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知っておきたい腸内細菌の話

no+eをご覧いただきありがとうございます。

今回は、体を維持するうえで重要なファクターである腸内細菌についてのお話です。


1.はじめに

なぜ腸内細菌が大事だと言われるのでしょうか。漠然と大事だと思ってはいても、僕たちの体と腸内細菌がどのように関係しているのか、具体的にはよくわからないかもしれません。

結論から言うと、腸内細菌なしでは人間はエネルギーを十分に得られないからです。腸内細菌が多様であれば、食べるものから生きる糧となるエネルギーを得やすくなると言えます。

ここでは、腸内細菌について欧米の最新研究を紹介した2冊の本「あなたの体は9割が細菌」「免疫力を高める腸内細菌」を参考に、押さえておくべきポイントをざっくりとまとめます。


2.ヒトと微生物

ヒトの部分は10%

腸内細菌は腸内にいる微生物です。微生物は、細菌、菌類、原生動物であるアメーバなど、顕微鏡でしか見ることのできない生物の総称です。

人体の中にいる微生物は100兆個とも1000兆個ともいわれ、人の体を構成する細胞数(およそ37兆個)よりはるかに多く存在します。

遺伝子の数では、人間はミジンコにも及びません。人間は常在菌の集合体、マイクロバイオータの協力を得て、ヒトゲノムだけでは対応できない栄養不良やホルモンの変化などのあらゆる状態に順応し、体を維持しています。

人間は微生物たちに頼るように進化してきたのです。人の体から微生物がいなくなったら、残る人の部分は10パーセントと言われています。遺伝子の数で比べれば人の部分はわずか0.5パーセントに過ぎません。

わからないことが99.9%

最新の論文では地球上には1兆種の細菌がいるとされています。しかし、現時点で解明できている細菌の種類は1万種程度。99.99999パーセント以上は名前もついていなければ何をしているかもわかっていない細菌です。

健康な人と腸の調子が悪い人のウンチの中の細菌を調べてみたら、健康な人の方が細菌の多様性がなかったというデータがあるそうです。これは、見えている細菌の中には多様性がないけれど、見えていない99.99999パーセントの細菌の中に健康に寄与する細菌の多様性があったということなのかもしれません。


3.土壌と微生物  

環境の土台は微生物がつくる

地球上に1兆種いるとされる細菌も、最初から多様性があったわけではありません。38億年前に微生物が誕生したとき、その微生物は海底の噴火口近くから湧き出る無機化合物を分解して炭素を得る生物でした。

その後、生物の死骸を分解して炭素を得る微生物が誕生し、それらが海の中を自由に泳ぎ回って、当初は酸性だった海の成分を30億年かけて変えてきたと言われています。

前回の記事で植物は独立栄養、動物は従属栄養であるという話をしましたが、植物も動物も微生物がお膳立てしてくれた地球環境に後から生まれてきた生物です。

動物は植物によって養われ、植物を育む環境は微生物によってつくられました。大事なことは、微生物にしか僕たちが生きていく環境の土台をつくることはできないということです。

腸内細菌は土壌微生物

動物を養い植物を育む土壌にはさまざまな微生物がいます。人は生まれる前、母親のお腹の中では無菌状態ですが、生後に外から様々な微生物を取り込みます。

腸内細菌叢(腸内フローラ)という言葉がありますが、腸内細菌の多様性は外から取り込む土壌細菌の多様性と比例していると考えられています。つまり、土壌微生物が口から入って腸内細菌になるのです。

腸内細菌叢が多様であるほど、病気への抵抗力が高まります。自然界の動物は、日々エサとともに土も食べて土壌細菌を腸に送り込んでいます。彼らは歯磨き粉で歯を磨いたり石鹸で手を洗ったりするわけではありませんが、虫歯になったりお腹を壊したりはしません。


4.腸内細菌の役割  

栄養摂取のアウトソーシング

前回の記事で見てきたことですが、人間は穀菜食がいちばん理にかなっています。ただし、腸内細菌の力なしでは人間は植物の栄養を摂取できません。栄養を摂取できるのは、腸の中に植物のセルロースを分解する酵素をつくる遺伝子をもつ腸内細菌がいるからです。

