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シリコンバレー最新トレンド ”Future of Work”がいよいよ現実へ。各社の最新動向とは?

こんにちは。シリコンバレー人事のTimTamです。

米国では、コロナワクチンの普及が進み、記事執筆現在(2021年7月下旬)では、少なくとも私の周りの同僚や友人は全員2回目接種を済ませています(fully vaccinated)。12歳から16歳についても接種許可が出ているので、こちらも急速に進んでおり、現在は12歳未満の子どもたちだけが接種していないというような状況です。デルタ変異株は米国でも感染者が増加傾向にありますが、ワクチン接種者はそこまで重症化しないなどのデータもあり、一方でレストランやショッピングモール、ディスニーランドなども人であふれかえっており、コロナ後の世界に完全に移行しつつあるように感じています。

そんな中で、これまでFoW(Future of Work)と呼ばれていた、コロナ終息後の将来(Future)に、どういう働き方で人やプロジェクトをマネジメントをしていくのか --- つまり、リモートワークを継続していくのか、オフィスに戻すのか。リモートワークといっても、州や国をまたがる状況はどうハンドルすればよいのか。うっかりリモートワークを広げても、思いがけない法的および税的な落とし穴もあり、そう簡単に何も調べずに好き勝手なポリシーも作ることができません。

そして、future、future、と言っていたら、そのfutureはもう「現実問題」に。というわけで最近は、FoWという表現は少しずつ聞かなくなり、RTO(Return to Office)というトピクスで呼ばれることが多くなりました。

別のエントリーでも述べましたが、米国のいいところは、他社情報/マーケットデータが比較的簡単に入る事。ところが、このFoWやRTOについては、なにしろ各社ともに手探り状態であり、お手本が存在しません。よって、マーケットデータなども、簡単なサーベイの結果などはありゼロではないのですが、あっても非常に限定的かつ表面的であり、詳しい状況までは分かりません。そして状況が常に変わるため、あまり役に立たない状況です。

筆者は、このRTOのコミッティメンバーであり、特に報酬関連を中心にどう扱えばよいのかについて、独自にネットワークにアクセスして情報を集めたりしてきました。もちろん、ウェブで方針を公表している企業などの情報も入念に調べました。

この記事を読めば、米国のテック企業における最新動向が理解できるほか、日本企業においても採り入れるとしたらどういう事ができ、どういう観点を盛り込めばよいのかが理解できるようになります。また日本でも新興スタートアップ企業や、古い伝統に縛られない新しいワークスタイルを模索していきたい経営者の方などには興味深い内容となっています。

内容の概要は次の通りです:大きな3つのフレームワーク、3つのモードでのそれぞれの代表的な会社はこれ、リモートワークのメリットとは?オフィスで働く事のメリットとは?ハイブリッドモードの掘り下げ、リモートワークって本当にどこから働いてもいいの?気になる給料の話、タスクフォースは誰と組むべき? 

ではレビューしていきましょう。

大きな3つのフレームワーク(モード)

大きなフレームワークとしては、1)リモートワークがメイン、2)オフィスで基本的にはみんな働いて、3)両者のあいのこ、「ハイブリッド」スタイルのこの3つです。

3つのモードそれぞれの代表的な会社はこれ

1.リモートワークがメインの企業と言えば、基本的にはネット系ハイテク企業で、自社のサービスを提供するにあたり、社員がオフィスで働く必要がない企業群です。例えば、ツイッター(Twitter)などは、早々に、社員は永久にリモートワークを継続できると発表しています。

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これと似たようなスタンスを取る企業は他に、Spotify,  Shopify, Square, Dropbox, Okta, Coinbase, Slack, Atlassianなどが挙げられます。

SpotifyのWorking from anywhere policyはこちら

Shopifyのポリシーはこちら

2.基本的にはオフィスで働くことを推奨する会社

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みなさんよくご存じのアップルがその代表格です。6月には、毎週最低でも3日間はオフィスにきて働くようにとCEOのティムクックが発表しました。なお、もともとは9月からそのようにする予定でしたが、最近のデルタ変異株の流行を受けて、10月以降に職場復帰を延期したという発表がありました。多くの会社が、3日程度、などのガイドラインを設ける中で、最低でも3日と明確にしたのは、オフィスワークを基本にしてほしいというトップの考えの現れでしょう。

