柊 遼生~sinlla~

巨木のような静かなひとに コダマのように無邪気なひとに   なれるといいなと思います

柊 遼生~sinlla~

巨木のような静かなひとに コダマのように無邪気なひとに   なれるといいなと思います

マガジン

  • ほっと ひと息 ~ショートショート集~

    手のひらで かこめるほどの小さな世界、 あつめました。 ご試食 あれ。

  • [小説] 君が生きる星のすべて

    小説初挑戦。トウヤとザカル、二人の少年が織りなすファンタジー。

最近の記事

第10回ブックショートアワード 12月期 優秀作品に選ばれました

おひさしぶりの投稿になります。 応募していた小説が入賞したとのご連絡をいただきました。 初めての応募作品で思い入れが深かったので、とても嬉しくて、手が震えました 笑 こちらのnoteで書くことで、他の方の作品に刺激を受けたり、 コメントをいただいたりして、様々なかたちで背中を押して頂きました。 ありがとうございます。 書きかけの作品の登場人物たちも待ってくれているので すこしずつでも手掛けていけたらと思います。 入賞した作品は、制限文字数の関係でやたらと漢字を使う羽目

    • 龍と私

      空を翔ける龍。 そんな龍が、ここにいてくれたらいいのになって思う。 キノコを手にした小人。 草ぼうぼうのうちの玄関のあたりに、そんな小人がいてくれたらなって思う。 だから草むしりをする時は、ごめんね、隠れにくくなっちゃうけど大家さんが心配するからむしっちゃうよって、草むらに告げる。 蝶と戯れる妖精。 光が踊るのを見かけたときは、光の中にじっと目をこらす。 チラとでも見える瞬間をけして逃さないようにって。 どうか私に姿をみせてって、祈りながら。 私には、見えない。 見え

      • とどけ

         くすみを帯びた美しい赤い革の表紙。金色のエンボスに押された背表紙の文字が、照らすランタンの光にゆらと浮きあがる。ページの重なった小口は金色の箔で塗り込められ、本が開かれる瞬間をいまや遅しと待っているのだろうか。 一冊の本が いまこの手に 在る。 私の世界が、私の物語が、今、一冊の本を形どり両手にしっかりとその重みを伝えていた。じんわりと背中に震えがはしり、胸に集まったそれはとても柔らかく、そしてあたたかく、小さな私をおしひろげ無限にひろがっていく。 開けばそこに、物語

        • これから  [ショートショート]

          「もう、生まれて半世紀がすぎたから」 こういうと聞いた者はみな怪訝な顔をするか、意味をとらえ損なってスルーするか、答えが閃いた者すらもその後のリアクションを決めかねて、「え??」と、笑顔を凍らせる。  非常に面白い。我ながら大人げないのはわかってはいるけれど、しばらくはまだ続けるつもりだ。 若くみえる俺の年齢を聞いて驚くさまが、今は面白くてたまらない。 いいんだ。もう好きにさせてもらう。 だって、もう生まれて半世紀も生きたのだから。  小学生の頃は、なんとなく優等生らしき域

        第10回ブックショートアワード 12月期 優秀作品に選ばれました

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        • ほっと ひと息 ~ショートショート集~
          5本
        • [小説] 君が生きる星のすべて
          4本

        記事

          海にうかぶ小舟[ショートショート]

          「班追放だ、班追放」 数日前の終礼で不用意に発した私の言葉が、そのまま刃となって自分に返ってきた。 クッと胸からひろがったセメントのよう緊張が、私の全身を固まらせていく。 え……班追放て。私……が? いつもならできるごまかしもきかない。その余裕すらない。胸で抑えきれない何かが爆発して、喉にせり上がってくる。緊急事態だ……。 もう涙が溢れてきてしまってるのがわかった。 こぼれなきゃ、みんな、わからないに違いない。そうきっと、わからない。 私はトイレにかけこんで、制服の赤いタイを

          海にうかぶ小舟[ショートショート]

          ちいさい おじさん【ショートショート】

           今日も会社のパソコンのかげから、おじさんが顔をのぞかせる。 ちいさい、おじさん。私の推しキャラマグカップにちょうど隠れるくらい。  私のいつもの目配せ挨拶にこたえて、ちいさいおじさんの口がパントマイムで動く。 “ お は ” と。 ” きょうは なにしてるの? " と小さい口をパクパクさせる。なぜかおじさんの意思は読めてしまう。この人生、読唇術など習得した覚えはないのだが。 " 仕事にきまってるデショ " 語尾を目ぢからで強調して、ふたたび目配せで答える。