食べた野菜を分解するセルロース分解菌群と同じように、腸内にはタンパク質、油脂、デンプン、それぞれを分解する分解菌群がいます。人間は栄養摂取の複雑なプロセスを腸内細菌にアウトソーシングすることで、さまざまな食べ物から栄養を引き出すことができています。

たとえば、日本人の多くは海藻に含まれる炭水化物を分解する酵素をつくる腸内細菌をもっています。西洋や中東の人たちは牛乳のラクトースを消化できる酵素をつくる腸内細菌を、南米先住民は植物に含まれるデンプンを分解するのに向いている腸内細菌をそれぞれ腸内に棲ませています。

摂取カロリーは腸内細菌で決まる

厳格な菜食主義者であるヴィーガンの腸内細菌叢は、食物繊維を利用する細菌の割合が高く、ビフィズス菌の割合が低いことが知られています。これは、動物性食品の摂取量に応じて、腸内細菌叢の組成が変化するからだと考えられます。

食品ラベルに表示してあるカロリー量はだれが食べても同じになることを前提にしていますが、カロリー量を決めるのは腸内細菌群の組成比です。いくらバランスの良い食事をしても、それを利用する腸内細菌がいなければ栄養は引き出せないのです。

普段から菜食主義の人が豚肉を食べたとしても、豚肉のアミノ酸を分解するのに必要な微生物が充分に存在していなければカロリーを引き出すことはできません。(ただし、腸内細菌の組成比バランスは食べるもので4日もしないうちに変わるとされています。)


5.腸内細菌と食物繊維

脂肪と腸内細菌

栄養摂取をアウトソーシングした結果、人間のカロリー摂取量は腸内細菌によって決まるようになりましたが、タンパク質、脂質、炭水化物(デンプン、セルロースなど)の分解菌群の腸内細菌叢の組成比は人によってさまざまです。

僕たちは脂肪や糖などのカロリーの摂りすぎが肥満と関係していると考えがちですが、実際にはそう単純ではありません。

脂質一つとっても、飽和脂肪、一価不飽和脂肪、多価不飽和脂肪、トランス脂肪などがあり、何をどれくらい摂るべきなのかわかっていません。

世界の多くの国では病的な肥満が増えていますが、第二次大戦以降、イメージとは裏腹に脂肪と糖の摂取量は減っています。脂肪を分解する分解菌群の反応を評価するのは動物実験でさえ難しいのが現状のようです。

ブルキナファソとイタリアの子供の脂肪の摂取量を調査した研究によると、カロリー摂取量や脂肪摂取と肥満の相関関係は見られなかったようです。違いは、食物繊維の量でした。その調査によると、食物繊維の多く含まれる炭水化物の摂取量が多い地域の子供ほど、肥満の割合が少なかったのです。

炭水化物と腸内細菌

人の腸内細菌は、結腸(大腸のうち、盲腸と直腸のあいだの主要部分)にもっとも多く存在しています。逆に、腸内細菌数がもっとも少ないのは小腸です。腸内細菌の多くいる結腸では、炭水化物を利用する嫌気性細菌が支配的です。

炭水化物と一口に言っても、精製された小麦粉から難消化性の食物繊維を多く含む玄米までさまざまです。食品表示で同じカロリー量だったとしても、それらから得られる栄養はまったく違ったものになるでしょう。

大事なのは、炭水化物に含まれる分子の種類です。分子の種類によって、腸内で繁栄する微生物の種類、脂肪として蓄積するエネルギーの量、蓄積したエネルギーを使う速度、細胞内で起こる炎症の度合いまで変わってきます。

糖質制限ダイエットではすべての炭水化物を悪いものだとして避けますが、それらを一括りにしてしまっては意味がありません。腸内細菌の多様性をもたらす食物繊維を多く摂ることが大事です。


6.最後に

自然界の動物は微生物を殺しません。彼らは、微生物を殺すことは自分たちの住む環境や体の機能を破壊することであると本能的に知っています。

一方で、人間は保存料や抗生物質、農薬などによって自分の体の腸内細菌を殺しています。

腸内細菌のエサとなる食物繊維を多く摂っても、腸の中に腸内細菌自体がいなければ意味がありません。

土壌の多様性を促進するような農法で作られた農作物を、それについた菌類と一緒に食べることで、腸内細菌の多様性も促進され、それが僕たちの健康につながるのだと思います。

人は食べたものでできているのではなく、本当は腸内細菌が食べたものでできているのかもしれません。


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