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最強の自然医学健康法

no+eをご覧いただきありがとうございます。

今回は、千島学説と同じく医学の定説をくつがえす説を唱えた森下博士の著書「最強の自然医学健康法」をとりあげ、体質を整える食事とは何か、その基本原理を探ります。


1.はじめに

「あなたは食べたものでできている」という言葉を聞いたことがあると思います。

僕たちは、消化した食べたものが日々体を作ったり、体を動かすエネルギーになることを知っています。食べ物はタンパク質やビタミンを自分の体に取り込むための燃料だと考えています。クルマで言えばガソリンです。

しかし、健康を左右する食べ物と体の関係について、実際のところはよくわかっていないのが現実ではないでしょうか。

結局、何を食べればいいのか。この疑問に対する大まかな見取り図を提供してくれているのがこの本です。


2.食べ物を消化する仕組み

消化は造血作用

前回の記事で、千島学説についてわかりやすく解説されている書籍をとりあげました。千島博士は、食べたものが腸で血液に変化し、血液が細胞に変化するという説を唱えました。そこで僕たちは、健康を保つには血液の状態を良いものにすることが肝心で、血液の良し悪しは胃腸の状態に左右されるということを見てきました。

血液生理学の立場から千島博士と同じ説を唱えたのが、医師の森下敬一博士(1928-2019)です。

小腸というのは、食物を消化する場所であることは、間違いない。そして、血が、他ならなぬその同じ小腸でこしらえられていることも、またまぎれもない事実なのである。ということは、どういうことかというと、消化作用とは、実は造血作用に他ならないのだ。

森下敬一「最強の自然医学健康法」pp.157-158

僕たちは、食べたものを胃酸で溶かして低分子化して、それを腸で吸収するものだと漠然と考えています。しかし、その考え方自体が本質的に間違っていると森下博士は言います。

博士によると、消化という作用は、食べ物という物質が血球という生命体へと質的な転換をする働きのことをさします。さらに、食べ物から転換した血球が体細胞へと変化していく。

食の世界→血の世界→体細胞の世界

原理的に見ると、このように物質が生命へとダイナミックに転換していくのが消化という現象の本質です。

消化は分解ではなく組立て作業

食べたものを低分子化して吸収するのではなく、質的に転換していく働きが消化であるということを前提にすると、いままで当然のことと考えていた栄養についての常識も見直さざるを得なくなります。

たとえば、カロリー計算。カロリーとは、食べ物を燃やしたときに出てくる熱量のことですが、人間の体の中でそのような現象が起こっているわけではありません。カロリー計算のもとになっている考え方は、取り込んだ食べ物が栄養としてそのまま吸収されるという足し算の栄養学です。

現代栄養学では、消化作用を「分解・吸収作用」と考えている。食物がより細かく分解されていって、栄養素であるアミノ酸やブドウ糖、脂肪酸、ビタミンなどとして吸収されていく、と考えている。けれどもそれは、試験管の中で、食物に消化酵素を作用させたらそういう変化が認められた、という話にすぎない。

森下敬一「最強の自然医学健康法」p.154

これは、根本的に見れば、食べたもの=元素は体の中で変わることはないという考え方がベースとなっています。この「元素不変の法則」が現代科学、栄養学の土台です。タンパク質や脂質、炭水化物をバランスよく摂ることを推奨されるのも、体の中で取り込んだ食べ物の元素が変わらないことを前提としています。

これに対して、森下博士は元素は転換するものだと考えました(前回の記事、ケルブランの原子転換説を参照)。体の中に取り込まれた元素はどんどん転換して変化していきます。生命体は原子炉と同じです。消化は食べ物を細かく分解して吸収することではなく、取り込んだ元素を自分の体の細胞やエネルギーとして転換していく組み立て作業なのです。


3.タンパク質とは何か

タンパク質は必要なのか

体の中で元素はどんどん転換、変化していく。このことを見落としているために、現代医学や栄養学は根本的な間違いを犯していると森下博士は言います。その間違いとは、「タンパク質は生きていくうえで欠かせないものである」という考え方です。このタンパク質必須論が、誰も抜け出すことができない大きな罠なのです。

そもそも、なぜタンパク質が必須であると考えるのか。それは、人間の体がタンパク質でできているから、タンパク質を食べ物から十分に摂らなければならないと考えるからです。