          ちいさい おじさん【ショートショート】

          [小説]君が生きる星のすべて #2-3

          ←前話はこちら 森の家  扉を開けると、かすかな煙の匂いとふわりとした暖気がトウヤとザカルを包み込んだ。暖炉に炎はみえないが、こんもりとした白い灰の下には赤い熾きが残っているようだ。足首を痛めたトウヤに手をかして道中支え歩いてきたザカルは、そのままドアを開け放って中に入り、トウヤを木でできた椅子に座らせた。それから、ザカルは扉の取手に手をかけて、そびえる山影に沈んでいく夕日の光をみながら、ゆっくりと扉を閉めた。ガチャリという音とともに、部屋がうす闇につつまれる。 「足、痛

          [小説]君が生きる星のすべて #2-3

          [小説]君が生きる星のすべて #2-2

          ←前話はこちら 黒髪の少年  西へ向かう道をいく。くねくねとした小道が高い木立の間をぬって続いている。木漏れ日がちらちらと揺れる道を、トウヤは影ふみをするようにして歩いた。鳥の声がいたるところから聞こえてくる。道端のヤブをガサリといわせ、トウヤに驚いた小鳥が飛びだして森の奥へ消えていった。  革のリュックを背負ったほっそりとした身体、濃い茶の髪が木々の間をぬけてきた風にゆれた。 いい天気だ。風はもう冷たいけれど、歩いてほてりはじめた肌にはこの上なく気持ちよく感じられた。ト

          [小説]君が生きる星のすべて #2-2

          [小説]君が生きる星のすべて #2-1 

          ←前話はこちら 出会いの朝  トウヤは、すりへってうっすらと年輪のうきでた木の床にすわりこみ、編み上げ靴のひもを結んでいる。 今日は遠出して西の谷を越えるつもりだ。帰りはすこし遅くなるかもしれないと、昨日のうちに母さんに伝えてある。 妹のリタは、まだ朝食のテーブルについて口をもごもごさせ、おじいは湯気のたつカップを両手でつつみ、半身を向けてトウヤの準備を眺めていた。 「トウヤ、明日は力作業を手伝ってくれんかの。新月の伐採にむけて場所をあけておかなきゃならんが、一人じゃどう

          [小説]君が生きる星のすべて #2-1 

          [小説]君が生きる星のすべて #1

          はじまりの風  黒い瞳のはるか下を鳥が飛んでいる。 頬をかすめ、すぎていく風がいつもより強い。 断崖にせりだした大岩。のぞきみた谷から吹きあげてくる風がするどい声を上げ、のびた黒髪をあおって天にかえっていく。  風を追い見上げた空は、はてしなく青い。  強風に流されるのか、猛禽らしき茶の斑点を散らしたその背は、羽を大きくひろげたままゆっくり左へと螺旋を描きながら遠のいていった。  大風が近づいてきているのかもしれない。 ザカルははるか西の空から、何かをよみとろうとするか

          [小説]君が生きる星のすべて #1

          奥阿蘇~千年の森物語~第1話 

          ミサヲの種  ばあさまは、ふたぁつ、みっつと歌うように節をつけ、幼いふっくらした手のひらに、サヤから取り出したばかりの種をのせていった。 小さくまんまるいその種は、ミサヲの小さな手のひらの真ん中に、なかよく三つおさまっている。 ミサヲは、クリーム色をした種を首をかしげてみつめたあと、顔をあげた。 みあげたばあさまの顔は、ふくふくと微笑んでいて、ミサヲはうれしくなってにっこり笑った。 「ミサヲはよか子じゃけん、そればやる」 ばあさまは、豆をとったあとのサヤがらをガサガサとまと

          奥阿蘇~千年の森物語~第1話 

          白糸の滝

          滝がみたいと、 会社を飛びだして 半時。 最後のくねくね道をたどり、 開けた視界のさき。 もう暑さを感じるほどだったのに。 滝から ふきつける風が 身体と すこし ささくれだっていた心を 落ち着かせてくれました。 滝からふりそそぐ 水気が 周囲の岩や 木や 大地に 苔を やさしく かぶせたようです。 沢に転がる 岩と岩の間を くるくると 踊るように 滑りおちる 澄んだ水を ぼんやりと ただ ただ ぼんやりと 眺めておりました。 沢沿いに続く道の横を 笑うように