自分の意見への「反論を想定する」と、あなたの小論文は客観性を帯び説得力が増す!
更新日:2024/12/12
小論文・作文指導者の〆野が普段の添削・採点指導で教えている、作文・小論文・志望理由書作成における実践的な技法をレクチャーするのが、このシリーズ【文章作成の実践】。
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(〆野の自己紹介はこちらから見られます。)
「反論を想定すること」で、あなたの小論文はグレードアップする。
小論文において「自身への反論を想定する」ことの必要性と意義
以前、下の記事で、イギリスの科学哲学者スティーヴン・トゥールミンが『議論の技法』の中で提示した、通称「トゥールミンモデル」と呼ばれる、「基本的な論証のパターン」を紹介しました。小論文とは、「自分の立てた問いに自分の意見(主張)を立て、それに理由づけをし『論証した(自分の主張が正しいことを実証した)』文章」と定義した上で、その小論文の「核」となる論証を実際的にどのように行うのか、トゥールミンモデルを使って説明しました。
(トゥールミンモデルを使った基本的な論証の仕方)
その記事内で、トゥールミンモデルにおいて、「具体例(Data)と主張(Claim)との論理的つながりを十分に担保するもの」として「理由(Warrant)」づけが成されることが、論証では必要であること、つまりそれは、この「具体例(Data)」と「主張(Claim)」の論理的結びつきをより強固にし確実なものにするために、論拠として「理由(Warrant)」が必要であることを示している、と説明しました。本日は、この続きからお話をしていきます。したがって、上掲の記事をまだ読まれていない方には、上掲の記事を先に読むことをおすすめします。上掲記事の内容を前提として、小論文における「反論の想定」についてお話ししていきます。
「反論の想定」は絶対に必要なものではないが……。
上のトゥールミンモデルの話しにはまだ続きがあります。トゥールミンは、上掲記事に示した「具体例(Data)」と「主張(Claim)」、そして「理由(Warrant)」というこの3要素について、これらを基礎論理と呼び、基本的で重要なものであり、議論に不可欠な要素であるとしています。つまり、この論証において、この3つはどれも欠かすことができない必須要素であるとしているのです。
ここで、察しのいい方は「PREP法」を思い出すかもしれません。
ビジネス文書やレポート、報告書など、論理的な文章を書くのに大変適しているとされよく知られている「文章の型」、それがこの「PREP法」ですが、ここでの「結論(Point)、理由(Reason)、具体例(Example)」の3要素は、トゥールミンモデルの「「主張(Claim)」、「理由(Warrant)」、「具体例(Data)」」の3要素に対応していると言えます。つまり、「PREP法」は、論理的な文章を書くのに必要不可欠な構成単位を無駄なく組み合わせた、最もシンプルな文章構成(型)なのだということがここでわかります。多くの文章術の本で採用され紹介されているのも、うなづける話です。
(文章の構成や「型」の基本的なお話しはこちらでしています。)
さて、トゥールミンはこれらの3つの基本構成単位の他にもう3つ、構成単位を挙げています。それが「裏づけ(Backing)、反証(Rebuttal)、限定詞(Qualifier)」です。そして、これらについては、これらを議論の中に構成単位として組み入れるかどうかは任意であるとしています。すなわち、前に挙げた3つの基本構成単位とは異なり、絶対に必要なものということではなく、その議論に応じて、つまり「自分の意見を相手に主張する上で必要だと思うならば適宜使うべきもの」として示しているのです。ですから、これに則って言えば、「PREP法」からも明らかなように、「『反論=反証』は小論文には必ずしも必要ではない」と言えるのです。
樋口式から考える「反論を想定することのメリット」
では、「反論の想定」が全く必要ないか、何もメリットがないか、というと、そんなことはありません。
みなさんは樋口裕一という小論文の先生をご存じでしょうか。「受験小論文界の重鎮」のような方です。もちろん、私が学生の頃にはもうすでに有名な予備校の先生であり、受験生時代には私も樋口先生の本で小論文の勉強をした記憶があります。また自らが小論文講師になるときには、小論文の指導法を学ぶ上で、樋口先生の本を随分と参考にさせていただきました。そういう大先生です。現在は、東進ハイスクールの客員教授や株式会社はくらん(ご自身が作られた塾の運営会社)取締役会長、多摩大学名誉教授などを務められています。樋口先生の本で勉強した受験生も多いのではないでしょうか。