現代栄養学では、タンパク質がアミノ酸に分解された後、腸の粘膜を通過して吸収されると考えます。吸収されたアミノ酸は、体の中で再びタンパク質へと結合される。タンパク質はあくまでもタンパク質。つまり足し算の栄養学です。

森下博士は、炭水化物がタンパク質に質的に転換すると考えました。炭素を含む炭水化物が、僕たちの体の中で窒素を含むタンパク質になる。消化作用をへて、炭素と酸素が結合して窒素になるという元素転換が起こっていると考えるのです(C+O→N)。

草食動物が炭水化物ばかり食べて筋肉を発達させたり、卵や乳などタンパク質を日々つくりだしているのも、体内で元素転換が起こっていると考えなければ説明がつきません。

タンパク質はすべて自家製

では、肉などのタンパク質を食べた場合にはどうなるのでしょうか。その場合は、タンパク質が炭水化物に逆戻りするのです。つまり体の中で窒素が炭素と酸素に分解されます(N→C+O)。

そして、分解された炭素と酸素を元にして、自分の体のために窒素を含むタンパク質がつくりだされる。つまり、肉などのタンパク質を食べた場合、僕たちはいったん体の中でそれを炭水化物に戻して、それを再びタンパク質にするという無駄なことをやっていることになるわけです。

これが非常に重要な点ですが、タンパク質はすべて炭水化物を元にしているということです。僕たちの体を構成するタンパクというのはすべて炭水化物を元にして自分でつくっている。動物などの他者タンパクがそのまま自分のタンパクになるわけではないのです。タンパク質はすべて自分の体の中で炭水化物からつくりだされている。つまり、タンパク質はすべて自家製ということです。


4.植物と動物の関係性

炭水化物が栄養の主役

動物は、植物に含まれる炭水化物を食べることで体の中でみずからタンパク質をつくりだし、体を維持しています。なぜ植物を食べるのかというと、動物が自分ではつくり出せない物質を植物はつくり出すことができるからです。

植物は、葉緑素を使って太陽エネルギーを炭水化物(糖質)に転換しています。この世界の根源物質であるH₂OC(水素と酸素と炭素)をつくることができるのは植物だけです。これを「独立栄養」と呼んでいます。

そして動物は、植物がつくったCHOという炭水化物を、自分の体の中に取り込み、細胞の中のミトコンドリアで分解し、エネルギーを取り出して生きています。これを「従属栄養」と呼びます。動物は植物に対して従属的であるということです。

僕たち人間は、体を維持していくために植物に養ってもらっています。動物は植物が生み出してくれる炭水化物なしでは生きていけません。このことは、栄養の主役は炭水化物であるということを意味しています。

三大栄養素は同一物質の三様態

少し乱暴に単純化すると、植物は炭水化物であり、動物はタンパク質です。しかし、このように分断して考えることは物事の本質を見失うことになると森下博士は考えます。なぜなら、生命物質はすべて連続しており、中間的で移行的なものだからです。

三大栄養素とされている炭水化物、タンパク質、脂質は、本質的には同一物質が置かれた条件の違いによって異なった様態を示したものだと見ることができます。

炭水化物は、生命活動が活発化する前の「前タンパク質」状態。そして、タンパク質は生命活動が最も高まった状態です。脂質は、生命を次の世代に伝える種子に脂肪がたっぷり含まれていることからもわかるように、生命活動が一休みしている状態です。

これらはすべて、元素が置かれた状況によって一時的にそのような形をとっているだけで、やがて別の様態に質的に転換していく過程にあるものだと言えます。

全体的に見ると、生命の世界はすべて「中間的」「循環的」「可逆的」です。地球の生態系から考えても、植物が動物を養い、その動物の死骸が土に帰って再び植物を養うという循環のサイクルで成り立っています。


5.体質を整える食事

肉食は体に悪いことなのか

タンパク質も炭水化物も本質的には同一物質であり、それぞれが可逆的な関係だとしたら、タンパク質を食べようが炭水化物を食べようが結局は同じことなのではないかという疑問が出てきます。

これに対して、森下博士は体の素材である食べ物は原則として炭水化物であるべきだ主張します。なぜなら、肉(=他者タンパク)を食べると、老廃物を処理するための新陳代謝をその食べた動物に代わって人間が引き受けなければならないからです。

