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「魔法使いのハーブティー」 有間カオル


「その願いが本当に心から望むことなら、あの月を引き寄せるぐらいの強い意志を持つんだ。魔法は自己の意思をコントロールする力だよ。強い意志が勇気と行動を呼び起こす。人は行動しなければ、指一本動かせないんだ」


  


「魔法使いのハーブティー」 有間カオル




ハーブは、「魔法」だと思います。


ハーブの香りは、一瞬にして気持ちを安らげてくれます。


ラベンダーやカモミール、ローズマリー・・・


見ているだけでも癒されるのですが、その秘めたハーブの力は体が欲していた自然の癒しを身近に感じられて、気持ちが太陽の方へ向くように立ち直ります。


この物語のヒロイン・藤原勇希(14歳)もハーブに力をもらいました。ハーブの優しい香りを纏ったオーラを醸し出すマスターに救われました。


勇希は7歳のとき、シングルマザーであった母親を亡くしました。それからは親戚の家を転々とします。


今は山口県の次男の伯父の家に身を寄せていますが、夏休みに伯母の実家に子どもたちと帰省することになるので、その間、横浜の長男の伯父の家に預かってもらうことに。(承諾は得られていませんが・・・)


先妻の子の長男とその下の兄弟姉妹とは半分しか血がつながっていなくて、長男は独身で、少々変わり者らしく、親戚同士のつきあいもまったくないと聞いています。


夜行バスを降り、横浜の伯父の元へと向かう勇希。坂道が多い街。坂道が余計に不安を募らせます。


すると


アスファルトやコンクリート、そんな街のにおいが一瞬変わったのです。


林や森とも違う、花? いや草といった方が近い? 今まで勇希が生きてきて経験したことのない複雑な香りでした。


その香りの層はどんどん迫ってきて、伯父の住所に着いたときには、その香りの正体がわかりました。

魔法使いのハーブカフェ

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「この香りの正体はハーブだったんだ」、「伯父はカフェのマスターなんだ」とわかった勇希。


「追い返されないように」と願いながら、マスターに声をかけました。

「初めまして、藤原勇希です。横井町のおじさんから連絡がいっていると思いますが、夏休みの間、お世話になります。どうかよろしくお願いしす。」


驚いたマスター、あせる勇希。


どうしてもここに置いてほしいため、深く頭を下げ、いい返事が聞けるまで頭を上げないでいるつもりでした。


「とにかく落ち着いて」 とマスターはラベンダーティーを淹れてくれました。

「ラベンダーティーだよ。心が落ち着くから」


ラベンダーティーを飲み干すと、安心したのか魔法にかかったのか、昨夜、不安で一睡もできなかった勇希は、そのまま眠ってしまったのでした。


なんとか伯父の家で預かってもらうことになった勇希。ただし、伯父さんからこう言われるのです。

「この屋敷(いえ)で暮らすにあたって、守って欲しい三つの約束があります」



1つ エコな暮らしをすること。(節電・節水など)

2つ 畑とカフェの手伝い

3つ 魔法の修行をすること



「魔法」と聞いて、勇希の頭には???が点滅しましたが、そんなに難しいことではなく、何をするかというと、過去ノートというものを書くことでした。

「それは過去ノートです。これから毎晩寝る前に自分の過去を思い出して、
それを日記のようにノートに記録していってください」


しかし


勇希にとって、それはとても難しいことでした。


過去を振り返ることは、とても辛いことだったのです。とくに母と死別して
からは、親戚の家をたらいまわしにされ、安らぐときがなかったからです。


一文字も書けず、何日も過ぎてしまう勇希。


あるときに、ふと思い出します。それは、小学校に上がった頃に、見知らぬおじさんから掛けられた言葉。

━ 魔法使いがひとつ予言しよう。
十五歳になったら・・・・・・。


はっきりとは思い出せない言葉。最後のフレーズがどうしても見つからない言葉。


どういう意味なのかわからないまま、過去ノートから顔を上げました。(これらの謎は物語の最後にわかります。)


