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都市国家スパルタの闇

スパルタ。古代ギリシャの都市国家。

映画『300』は、観る者に、「赤いマントと盾の最強戦士たち」を強烈に印象づけた。

今回は、そんなスパルタの「闇」の話を書く。

史実と異なる部分があってもよい。面白い作品。
イラン政府はアーリア人への冒涜と抗議したらしい。
歴史はまた別に学べばいい。

都市国家:1つの都市とその周辺地域がまとまった、小国家。古代ギリシャのものをポリスと呼ぶ。現代の都市とも国家とも異なる。「市民団」が、国家の機構を営んだり軍事を担ったりしていた。そんなポリスが、当時、大小あわせて200ほどあった。

このことを考えると、polis は politics (政治) やpolice (警察) の語源というより、起源である。

数百~数千人の規模が普通で、アテネスパルタは、例外的に大きかった。

左側:ペロポネソス半島
の下部:黄色のドーリア人の部分にスパルタ
の右上:ピンク色のイオニア人の部分にアテネ
アクロポリス=ポリスのシンボル。小高い丘状。
アテネのアクロポリスは特に有名。
引きで見るとこう。上部:アクロポリス

このすごい建造物らを見ると、頭に浮かぶのが、コロッセオ/コロッセウム(円形闘技場)だろう。

映画『グラディエーター』で、超巨大な円形闘技場を初めて見たキャラクターたちが驚くシーンがある。

コロッセオはローマのものだ。ローマも元はポリスの1つだった。周辺ポリスを征服し、帝国になった。今回のテーマのスパルタは、時系列的にそれより前の話。

ちなみに、コロッセオは、最低でも250個はあったそうだ。イベントは、ローマ皇帝の “奢り” で、無料で観れることが多かった。軽食つきの時もあった。奴隷で建設し、奴隷の命を見世物にしたのだが。『グラディエーター』でも描かれている通り、動物もショーの犠牲になった


スパルタは、紀元前6世紀までに、本土南部の覇権をとった。

ペロポネソス同盟のメインがスパルタ。デロス同盟のメインはアテネ。後者は特に、ペルシャ帝国との戦いにそなえた同盟だった。ペルシャ戦争では、スパルタとアテネは共闘した。

ペルシャ戦争の具体的な内容(一部)

テルモピュライで、クセルクセス王本隊を迎え撃つことに。スパルタは祭の最中で、全軍を投入しなかった。他のポリスも同様だった。この時代、宗教的な事情を優先することはよくあった。

レオニダス王を含む重装歩兵300人で出陣。軽装歩兵1000人もいたという説もある。スパルタの王は戦死。

300人だけで全戦を行ったわけではない。一番有力な説が「ペルシャ軍:20~30万 対 ギリシャ軍:5000~7000」。

スパルタ兵が最も活躍していたことと、テルモピュライで300人でも最期まで戦ったことは、事実だ。

次の機会には1万人で挑み、スパルタは、ペルシャの大軍を一掃した。

『テルモピュライのレオニダス』
ジャック=ルイ・ダヴィッド
※有名なナポレオンの絵を描いた画家

その後、本土全体の覇権をめぐって、スパルタとアテネは対立(同盟も別であったし、元から仲良くはなかったが)。→ペロポネソス戦争。同盟ポリスたちも巻きこまれた。

スパルタが勝利。紀元前5世紀。これが、スパルタの全盛期だった。

スパルタは、その後、紀元前4世紀に衰退。テーベに覇権をとられた。


テーベは、ペロポネソス戦争後に台頭したポリスだった。スパルタを破り、ギリシャの覇者となった。北方へ進出し、マケドニアとも戦った。

テーベには、「赤子を捨ててはならない」というルールがあった。

父親が非常に貧しい場合のみ、子どもが生まれたら(ただちに)役所に引き渡すことが、許されていた。必ず育てることを条件に、里親は子をもらえた。成長後は、奴隷にしてもよかった。養育にかかった分を労働力で回収するイメージ。


スパルタ人はドーリア人である。スパルタとはポリスの名前。

彼ら彼女らには、スパルタが栄える前から、「支配身分」と「被支配身分」を強く分け隔てる性質があった。

スパルタの人々は、少数の市民・多数の奴隷・その他の半自由民と、厳しい階級分けをしていた。特殊な軍国主義体制(リュクルゴス制)を用いて、市民が、奴隷や半自由民を支配や管理していた。

「城壁は人なり」という考えから、他ポリスにはあったような城壁を築かなかった。肉の壁……

スパルタは鎖国状態だった。他国との交流が少なく、アテネのような文化(学問や芸術)が育ちにくかった。関わるのは、戦の時ばかり。

スパルタは陸軍主体だった。


アテネ人はイオニア人だ。

アテネにも、奴隷制はあり、防衛にあたる市民(成人男性)がいた。

しかし、彼らは市政に参加することができた。民主政だ。下層民にも発言権があった。ここは、スパルタとは、大きく異なる点だった。

アテネは海軍主体だった。


スパルタはアテネに勝ったが、その背景には、ペルシャ帝国から資金援助を受けていた事実があった。

スパルタにアテネを “潰させた” 後、ペルシャは一転、テーベやコリントに資金援助をするようになった。要するに、ペルシャは、小国家たちに潰し合いをさせた。スパルタ人は、それに、まんまとひっかかってしまったのだ。

