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多様性世界一 マダガスカル

今回は、マダガスカルの話。

『星の王子さま』との関連から、環境破壊の影響について、生き物の進化の話、今年5月に出た最新の研究結果まで。

長くなりそうだが、動物好きの人以外も楽しめるように、工夫して書こうと思う。


作家とパイロットとして有名なサン・テグジュペリ。第二次世界大戦中も、フランス軍からは教官として召喚されたのに、実際に飛ぶことを志願。しかし、戦闘隊や爆撃隊は希望せず。偵察隊として参加。

1935年 エジプトに “緊急着陸”

彼の作中には、当時の世界情勢のメタファーと思しきものが、複数登場する。アフリカやマダガスカルに生えるバオバブという植物は、「早めに抜いておかないと星を占領する植物」として書かれている。3本のバオバブは、その頃の 日独伊 の比喩であるとも言われている。

バオバブ (左)
巨木はそびえ立つビル群のメタファーにも見える。
人類の過剰な発展を懸念しているかのよう。

2018年に『星の王子さま』とのコラボとして、バオバブの苗木を販売したSONYに、ファンから批判が殺到。少し考えればわかりそうなものだけど……。企業が、著作権保護期間の満了にとびついてしまったか?

それはさておき

作中に、「ゾウでも食べきれないほどバオバブの木は巨大」という表現も出てくる。現実の世界でも、異常気象により雨量の減ったアフリカで、水分を求めるゾウたちがバオバブを食べているという。(成長したバオバブは10トンもの水を蓄える)

ここ十数年の間に、アフリカのバオバブは、大量枯死している。バオバブの長い寿命を考えると異常なことだそうだ。マダガスカルのバオバブも、3種が、絶滅の危機に瀕している。


マダガスカル共和国 首都アンタナナリボ
アンタナナリボ市内

マダガスカルは世界で4番目に大きな島国。
(面積は日本の1.6倍)

先史時代に、アフリカ大陸から分離。
8800万年前に、インド亜大陸からも分離。

生物種は90%以上が固有種。
植物種は70~80%が固有種。
※他にはどこにも存在しない種

“ 8番目の大陸 ”
“ 自然学者にとっての約束の地 ”

ワオキツネザル
(マダガスカルにのみ生息するキツネザル下目の一種)

アダンソニア・グランディディエリ
(バオバブの一種)

マダガスカルでは、2000年から2010年の間にも、615種の新種の動植物が発見された。
(哺乳類41種、無脊椎動物42種、魚類17種、両生類69種、爬虫類61種、植物385種)

この中に含まれる ベルテネズミキツネザルは、体調10cmで世界最小の霊長類となった。

ベルテネズミキツネザル (すでに絶滅危惧種)

新種の多くが、見つかってすぐに「絶滅危惧種」入り。これだけなら、安定した数がまだいないからとも言えるが。他の多くの動植物も、絶滅してる。主な原因は森林破壊。タヴィと呼ばれる焼畑が、自然林を減らし、河川への土壌流出をまねく。

焼畑。マダガスカルの人々にとっては伝統的な農耕
土壌流出した川

政治的な原因も。2009年のクーデター後には、混乱に乗じて、犯罪集団が希少樹木を大量に違法伐採。密輸先はほとんど中国で、高級家具や楽器作りに使われるらしい。←リンクは情報元


↓マダガスカルの動植物の写真が見やすい↓


マダガスカルが、希少な動植物の宝庫である理由・生物多様性ホットスポットである理由は、以下のように推測されている。

①独自の進化をした。大陸から分離し島となり、長い間、他の生態系から孤立したため。

②多様に進化できるニッチ(生態的地位)が空いていて、※適応放散できた。

③大型肉食獣が出現する前に孤立したため、さまざまな小動物が捕食されずに残った。

適応放散とは:生物の進化現象のひとつ。単一の祖先から多様な子孫が出現すること。


オーストラリアと有袋類を見てみる。

新たな哺乳類が出現する前に大陸から分離

内部で新たな哺乳類が出現することもなく

哺乳類はほぼ有袋類だけで多様化
(コアラなど約140種類)

有袋類の化石は世界中で見つかっている。オーストラリア以外では、後続の大型肉食獣などとニッチを奪いあった結果、有袋類が絶滅したということ。孤立(と言っても、オーストラリアは広大だが)は、有袋類の存続と多様化に関係ある。

有袋類のフクロネコ
(豪大陸部では絶滅。近代化や違法な狩猟も原因)
有袋類のフクロオオカミ
(大型肉食獣かつ有袋類というニッチを占めていたが絶滅。野生化したイヌ=ディンゴの影響など)

同じことが、マダガスカルの原猿類(キツネザルなど)に言える。孤立したマダガスカルでは、真猿類(例:マントヒヒやニホンザル)が出現しなかった。競合せず、サルは原猿類だけで多様化した。


最後は、まだ解明されていない話を。

2010年の『Nature』に、このような研究が掲載された。

マダガスカル島の哺乳類の祖先は、アフリカ大陸から丸太などの漂流物に乗って、やってきたのではないか。
海を渡ってきたのではないか。
まるで、アニメ『マダガスカル』のように。
何十年も前から唱えられてきた説だが、コンピュータ解析により、立証へと一歩近づいた。
「アフリカ・マダガスカル間にかつてあった陸橋を渡った」とする説もあるが、遺伝学と生態学から考えると、漂流説の方が正しく見える。


こちらは、2023年5月『Biological Reviews』で発表されたばかりの、研究だ。

コンピュータ解析の次は、最新の遺伝子研究。

マダガスカルの哺乳類・爬虫類・両生類の祖先は、そのほとんどが、アフリカからの漂着組だったと改めて示唆された。
海を “いかだ” で渡った。陸上生物が。!
いつかは橋のような部分があり陸地を渡ってきた、という説は再度否定された。

モザンビーク海峡を漂流して、アフリカ本土からマダガスカル島へ着くには、30日ほどかかるそうだ。……本当に、生きたままたどり着けるものなのか。

提唱者は、「アフリカから南米などのもっと長い距離の海を、漂流物とともに渡った動物はいる」と主張した。さらに、「漂流物はかなり大きいものもある」と巨木の流れる映像を示した。ーー食べれるものが付着していて、小さな動物にとっては、移動する仮宿のようなものだったと言いたいのかもしれない。

マダガスカルの生き物のサイズが小さいのは、だからなのだろうか。近々、この説が完全に認められ、マダガスカルの謎は、またひとつ解き明かされるかもしれない。