他には、Netflix。CEOのReed Hastingsは、リモートワークで得られるメリットは何もない、という旨の発言をしていますので、アンチリモートワーク派。"Not being able to get together in person, particularly internationally, is a pure negative." 産業は異なりますが、Goldman SachsのCEOも、"(remote work) is not ideal for us and it's not a new normal," とリモートワークの事が好きではないようです。

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これらの企業に共通するのは、すでにコーポレートブランドも確立した企業であるという事でしょう。採用競争力が比較的弱い新興企業ほど、社員にフレキシブルな選択肢を与え、リモートワークを推奨するような傾向がみられます。

3.ハイブリッド方式の会社

このハイブリッド方式が、多くの企業が現時点で出している結論です。つまり、100%リモートワークができる仕事もあるけれど、残りの社員は、必要に応じてオフィスに出社はするけれど、大半を家で働いてもOK、というような感じです。先日出した「Googleがこれからの働き方を発表!徹底解説」という記事でも述べた通り、Googleはこのアプローチです。基本は3日オフィス、2日リモート、を基本とする、としています。ここまで読むと、あれ?アップルと似ていない?と思うかもしれません。結果的に似たような内容でも、その発表のトーンはかなり異なります。アップルは、最低3日オフィスで働くことを義務付け、ゆくゆくはオフィスで働くことに戻っていくという会社の考えを押し付けるようなトーン。一方で、Googleの場合は、週3を基本としながらも、全世界好きなオフィスで毎年4週間まで設けたり、100%リモートの機会についても応募できるようにしたりと、かなりのフレキシビリティを従業員に与えています。この違いが、アップルでは従業員から抗議が来たのに、Googleではそういう話は報道されていない事につながったのだと思います。

リモートワークにする事で得られるメリットとは?

オフィスのコストの削減、とかもあると思いますが、そんなことよりもずばり、採用にあたって、アクセスできる人材マーケットがグンと広がる、という事でしょう。リモートワークをメインにするような会社はほぼハイテク企業です。ハイテク企業は、従来企業のように労働集約型ではないため、比較的少ないヘッドカウントで業績をスケールさせる事ができるという特徴があります。そして往々にして平均年齢も若い傾向にあります。このような新興ハイテク企業で、上記にあげたような企業はかなりの知名度がありますが、やはり人材獲得競争は熾烈を極めます。シリコンバレーのエンジニアともなるとまた非常に高くつきます。なので、シリコンバレー以外のタレントマーケットにもリーチでき、かつそれが、若い世代に受け入れられやすいリモートワークを全面に押し出したカルチャーでアピールできるという利点があるのです。

オフィスで働く事のメリットとは?

ところで「最低でも週3日はオフィスに来い」というポリシーを出した、前述のアップルですが、従業員から不評のようで、一部の社員から抗議も来たようですが、今のところ、このスタンスを変更していません。経営陣が重視しているのが、「対面によるコラボレーション」。なぜ対面のコラボレーションが大切かというと、そこからイノベーションが生まれると信じているからです。

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ひょっとしたら、本音では、あの巨額を投じて建設した、バブリーでユニークな本社オフィスを無駄にしたくなかった、というのもあるかもしれませんね。

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ハイブリッドモードの掘り下げ。いくつかパターンあり

ハイブリッドモードといっても、細かく中身を見るとアプローチが幾つかあります。まずはいつオフィスに戻るのかというタイミング。米国で多くみられるのが、9月の初旬にあるレイバーデー直後から戻るというもの(Near Term)。それに対して、社員が安心にオフィスに戻れると感じれるようになるまで柔軟に対応するパターン。このパターンではオフィスに戻ることについてComfortableな人は手を挙げて、最初に手をあげたグループから徐々に戻していく、というやり方です。どこかで次のグループの募集も行っていく予定です。

また、オフィスに数日社員が戻って働くことを想定しつつも、完全リモートワークの社員を平行して作るパターンもあります。全員がオフィスに戻るのか、ハイブリッドなのか、100%リモートなのか、ではなく、ポジションにより異なる、とするものです。

この場合、最初の方で述べたSpotifyのように、社員が100%リモートで働きたいと思ったら働ける、というような、社員が主導で決めていいパターンと、あくまでも最終決定権限はマネージャーや所属する部・部門が決定するという、会社側が決定するものだと明確にするパターンがあります。

ですが・・・よくよく考えてみてください。インターン終わったばかりのジュニアな社員が100%リモートで働くなど現実的でしょうか?国に関わらず、ジュニアな社員はある程度の直接的なメンターシップが必要です。また、業務の種類によってはやはりオフィスでやってもらわないとできない業務もあるでしょう。なので、現実的な落としどころとしては、本人は希望を会社に伝える事はできるが、マネジャーと話し合って、会社側と協議の上で最終決定する、とするほうが個人的には良いのではないかと思います。

リモートワークって本当にどこから働いてもいいの?海外でも?