(樋口裕一 Wikipedia)
この樋口先生が提唱される小論文の構成(型)、これが通称「樋口式」です。ここからは、実際に先生に「ご登場」いただき、「反論を想定することのメリット」についてご説明いただきましょう。雑誌プレジデント『心を動かす文章術 人に一目置かれる言葉のしくみ』に寄稿されている「今日から使える、頭がいい文章の『3つの型』」という記事から引用して紹介します。
樋口先生によれば、文章で必要な型は3つだけだと言います。頭括型「結論→理由」、尾括型「理由→結論」、そして4部構成「第1部『結論の提示』→第2部『たしかに~。しかし~。』→第3部『強い根拠』→第4部『結論』」の3つです。そのうち、小論文の書き方として以前から提唱されている「樋口式」はこの4部構成です。
この4部構成についてのポイントを樋口先生は次のようにお話しされています。
ここでわかるように「反論を想定する」ことによって、読み手からの「何でそう言えるの?」という疑問や異論を先回りして封じることができるため、説得力の高い文章になることがわかります。「たしかに※※という反対意見もあるだろう。しかし、○○と私は考える。なぜなら、✕✕だからだ。」というように、読み手からの反論の余地をなくすことができ、結果説得力のある文章となるのです。これが「反論を想定する」のメリットです。
(上記の「反論を想定して論じる」言い方については、下の接続詞の記事でもお話ししています。)
また続けて、それは「複数の読み手を想定すること」であり、それは「複数の角度からの『たしかに~。しかし~」で自分の説を検証すること」だとも言っています。そして文章を書く際には「10人の読者を想定しよう」と提案しています。こうすることで、その論の客観性が担保されるからです。「自分の意見だけに固執した独りよがりの論」にならないように、あえて読み手からの反論を想定するのです。こうすることで、「批判が予め想定し、それの反論に十分答えた」客観的で説得力のある論になるというわけです。
(文章を書く上で読み手を想定することが大事なのは、言うまでもありません。)
まとめ ~字数や出題内容から必要に応じ「反論を想定する」と効果的な小論文になる~
以上から、「『反論を想定する』ことは小論文に絶対に必要なこととは言えないが、必要性を感じるならばしておいた方がいいし、その結果より客観的で説得力のある文章となる」ということが言えます。実践的な話で言えば、字数が少ない問題のときには基本のトゥールミンモデルに従って書いてもよい(これは樋口先生も頭括型、尾括型というように基本構成単位でシンプルに論を提示することを推奨しています)が、字数が多い(400字以上)問題のときには「反論の想定」も加えた方がより説得力が高まるということが言えるでしょう。小論文作成の際には、「反論の想定」を適宜かつ効果的に行うことで、小論文の質を高められると言えます。
なお、トゥールミンは「反論の想定」をそんなに重要視していませんでしたが、樋口先生はとても重要視されていました。これはなぜだかわかりますか。トゥールミンは英米圏の思想家です。対して樋口裕一先生は早稲田大学第一文学部卒業、立教大学大学院仏文科博士後期課程満期退学され、フランス文学・アフリカ文学の翻訳からキャリアをスタートさせた方です。ここにヒントがあります。これ私論ではあるのですが、おそらくこれは互いの思想や文化背景の違いから生じていると思われます。基盤となる文化背景が異なると、論理のかたちも異なってきます。これは、イギリス経験論から始まった英米圏の哲学と大陸合理論から始まったフランス(ヨーロッパ)の哲学との思想的違いだと思います。英米圏の哲学では「主張と根拠」のみといったシンプルで実践的な論証が好まれますが、ヨーロッパの哲学では「反論の検証」といった審理性が重視されることが多いです。こうした「文化背景の違いによる論理の違い」については、それについて論じた渡邊雅子さんが書いた『論理的思考とは何か』という本があるらしい(しかもベストセラーらしい)のですが、すみません、仕事が立て込んでいてまだ私はこちらの本を読めていないので、こうしたことに興味のある方は、lionさんのこの本の読書感想文記事を読んでみてください(笑)。こちらではその本の要点がすっきりとまとめられていて、わかりやすいです。私も近いうちに読みます(笑)。
(lionさんの『論理的思考とは何か』の感想文記事)
(なお、樋口先生の本ではこちらがオススメです。)
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