そうやって、スパルタはテーベに負けたのである。戦闘力自体は、間違いなく、最強だったのに。

「強さは駆逐しない」自然界はこのようにできている。人間にも、似たような部分があるのかもしれない。


「スパルタはどこでも賞賛されたが、どこでも模倣されなかった」という言葉がある。

スパルタ重装歩兵団は、特殊な訓練により、生み出されていた。これが、有名な「スパルタ教育」である。

このイメージは事実と合致するということだ。

男性は全員、7歳から兵士教育(アゴゲ)がはじまる。年齢でグループに分けられ、兵舎での生活を強いられ、厳しい訓練を長年受けさせられた。17才頃になると、年上の男性市民と、同性愛の関係をもたされた。20歳で終わりなどと言いたいが、そうではなく、訓練内容はさらに厳しくなる。卒業は30才。以降は、結婚して子をもうけるよう、勧められる。

同性愛の推奨は、「愛を知る者は勇敢に立ち向かう」このような考えからきていた。肉体にではなく、魂に恋をするのだと。おそらくは性的な関係だったと思われるが、それだけではないと。「近所のおじさんたちは、みんな、お父さんのようなものだ」方向性的には、こういう価値観を抱かせたかったのだと思う。運命共同体。チームワーク。

※男性の同性愛に関しては、成長の自然な側面という感じで、他のポリスでも普通のことだった。


読み書きはカリキュラムに含まれたが、学問といえば、それくらいだった。

プラトンやアリストテレスは、理想的な教育形態だとして、スパルタ教育を賞賛していた。

アリストテレスは、「女性の身体と心は、決定的に、男性のものよりも不変に劣っていることが、科学的に証明できた。女性は、奇形の男性であり、知的推論能力に欠ける」と言いはなった人物なので、不思議ではない。

訓練 × 男性専用など、まさに、彼が称えそうなもの。

こちらもアリストテレスの言葉

知識や知恵は、生き残ることと、他人を出し抜くことが教えられた。盗み(特に食料の盗み)の訓練があった。窃盗が成功した場合は褒められ、捕まった場合は叱咤された。

生きたキツネを盗み、マントの下に隠して運んだ少年兵が、キツネの牙と爪に腸を引き裂かれ死んだという。

このイメージは物語用にヒロイックに盛られている、と言えるかもしれない。大人たちに窃盗を強いられた少年がキツネに腹を裂かれて絶命。現実はこうだ。

「無駄な行動」は全て禁止だった。たとえば、話し方。少ない言葉で多くを表現するよう、求められた。

スパルタ軍が、よそからの長文の連絡に対して、「if」だけで返したことがある。絶対に伝わっていなかっただろう。笑

ちなみに。アゴゲは、テーベに制圧されると共に、消滅した。


スパルタ人の普段の生活は、倹約的であった。共同食堂での食事は、大麦粉でできた何か・チーズ・イチジクなど、質素なものが基本だった。飲み物はワインを飲んだ。

狩りはしたが、農業には熱心でなかった。

国家の利益より自分の欲望を優先してはならないーー。男性戦士たちのみならず、全体が、こういう思考だった。


スパルタの母親たちは、戦死した息子の遺体を観察し、向こう傷を見つけると誇り、背中の傷を見つけると恥じたという。戦から逃げた息子に激怒し、殺害した母親までいたらしい。

洗脳の脅威を感じる。

母から子への愛を上書きできるのなら、世の中の全てを上書きできる。


奴隷以外での話だが、スパルタの女性は、財産を所有することができた。多くの戦死した男性の代わりに、裕福にもなれた。奴隷に財産を分け与えたくない、女性だとしても市民に。このような考えが関係したと、推測される。

最終的に、スパルタの土地の5分の2は、女性による保有となった。それだけ、男性が亡くなったということだ。

スパルタの少女たちは、他のポリスでは学ぶような、料理・掃除・針仕事を学ばなかった。家事は、奴隷の女性たちが行うもの。そう、ハッキリと決められていたからだ。

少女たちも、やはり、肉体を鍛えるよう指示されていた。女性はアゴゲには入らないが。女性は、読み書きだけでなく、歌・楽器・踊りも学べた。

市民の妻には、婚外関係をもつ自由も与えられていた。戦士をたくさん生んでほしいからだと思われる。だって、夫は、戦場へ行ったきり帰ってこないのだから……

スパルタの女性像。明らかにフィジカルを強調。
フィジカルと言っても、女性特有のそれではなく。

スパルタのやり方を知り、さらに他のポリスと比較することにより、何事もバランスが大事なのだろうなと感じた。

女性に権利や自由があるのも、男性が戦死しすぎてそれらがまわってくるだけーーというのも、悲しい話だ。