ハーブの修行に励む勇希は、それからマスターを先生と呼び、毎朝、先生と
ハーブ畑に行ってハーブを収穫しました。


緑の香りは清涼感をもたらし、朝の清々しさと相まって、しだいにハーブの
魅力にとりつかれていきました。


先生はとても優しく、たれ目でふにゃりと笑い、よく勇希の頭をポンポンと優しく撫でるように叩きました。いつしかこのハーブの空間に全身が癒されていました。


カフェの手伝いといっても、お客さんは常連のマダムひとり。(経営が成り立っているのか心配な勇希。実際経営はハーブの商品で成り立っている様子)


でも


勇希と同じように悩みを持った人たちが、ハーブカフェに来るようになるのです。


元・弁護士のおじいさん、

大金持ちの家の息子の小学生、

超イケメンの青年。


一見、何の悩みやコンプレックスがあるのだろうかと思われる人たち。


性格がかなり個性的で、一筋縄ではいかない人たちの深刻な悩み。


マスターと勇希は、ハーブやハーブティーの力でそんな人たちに魔法をかけていきます。(といって本当に魔法をかけるわけではありません。)


先生のお人柄、ハーブの知識、ハーブの潜在的な力、勇希の純粋さ、一生懸命さ、それらが集結して、悩める人たちを癒していくのです。


あるとき、それは
不意におとずれました。


勇希が絶体絶命のピンチに陥ります。


そんなときに勇希を助けたのが、先生はじめ、一筋縄ではいかなかった人たち。


先生は勇希に語れない秘密がありました。
最大のピンチに絶望しかけた勇希に、先生は!


一体どうなるのだろうと、ハラハラさせられたラスト。


今まで、カフェに集う悩める彼ら(一筋縄ではいかない勇希にとって印象の悪かった人たち)が、一気に良い人たちに変わります。


これもハーブの魔法?
月のご加護?


とても印象に残った言葉がありました。
先生が勇希に語った言葉です。

その願いが本当に心から望むことなら、あの月を引き寄せるぐらいの
強い意志を持つんだ。

魔法は自己の意思をコントロールする力だよ。

強い意志が勇気と行動を呼び起こす。人は行動しなければ、指一本動かせ
ないんだ



先生は一貫してふにゃりと笑い、ハーブの香りとともに勇希をあたたかく包み込みました。


実は先生は〇〇〇〇だったんですね。
実は先生も〇〇〇〇だったんですね。



最後にすべての謎が解け、先生は勇希に秘密を明かします。小学校に上がった頃に、見知らぬおじさんから掛けられた言葉の謎もわかります。勇希は未来へと歩き出します。


この物語を読んでいると、こんな優しいマスターがいるカフェに行ってみたくなりました!


物語にずっと流れているハーブやハーブティーの魅力。

「ラベンダーティーにはカフェインが入っていないし、リラックス効果や
精神を安定させる効果があって、不眠に効くから、寝る前のお茶にいいんだよ」
「ラベンダーは鎮静効果があり、リラックスティーの定番ハーブ。不安な時や憂鬱な時に飲むといいんだ。きっと悲しみにも効くよ。ほんの少しだけね」
「ローズヒップに、その日の状態に合ったハーブをブレンドしているんだよ。夏の季節に合わせて美白効果のあるジャーマンカモミールを少しプラスしている」
「これはビタミンの爆弾というあだ名を持つローズヒップのお茶。数種類
のビタミンを含んでいるの。特にお肌に効くビタミンCはレモンの約二十倍あるのよ」
「ペパーミントとネトルのブレンドティーです。ペパーミントは胃腸や胆嚢、肝臓の働きを促し、ネトルは豊富な栄養素で荒れた胃の粘膜を保護します。まだ熱いので、冷ましながら味わってください」


この物語を読んでいると、ハーブティーが飲みたくなります。


いや


何度か読みながら、ハーブティーを淹れて飲みました。


ハーブの好きな僕は、ずっとこの物語が続いてくれたらと月に願いました。


先生や、勇希のこれからを見てみたい。


続編ができることを祈りつつ・・・
ほっと一息ハーブティー。


レモングラス・ミント・ハイビスカス・ローズヒップのブレンドティーを
飲み干しました。ふにゃり。




【出典】

「魔法使いのハーブティー」 有間カオル メディアワークス文庫



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