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【エッセイ】〆野式「ズルい読書感想文」(前編)

こちらは前編です。後編はこちらで読めます。

 これだけは先に言わせてください。私、〆野友介は、中高生の書いた小論文や作文、志望理由書を、それはもう日々真面目に添削指導しています。そして、そうした日々の指導の中で気付いたことや注意すべきことを、中高生に向けてnoteで記事としてアップしています。そういう、どこに出しても恥ずかしくない、極めてお硬めの教育系noterなのです。これだけは、みなさんにあらかじめ知っておいていただきたい。

 で、その上で今回は「〆野式『ズルい読書感想文』」と題しまして、「全く本を読まなくても読書感想文が一日で書けちゃう、インチキな読書感想文の書き方」を披露するわけです。

 ……が、わかるね!読んでいる人たち!そこの中高生も!もうわかるね!悪用厳禁ですよ!

 これはネタですからね!いいですか?あくまでもネタですよ!大事なことだから、先生二度言いましたよ!本気にしない!このやり方を、決して推奨しているわけではないですよ!前述の通り、いつもは真面目に文章作成の指導をしている私としてはね、はなはだ不本意な記事なわけです、これ(ゲフンゲフン)!中高生諸君、学校の宿題とかで使わないでね!絶対!

 あ、今、先生聞こえましたよ。誰か、生徒で小声で言った人いますね!「押すなってことは押せってことですよね?」じゃないのよ!ダチョウ的なアレじゃないのよ。まじで!まじで!やらない!いいね!

 ふう……、では本題です。


〆野式「ズルい読書感想文」作成法の誕生秘話

 先日lionさんが「読書感想文」でこうした記事をアップされました。

 大変興味深く読ませていただいたわけですが、その①を読んだ段階で、私はこのようにコメントをしました。

読者感想文の本質をついた記事だと思います!
~中略~
一度中学のとき、文庫本の裏表紙の解説しか読まないで感想文書いたら、先生に褒められました。子どもながらに何かすみませんって思いました(笑)。
~後略~

〆野のコメント


 素直に読んで思ったことを、スマホでパパっとコメントを書いたんですね。すると、lionさんからこれに対して「完全に読んでいない本について堂々と語っていらっしゃる笑」とコメントを返されて、「あ、たしかに本を完全に読んでいないな」と改めて思ったわけです。というか、実はこれ、コメントするまで忘れてたんですよね、自分がこんなインチキな読書感想文の書き方をしていたことを。コメント書きながら、「昔、そういえばこんなことあったなあ」って。

 でも、何で私こんな書き方をしていたのかなって、ここ三日間考えていました。そうしたら当時の嫌な記憶がドバドバと頭の中に流れ込んできて、それに関して、いろいろ思い出してきました。

 中学の時は私史上、最も暗黒の時代でした。私は三年間頑張って塾に通った甲斐もあって、某私立の中高一貫校に合格しました。で晴れて、中学生となったわけですが、何ていうか、いわゆる燃え尽き症候群で、全く勉強をする気をなくしてしまいました。そうするとどんどん成績が落ちて、勉強についていけなくなりました。もうこうなると学校行く気すらも失せて、ひどいときには朝家を出て、学校行かずにそのままゲーセン行って、ゲームやって弁当食ってゲームして夕方帰るみたいなこともありました(当たり前ですが、すぐに学校から家に連絡があってすごい怒られました)。

 インチキ読書感想文はその時期に生まれました。細かいことは思い出せませんが、夏の読書感想文を明日に控えているにも関わらず書いていなくって、にも関わらず「あーやるのだりぃな」って思っていて、そのけだるさだけは何となく覚えているような。

 ただ全くやらなかったらまた怒られますから、「何とかしないとなぁ」って思いながらも、ゲーセンで当時熱中していた『ストライダー飛竜(カプコンのゲーム)』をやってたと(懲りずにゲーセンにいる(笑))。こうやって余裕ぶっこいていたのは、「作文はどうにかなるだろ」という考えがあった、というのもあります。国語は、というか国語だけは私すごいできたんですね、勉強していないこのときも。今にして思えば、中学受験で磨いた国語力がそのまま生きていただけのことなんでしょうが。

 でも、その課題図書が手元にない、てか買ってない、だから当然読んでない、となりまして、どうすんの?書けないじゃん、提出明日だよ?読む暇ないじゃんっていう。たぶんですけど、その本買うお金、親からもらっていたはずなんですよ。でも全部ゲーセンで溶かしているんですよ、たぶんあの頃のバカな私は(笑)。だから、そうした事実を親に知られたくないというのもあって、「本がなくてもどうにか読書感想文書けないかな」と、「提出日明日だからできれば読まずに書きたいな」と、バカな中学生は思いました(笑)。

