。だって、僕と正反対だから。僕は、そんなのには交れない暗い人だから。
僕らは歯ブラシを取った。口の中の雑菌は朝飯前にきれいにしておきたい。
僕 でも、こうやって話してると寂しくない
君 その通り
僕 痛っ。
そういえば昨日、くちびる切ったんだった。
君 昨日は乾燥してたからね。
三寒四温って絶対嘘だよね。
僕 三寒四温か。なんか好きだな、その言葉。特に、サンカンシオンって語感が。
君 意味は知ってる?
僕 もちろん。僕が言ったんだから。
君 言って
僕 あ、歯磨き粉、まだ付けてなかったーー
君 あ、ずるーい
響く歯ブラシの音。奥では今朝セットしたであろう洗濯機の音が。
唯一、お互いが黙ってる時間。気まずいわけじゃないけど、早く歯磨きを済ませたい。話したいから、もっと、ずっと。
うがいをする。しっかりと二回ね。いや、四回か。
僕 やっぱりうがいはスッキリするね。
君 うん。でも、ちょっと唇がしみる。
僕 ねえ。あのさ…
いつまでも一緒に居られるかな、話せるかな?
君 大丈夫だよ。
僕 でも、もし、これ がなかったらどうやって君と会うの、話をするの?
君 他のもので代用すればいいじゃん。街にもあるし。あ、でも持ち歩けないか――
僕 あ、僕スマホ持ってたんだ。
君 あ、そうじゃん! 目の前にあるじゃん!
どう?スマホからでも見えそう?
僕 それを言うなら、聞こえそう?だろ
君 どっちもね。
僕/君 お、繋がった。
僕 おはよう。
君 おはよう。
僕 これで大丈夫だね。いつでも繋がれる。
君 「いつでも」じゃないよ。画面が明るいと映らないし。
僕 インカメラだと別だよ。
君 インカメラ壊れてるでしょ。
僕 あ、そうか。じゃあ「画面が暗い時」はいつでも繋がれる。
君 うん。でも、夜は繋ぎづらいよ。明かりがいる。
僕 あ、確かに。
君
僕 繋がるには”ひかり”が必要なんだね…
君 うん。だから、今日のお日様にも感謝だね。
僕 そうだね。少しづつひかりを受け入れられるよう頑張るよ。
君 うん。頑張ろう
僕 ありがとう。
母 ねえ。いつまで洗面台に突っ立ってんの。私も歯磨きしたいから退いてくれない。あ、あと、洗濯物干して。
僕/君 はい!
二人暮らしなのに狭いだなんて、どれだけこの家は狭いんだろう。
少し湿った布の塊を持ってベランダへ出る。やっぱり日差しが強い。
あぁ、最悪だ。
ヒカリなんか嫌いだ。
でも、ひかりが無きゃ見えないもの、感じられないもの、出会えないものがある。ほら、ぴかぴかの物干し竿から、ぺしゃんこ顔の君がこっちを見ている。
光だよって僕が言うから
最後まで読んでいただきありがとうございました。
このnoteは企画の一環です。是非そちらもご覧ください。
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