これについては、まず採用された国の中での話を考えましょう。米国のように国土が広く、50も州が存在し、それぞれの法律があるような状況の場合、実際に調べてみると色々な落とし穴があることが分かります。勤務先の会社がすべての州で企業として登録をしているのかどうか、もししていない州があり、そこで社員を働かせた、という事が発覚すると、会社がペナルティを支払う羽目になる事があります。あくまでも会社が認めた州での勤務、とする必要があります。

次に、採用された国と違う国からリモートワークしてもいいの?という点ですが、これはお勧めしません。まず、どの国でも働いて言い訳がない。極端な例でいうと、国交がないような北朝鮮で働けるか、というと働けないですよね。ビジネス上の取引自体が禁止されているような国も当然NGです。

厳密なはなし、その国で合法的に働くことができるWork Permitを持っているのか?という移民法上の観点もあります。旅行でシンガポールにいって、緊急対応のため、スマホからメールを返信した、というような話ではなく、その国で中長期にリモートワークするためには、その国の国民であるか、有効なWork permitが必要になります。

現在米国ではたらく日本国籍保持者が、母国である日本に帰ってリモートワークはできるかもしれないけれど、米国の労働ビザも何も持たない日本人が、友達がすむハワイの家の一部屋を借りてリモートワークする、というのは厳密にはNGです。バレないでしょ、と思うかもしれませんが、少なくとも会社がそれを正式に「認める」ことはできないのですね。

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米国から見たときに、カナダなどは陸続きで文化も似ているので、気軽に考えている人も多いのですが、やはり違う国なので、ここも注意が必要です。

また、移民法上問題なくても、その国に会社の登記が無ければ、やはり問題があります。会社としてその国でビジネスをすることを登録していない中で社員を置くことになり、その場合、雇用主として源泉徴収をする義務が発生したりするからです。

また従業員に何か問題が起きたときに、医療保険などはどうなるのでしょうか。この点も見逃せない点です。

本当にベースとなる国ではない外国に移住して、そこから中長期でリモートワークをしたい、となった場合は、その国で働く資格があり、その国で勤め先の会社が登記している事が大前提です。その上で、一旦ベースとなる国での雇用は終了し、新しい国での同じ会社の法人に雇用されなおす必要が出てきます。こうする事で、その国の水準に従って給与も支払われ、雇用主としての源泉徴収などの義務もすべて満たせるというわけです。

ですので、Googleの発表にあった、一年のうち4週間まで全世界のGoogleのオフィスで働いてもいい、というのはかなりグレーで、移民法的にはアウトなのではないかと思っています。出張でできる事は本来、ビジネスミーティングに出席する事くらいですので。

気になる給料の話

日本のような小さな国でさえ、東京の給与相場と、沖縄の給与相場は違います。物価も違います(実際に給与差を決めるのは、物価ではなく、Cost of Laborなのですが)。米国のような広い国ではなおの事です。同じカリフォルニア州内でも、北部のサンフランシスコ周辺の給与マーケットと、南部のサンディエゴ周辺の給与マーケットの間には約15%程度の開きがあります。GoogleやFacebookなどは、住む場所によって給与を変更すると明言しています。これは当たり前のように聞こえるかもしれませんが、実際に自社でやるかどうかとなると、かなり判断には慎重を期します

サンフランシスコベースのキーになるエンジニアが、給与の低い(物価も低い)テキサスに引っ越してそこからリモートワークしたい、となった場合、Google方式でいけば給与を下げる、となります。Googleのようにもともと給与が大変Competitiveで、誰しもが憧れる企業でならまだしも、それを自分の会社でやって、従業員がデモチし、辞める、となったどうするのか(日本と違い、少しでも不満があると辞めてしまう)。