 で、買う金ないのに本屋に行ってとりあえず課題図書(文庫本)を手にして、「うーん」ってうなって眺めてね、バカな中学生が(笑)。するとね、バカなりにふと気付いたわけです。

 「あれ?文庫本って、裏表紙に短い文章で解説書いてあるじゃん。ここに本の内容が要約されてるじゃん。これで書けるんじゃね?」

 これで、「本買う必要もなければ読む必要もない、何て頭がいいんだオレは!」って世紀の大発見みたいになって小躍りしました。ただ当時はスマホがないので、ノートを出してその解説だけを走り書きで写して(※よいこは絶対本屋でやってはいけません)、それで家に帰って読書感想文を書いたわけです。

 で、後日先生から褒められたんですよね、細かいことは忘れましたが、「〆野なかなかいい文章書くなぁ」みたいなことを職員室で言われて、私その中学校では問題児だったから、その中学の先生に怒られはすれど褒められたこともなくて、だから珍しいことだったんで覚えていました。今にして思えば、勉強にやる気を出さない私に少しでもやる気を持ってもらおうとした先生が気を遣って褒めたのかもしれないと、この年になったらわかるのですが、そのときは全くそう考えずに、ただ「本読んでないのに褒められて、何かすみません」って、子どもながらに恐縮していました(笑)。

 ということで、このインチキな「ズルい読書感想文の書き方」を思い出し直し、この三日間で、今の〆野の技術と叡智の全て(笑)を使って、方法論としてまとめ直しここに再現したので、ご披露致します。

ズルい読書感想文の書き方(前編)

1.文庫本の裏表紙にある解説を読む。

 用意する課題図書は、文庫本です。間違ってもハードカバー本を買わないように。裏表紙の解説が欲しいので文庫本一択です。まあ、あと文庫本の方が安いでしょ。

 それで、文庫本の裏表紙にある解説を読みます。本文は読みません。本を開きもしません。すぐひっくり返して裏表紙に向かいます。これによって、本を読む時間を全カットできます。何せ、本を読むのが一番時間かかりますから、ここショートカットできるのは大きい(読書感想文とは?)。

 裏表紙には、こういう本の解説があるはずです。

「いらっしゃいませー!」お客様がたてる音にまけじと、私は叫ぶ。古倉恵子、コンビニバイト歴18年。彼氏なしの36歳。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる。ある日婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて……。現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作。解説中村文則

『コンビニ人間』村田沙耶香著(文春文庫)の解説


 芥川賞をとった『コンビニ人間』の解説です。たまたま家の本棚の目立つところにあったので、これを題材として使います。

 全部で155字。Xの1ポストくらい。すぐ読めますね。でもね、読むポイントがあるんです。そこをしっかり押さえてくださいね。

1-1 主題(テーマ)を押さえ、その主題に対する考えや傾向を読み取る。

 読書感想文の課題図書は圧倒的に小説が多いので、今回も小説を題材に用いますが、小説というものには主題があります。まず、この主題をしっかり押さえること。これはある意味、ストーリー(あらすじ)よりも重要です。たとえば『走れメロス』なら、主題は「友情の美しさ」とかね。物語のすじよりもこれが読み取れているかどうかが、国語の先生にとっては「読んでいるかどうか」の指標になります。で、この「ズルい読書感想文の書き方」では、絶対に学校の先生に「あ、こいつ課題図書読んでねぇな」って悟られないようにすることが重要なので、主題を押さえることはマストです。

 さて、今回の題材の主題は、どうでしょうか。

現代の実存を軽やかに問う

『コンビニ人間』村田沙耶香著(文春文庫)の解説


 はい!これで本を読んだも同然ですね!今回の題材『コンビニ人間』の主題は「現代の実存」です!これで読んでいないにも関わらず、たとえば「あの芥川賞とった『コンビニ人間』。読んだ?ああいう『現代の実存』がテーマの本はさ~」とかなんとか、偉そうに友達に語ることができます(笑)。ただ、「実存」って言葉は中高生には難しいので、辞書は引いて意味は確認しておきましょう。

じつぞん【実存】~中略~②(哲)いちばんたしかで根本的なものとしての人間というものの、独自なあり方

三省堂国語辞典 第七版

 実存というのは、哲学用語で、しばしば現代文や小論文でも出る術語(テクニカルターム)なので、中高生はこれを機に覚えておきましょう。まあ、簡単に言えば、「本来の人間としてのあり方」という感じでしょうか。