新陳代謝は「上りの山」と「下りの谷」と両方があって、上りは天然のビタミン・ミネラルを使って大量に酵素を製造して人間の身体の成長や活動にプラスになるのだとすると、下りの谷では老廃物がたくさん出てくる。そして、肉を食べるということは、この上りと下りの全体を摂っているということなんです。本当は、その動物自身の体内でやらなければならない仕事を、食べた人間が代わりに老廃物の処理を引き受けてやっていくことなんです。

森下敬一「最強の自然医学健康法」p.38

動物の「下りの谷」である老廃物を処理するために、食べた人間が本来使わなくてよかった大量の酵素を消費して、寿命を縮めてしまう。だから肉を食べるのは良くないというわけです。

この点については、僕自身にも実感があります。以前、とにかく高タンパクな食事が健康を維持するには大切だと別の本で読んで、タンパク質豊富な鶏むね肉をたっぷり食べた翌日、ずいぶん肌質が悪くなって老けたように感じたことがありました。(ちなみにその肉は自然食品のお店で買った"質が良い"とされるものでした。)

肉を好んで食べる人が短命ということでは必ずしもないと思いますが、酵素を余計に消費しているというのは一理あるように思います。肉を食べると腸が腐敗する(=血液が汚れる)のも、酵素の阻害が一因であると言われています。

穀菜食のすすめ

僕たち日本人はもともと、肉を食べる民族ではありませんでした。日本の食生活が崩れたのは、端的に言ってアメリカの謀略です。1954年7月、アイゼンハワー大統領のときに、日本人の肉食化計画であるPL480法案が米国議会を通過しました。それ以降、日本人は栄養を得るためにはタンパク質豊富な肉を食べなければならないと思い込んできました。

アメリカでは1977年にマクガバン・レポートと呼ばれるアメリカ人の健康に関する5千ページにも及ぶ報告書が作成され、肉食を控えて穀物食を多く摂るようにという方針へ大きく舵を切りました。一方で日本人の多くは、農薬や化学肥料まみれの遺伝子組み換え飼料で飼育された、抗生物質まみれの肉類を高タンパク源だと信じて日々食べ続けています。

森下博士は、マクガバン・レポートと同じように、理想的な食事は穀菜食であると結論づけています。

われわれの体にとって最も理想的なバランス食品とは、未精白の穀物である。未精白穀物、とくにその胚芽の部分には、植物性炭水化物にきわめて多彩な有効成分が結びついている点で、われわれの命のモトとなる食糧として、他のどの食品よりも重要なものである。

たとえば、玄米ではこれまで明らかになっているだけでも、炭水化物、粗蛋白、粗脂肪のほか、ビタミンB1、B2、B6、E、ナイアシン、パントテン酸、プロビタC、コリン、リノール酸、ミネラル、酵素などが含まれている。このため、炭水化物がスムーズに代謝されて、質のしっかりした自前の体蛋白をこしらえていくのである。

それもそのはずであろう。人間はもともと穀菜食動物だ。穀物を中心とした食物を摂るよう生物学的に運命づけられているのである。

森下敬一「最強の自然医学健康法」pp.120-121

玄米・菜食は腸に不要な負担をかけず、質のしっかりした血液をつくります。そして、血液の質がそのまま体細胞の質(体質)になります。主食の未精白穀物をしっかりと食べ、あわせて酵素の材料になる発酵食品とミネラル豊富な天然の塩分を摂る。健康のベースとなる、基本的な食べ物の質と摂り方が大事です。


6.最後に

食べたものが体の中でどのように処理されるのか、その基本原理をおさえておけば、あとは臨機応変。一定の範囲内で何を食べても大丈夫。そんなふうに大らかに食の豊かさを楽しむことが、心身の健康を保つ秘訣なのではないでしょうか。

本書の内容は健康のベースを考える上でとても重要だと考えますが、一方で本の内容をすべてそのまま鵜呑みにすることには注意が必要だと思います。これはあらゆる健康法に言えることです。

たとえば、タンパク質はすべて炭水化物を元にしてつくられているのだから、体の素材である食べ物は原則として炭水化物であるべきだというのが森下博士の主張ですが、気をつけておきたい点もあります。炭水化物の過剰摂取がSIBO(小腸内細菌異常増殖症)やNASH(非アルコール性肝炎)につながる可能性があるということです。大事なのはバランス。炭水化物の質と量が大切です。

炭素を窒素に元素転換して、炭水化物からタンパク質をつくる際に大きな役割を果たしていると思われるのが、腸内微生物の存在です。次回は、この本ではほとんど触れられていなかった、腸内細菌の働きについて迫りたいと思います。


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