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また住む場所によって給与を変更すると簡単に言っても、どう実行するのかは割と難しいです。zip code(郵便番号)ごとに給与相場が違うからです。例えばマイクロソフトのオフィスがあるシアトルエリアの相場と、郊外地域の給与相場は異なります。シアトル郊外に住んでいる人は、その郊外で仕事を得るかもしれないものの、シアトル中心地で別の職を探して転職してしまうことも考えると、やはりシアトル中心地の給与水準に併せて競争力をもっておきたいところです。このように考えると、マニュアルに給与ゾーンを設定し、細かな調整をするなどの事も考えねばなりません。

そして、そのリモートワークロケーションから、出張させる場合の出張費は会社が持つのか、なども争点になります。

いろいろ総合して、私が考える落としどころの一つは、次のようなものです。

まず、その社員は指定されたオフィスをもたない完全リモートワーク社員なのか。前者の場合は、そもそもオフィスに少しは出社する事が前提になるので、あまり遠くに住むことができないはず。もし社員の判断で遠くにすむことになってもそれは社員の判断だから、オフィス出社にあたっての交通費やホテルなどは会社では精算しない(出張費ではなく、通常の通勤費だから。因みに米国では通勤費は会社は支払いません)。その代わり、住む場所にかかわらず給与も調整しない。

でも、完全リモートワークの場合は、指定されたオフィスがないし、そもそも完全リモートワークなので、会社の要請でどこかに出社する必要がある場合はそれは出張費として精算する。給与については、どこで働くかの場所により調整する。または調整はしないが、その地域の給与マーケットと比較するので、高い給与マーケットからの転入の場合は、十分な給与水準と見なされ、将来の昇給が限定的または限りなくゼロに近づく可能性がある。

メインとなる本国を超えて、外国からリモートワークをする場合は、先に述べた通り、基本的には認めないものの、一定条件がそろった場合に限り、その国の同じ会社の法人の社員として雇いなおす。給与水準も当然その国のレートに従う。

という感じです。

幾らでも厳しいルールにする事はできるのですが、人材競争が熾烈を極めるシリコンバレーのようなマーケットでは、常に、いくらでもGenerousな会社が存在する事は常に意識せねばなりません。スジを通そうとしすぎて厳しいルールを作り過ぎれば、自分の考えやワークスタイルにあった会社を目指して人材流出がおきてしまうでしょう。

RTOにあたり、タスクフォースには誰が関わるべきか?

最後に、社員を安全にオフィスに戻すためには、人事だけではなく、会社全体の協力が必要です。そのため、タスクフォースを組むのがよいでしょう。どういうステークホルダーが必要かという一例を以下にリストアップしてみますと。。

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広報/コミュニケーション:社員へのコミュニケーション内容の検討と実行。これまでとの違い(Change management)。会社の考え方。応募制などがあるのであればその手順など。ガイダンスビデオや資料の作成。

ファシリティ・セキュリティ:日本では総務にあたるのかもしれません。社員がオフィスに戻った後に、オフィスのレイアウトどうするのか、Social Distanceは?

Legal(法務):ワクチン情報を会社で収集する事などは可能なのかとか、雇用主の法的義務はどうなのか、とか。社員の居場所を税法的観点からトラックする事は法的にはどうなのかとか。

Finance(経理):ワークモードの違いによる、旅費精算の考え方や、RTO後のホームオフィスに関連する機器購入代の精算などの考え方は?

Tax (税務):雇用主の税法への影響は?社員の居場所を税法的観点からいちいちトラックしなくてはいけないのか?など。

IT:社員がオフィスに戻った後に、リモートワークの人とオフィスで働くチームがシームレスにコールできる仕組みは?とか、社員がこれまで以上によりロケーションが多様化する中でのVPNへの対策は?とか。

HR:給与処遇の仕組み、調整するのかしないのか。またペイロール上の源泉調中の仕組みは?医療保険などのベネフィットは?HRシステム上、誰がどのモードなのかをトラックするのか?源泉徴収のLocationは登録された自宅住所に基づくのか。とか。モードが変更されたときにどういうプロセスでそれらを会社として認識するのか、など。

如何でしたでしょうか。各社とも手探りなので、また今から半年、一年もするとトレンドが変わり続ける可能性もあります。私もWatchしていきますので、随時アップデートできればと思います。

それでは、また。

最後までお読み頂きまして有難うございました。引き続き現地からの最新情報や、違う角度からの情報を多く発信していきたいと思いますので、サポート頂けると嬉しいです!