 主題を押さえたら、次はその小説の主題に対する考えや傾向を読み取ります。「現代の実存を『問う』」と言っています。「問う」ということは、この作品の著者は「それは問題なのではないか」と思っているということです。たとえば「日本の政治はこのままでよいのだろうか」という問いかけや問題提起があったとして、これは「このままでよいとは思っていない」からこそ問うているのです。日本の政治がこのままで全く問題がないと思っていたら、こうした問いかけは生まれません。ということは「現代の実存を問う」とは、「現代社会の人間のあり方は果たしてこれでよいのかと問いかけている」、これはそういう作品ですよと解説文は言っているわけです。そして「これでよいのかと問う」ということは「このままだとダメだよね、問題だよね」と言っているとも言えます。

1-2 読み取った主題に対する考えを主人公に重ねる。

 さて、次に主人公を確認し、読み取った主題に対する考えをそこに重ね、主人公の人物像やキャラクターを理解します。

「いらっしゃいませー!」お客様がたてる音にまけじと、私は叫ぶ。古倉恵子、コンビニバイト歴18年。彼氏なしの36歳。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる。

『コンビニ人間』村田沙耶香著(文春文庫)の解説


 主人公の名前とプロフィールがここを読むとわかりますね。これで、どんな人物像がわかりますか?パッと見、充実した人生を送っているとは言い難いですね。大金持ちでもなければセレブや貴族でもない、ましてや会社役員や社長でもありません。36歳でバイト歴18年。職業に貴賤の差はないと言いますが、18歳から非正規雇用(バイト)のままでお金もなさそうですね。その上、彼氏なしということはプライベートも充実しているとは言えない様子。それどころか、コンビニ食食べて夢の中でレジ打ち、もはやプライベートが完全に仕事に浸食されています。だから彼女にはこれしかない……。

「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる。

『コンビニ人間』村田沙耶香著(文春文庫)の解説


 さみしい話だけど、コンビニ店員であることが唯一の社会(世界)との関わりであり、そこにしか存在意義(レーゾンデートル)を感じない人物ということがこの文章でわかります。この人物像にさきほど読み取った「主題に対する考えや傾向」を重ねると、どういうことがわかるでしょうか。「現代社会の人間のあり方は問題だ」というのがこの筆者の主題に対する考えです。だとすると、この主人公は「問題のある現代社会の人間」の代表例としてここでは描かれていることがわかります。つまり、これは、この主人公の行動や生活を描写することで、「現代の人間のあり方は果たしてこのままでいいのか?」と問おうとしている作品だ、ということがわかるでしょう。

1-3 今までの情報を踏まえて、書かれていないところをできる限り推測する。

 解説文なので、当然話の全てが書かれているわけではありません。いわゆる「ネタばれ」しないように小説の重要なところは隠されています。

ある日婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて……。

『コンビニ人間』村田沙耶香著(文春文庫)の解説


 「やってきて……」、その後の話がわからないから、読書感想文書けないって?そんなことありません。新入りの男性の目的は「婚活」。主人公は「彼氏なし」の仕事人間。プライベートを第一に考える人と仕事を優先する人の邂逅。なにやら波乱が起きそうな感じですね。いや読んでないから知らんけど(笑)。しかしここから物語が急展開するので、この解説文では伏せていることはわかりますよね。
 よくドラマで、彼女が彼氏に「仕事と私、どっちが大事なの!?」って詰めるシーンってありますよね。男性としては一番受けたくない質問ですけど(笑)。つまり人生において仕事が大事かプライベートが大事か、という問題を、この二人の人物を通して、この作品の筆者は語ろうとしているのではないか?ということが推測できます。そして、「現代の実存」=「現代の人間のあり方」としてどちらが最適解なのか、ということをこれから問おうとしている、ということが、この作者の主題に対する考え方を重ねてみると推測できるわけです。「人間としてどうあるのが幸せなのか」、その問いかけに対する回答が、この後書かれていくはずです。

 はい!ここまで!解説文の読み取り、終了です!

 前編はここまで。後編ではこの読み取りをもとに、どのように読書感想文を書いていくのかについてまとめていきます。

 なお、よい子のみなさんはまちか先生の記事を読んで、「正しい読書感想文」の書き方を学んでね(笑)

〈引用図書〉
『コンビニ人間』村田沙耶香著(文春文庫)
第一版 2018年10月20日 第三刷

三省堂国語辞典 第七版 2014年1月10日 第一刷


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