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スウェーデンで看護学生の実習指導者

10月は4週間にわたり地元の国立大学の看護師プログラム2年目の学生二人が、私の職場である「特別な住宅」とスウェーデンは呼ばれる高齢者向け入居施設へ、彼らにとっては初めての長期実習にきました。
私は、二人の実習の担当で、普段の業務と共に彼らの課題をクリアできるように、指導し、一緒に考えていきます。
 
二人の学生は男性で、一人は電気専門職のプログラムを終えた後に、もう一人は建築学科を卒業してから看護師プログラム入った人です。
二人ともモノ相手の領域を学んだ後、専門職としてのキャリアや、将来も安定して仕事があるのかという視点と、直接人に関わる仕事の方が向いているように思う、という理由で、看護師プログラムに入ったそうです。
 
スウェーデンでの大学などの教育は学費がかからないだけでなく、一定以上の学習時間をしている人には学生生活費が国から支給されます。また、返済する奨学金も学生なら誰でも借りられるため、贅沢をしなければ学生生活が送れます。
なので、自分のやりたいことが見つかるまで、いろいろな勉強をする人は決して珍しくありません。また、一度何かの職業についた人でも、新しい仕事への再チャレンジは、難しくなく多くの人が新たなキャリアを始めています。

以前指導した看護学生は図書館司書を25年した50代の男性でした。この方は図書館司書としてキャリアが上がってくると、予算を組む仕事が増え、仕事自体の面白さが減ってきたので、学び続けることが求められ、様々な患者さんとの出会いから、新たな発見の多い看護師という仕事をしてみたくなったと言っていました。

今回の学生は、福祉や医療の現場を見たことがない学生で、私の担当する認知症ケアのためのユニットに入ってきた時には、とても緊張した顔をしています。
さらに、重度の認知症のため言語的コミュニケーションがとれない方や、自分で体を動かすことができなく車椅子に座っている方を目にした時には、言葉を失っていました。


彼らの実習で一番学ぶべきことは、「コミュニケーション」であり、患者さんへの敬意を持った、または対等な関係を示せる接し方、明確な情報を伝えられる家族への会話、ケアワーカーや医師とのチームケアを実現できるための情報提供と、問題解決のディスカッションなどです。

医療現場での一番大事な道具はコミュニケーションであり、非言語的コミュニケーションも含め適切なコミュニケーションを用いることができてこそ医療提供ができると考えています。


1日目の実習を終えた学生に、高齢者の生活の中に入ってみての感想を聞くと、とても緊張してどのように声を掛ければよいのか悩んだと言っていました。
しかし、2日目に言葉を話すことができない方の食事介助をしながら、その人の食べたいタイミングを何とか表情から読み取ろうとして、少しその人のことが分かった瞬間があったと、学生自身がほっとした表情を見せてくれました。
 
二人の学生とも20代半ばなのですが、非常に落ち着いて、状況観察能力が高いながらも、自分の感情を冷静に言葉にできており、彼らがどのように実習に取り組もうとしているのかが伝わってくる振り返りができるのは、指導担当としてとても安心して学生に関われました。

さらに、最初の1週間が終わる日には、非言語的コミュニケーションでもその人の調子が良いのか、どのような時うれしいのか、疲れているのかがわかるようになってきたと、学生が認知症の高齢者との関わりの中で、自分のできることを実感しており、自信になっていく様子がよくわかり、私もとても嬉しかったです。
 
また、2年目の学生は、患者さんの移乗スキルや、清潔介助、食事介助などプラクティスな技能取得も実習の目的です。

さすが元ガッツリ理系だけあり、二人とも技術についての理論や合理性を考え、顔の拭き方一つにしても、なぜそのように拭くのか、理由をしっかりとわかった上でケアをしていました。

そして、ケアの手技を見て学ぶだけでなく、ケアワーカーがやっている方法が最新の技術であるのか、「ケアハンドブック」というスウェーデン医療技術が常にアップデートされているサイトにアクセスし、確認をしていました。

医療技術は、新しい研究により頻繁に改定されます。例えば、静脈血管に留置する針の保存期間や、清潔処置に使用するべき手袋の種類の指定も変わることがあります。
日本では、病院単位や、看護師の持っている情報によってアップデートされていたり、いなかったりですが、スウェーデンでは、ケアハンドブックが医療、福祉現場での技術の基準になっているもので、全国どの現場でもこのサイトの指示によってやらなくてはなりません。

誰でも、新しい情報にアクセスしやすいのはとてもよいことだと思います。
 
薬の扱い方から、静脈採血など、高齢者施設での看護師が行うケア技術については全て習った学生達。
高齢者の生活を知り、看護師として何ができるのかを日々考えていた4週間、私も一緒に、担当する高齢者についてゆっくりと考え、議論することができとてもよい時間でした。


実習の指導者は、指導の教育を受けている看護師がするのですが、大学の先生は実習期間一回だけ挨拶に来るだけで、メールで指導要領が送られてきて、指導者として疑問があれば連絡がつくようなシステムです。
基本、現場の看護師と学生の自主性に任された実習期間。受け身では、実習課題がクリアできないのは、スウェーデンらいしです。

写真は私が学んだ「外国人看護師のための看護師追加プログラム」のあるカロリンスカ大学の写真を借りてきました。

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