プロダクト開発で、なぜ深い共感が重要なのか

この記事の要点

・共感には「浅い共感」「深い共感」があり、ユーザーインタビュー などデザインリサーチの際は「深い共感」の態度が求められる

・「ユーザーに弟子入りする」ということは自分の主観を排除することで、「追体験」が有効

・まず「浅い共感」を脱しよう

・「深い共感」は対人関係全般に役立つ

なぜ共感なのか

スタートアップ経営・デザインをしていて、特にプロダクトが社会に受け入れられるまでの間は「顧客を理解すること」が最重要だと思います。毎日のように顧客と関わってプロダクトを改善することがメインタスクです。

そこで、共感がデザイン(顧客開発)の土台になります。ユーザー理解の解像度をあげるためには、正確に言うと深い共感力が必要だと思います。

では、深い共感とはどのようなことでしょうか。

浅い共感

プライベートでは浅い共感で十分

共感の定義ですが、私はずっと誤解していました。

普段から、なんとなく人と話していて、たまたま自分と同じことを考えていた時に「わかるー!」みたいな感じで同意をする。これが私がいままで共感と思っていたものでした。

それで、自分がそこまで関心のない話には「うん」「わかる」「たしかにー」などそれなりの温度感で会話を進める。

これはプライベートで行う分には普通にいいと思いますが、ユーザー理解を行う上では「浅い共感」になります。

この態度でユーザーインタビューに臨んだとしましょう。

デザインリサーチで浅い共感態度で臨むとどうなるか

「浅い共感」状態は、「ユーザーの立場でものごとをみていない」状態なんです。

例えば、ユーザーインタビューの際に自分の仮説・共感できる発言が出た時に態度が変容してしまうとかがわかりやすいかなと思います。

発言例)「そうですよね!」「あ、やっぱり」「わかりますわかります」「実はこんな機能を考えていて」「実は私もそう思っていて」
態度例)声のトーンがあがる、食い気味で共感や質問を畳み掛ける、話を遮り自分語りを始めてしまう、相手の行動や発言を自分に寄せて考えるので解釈がそもそも間違っている・決めつけになっている

ちょっと大げさに書いているところもありますが、概ねこういう発言や態度になってしまう場合があります。

サービスを作っているとかなり機能や仮説に思いもある分、誰でもこのような経験はあるのではないでしょうか。

これはインタビューのアンチパターンである「誘導」を発生させてしまいますし、「開発者」対「利用者」の関係になっています。

深い共感

では、深い共感とはなんでしょうか。これは簡単にいうと「相手の立場ですべてのものごとをみる」ということです。そこに自分の主観は関係ありません。

・もし相手と同じ環境で育っていたら
・もし相手と同じ時間の使い方をしていたら
・もし相手と同じ友達に囲まれていたら
・もし相手と同じ感性を生まれつき持っていたら
・もし相手と同じ体験をしていたら
・もし相手と同じ会社で働いていたら
・もし相手と同じ困りごとを抱えていたら

このようにすべて相手の立場に置き換えて見ることです。

ユーザビリティテストの本で「ユーザーに弟子入りする」と書かれていることがありますが、インタビュー・ユーザーテストにおける理想は「自分と相手(開発者と利用者)」の関係性ではなく「相手の側に開発チームがつく(インタビュアーも利用者サイドに立つ)」という関係性だと思います。

参考記事)インタビュー調査の極意「ユーザに弟子入り」しよう

「ユーザー目線」と簡単にいいますが、これはかなり難しい技法だと思います。冷静に考えて、現在の環境も、育ち方も、コミュニティも違う他人からの目線を、思い浮かべることが完全な理解です。果てしなく難しいですよね。

「追体験」をうまく使う

では、どうすれば深い共感ができるのか。それは文脈を一緒に追うこと、を地道にやっていくしかありません。

具体的には、一つの発言や行動の文脈を掘り下げる、などがそれに当たります。

UXデザイン会社STANDARDの鈴木健一さんによると、「WHY以外の4W1Hを用いる」をそのコツとしています。

主観を入れずに、淡々と追体験をしていく。それがユーザーへの弟子入りであり、深い共感をする上で重要な技法だと思います。

浅い共感になっていないか?を判断するチェックリスト

いきなり深い共感にいくのは難しいと思うので、まずは浅い共感から抜け出すことを目指しましょう。

例えば、以下のような態度をなくすことから始めてみるのはどうでしょうか。

・相手の発言が自分の仮説通りのものだったり、いいインサイトが得られた際に、声のトーンが上がる(主観が入っている状態を表す、バイアスをかける態度)

→ユーザーに弟子入りして、追体験をしているはずなので、自分の仮説通りの発言や行動をしたことが理由でテンションは上がらないはずです。

追体験しているなかで、「この相手のこの状況だったらこんな風に困るだろうな〜つらいな〜」という共感の結果「あ〜なるほど〜」と漏れ出てしまう。これは深い共感だと思います。

・食い気味で共感や質問を畳み掛ける(=もうこれでインタビュイーの発言は終わりという、決めつけの態度を表す)

→話しが途切れるまで待つ。途切れて沈黙の時間が流れても、まだ画面を見ていたり、考えている様子の場合は、沈黙を怖がらずに話し始めるまで待つ。(ただしこれ以上掘り下げる優先度に値しないと思われる箇所だったりする場合は、話が途切れたタイミングなどで場面を転換させていい)

・自分語りや開発秘話を始めてしまう(=誘導、バイアスの醸成の態度)

→自分たちの話をする効用は大抵の場面でない。

※あるとしたら、その話をすることで、相手が話し始める場合のみ、有効である。(『ユーザーインタビューをはじめよう』 より)

インタビューを受けてみるとわかるが、インタビュイーは開発秘話に興味はない。ex.「実はこれ考えてて」「実はこれ実装中でして」「実はこれやったのですがあんまりうまくいかなくて」など

・相槌が食い気味だったり、相手の話のテンポに合わなくなる(=主観が入っている状態、決めつけの態度)

→相槌のタイミングが微妙だと、興味がないのがわかってしまうというのもあると思います。

ちなみに『ユーザーインタビューをはじめよう』には、「うんうん」を連発するというのはインタビュー初心者にとってはラポールを築くために有効、と紹介されていました。全く頷かないよりはマシなので、不自然にならない程度なら気にせず連発していてもいいのかもしれません。

深い共感は対人に関わる全般で役立つ

深い共感はデザインリサーチだけではなく対人関係すべてで役立ちます。

営業や根回しで

例えば自分と全く違うコミュニティの人がビジネス上ステークホルダー(営業先やユーザー)になる場合もあると思います。そんな時も、その人の周りの文脈を追体験することで、「こんな時にこう感じるだろう」と考え、適切なコミュニケーションを行うことができます。

採用で

深い共感をしてくれる人が入り口であれば、その会社に馴染みやすいなと思うはずです。

組織で

組織作りでもメンバーの立場に立つ、深い共感を通じた対話で文脈を理解することで、トラブル回避や適切な人事設計ができるかもしれません。

前のエントリーで書いた組織に悪影響をもたらす無礼さも、共感スキルを高めることでだいぶ改善できそうです。

関連記事)データから見る、無礼さがもたらす組織への影響

パッと思いつくだけでもかなりメリットがある共感スキル。自分も苦手なので、高めていきたいなと思います。

(余談)なぜカウンセラーが自分の話をしないのか

話を聞くプロであるカウンセラーも、自分の話はあまりしないようです。

基本的にはクライエントさんが話をし、カウンセラーはそれを傾聴していくのがカウンセリングだからです。カウンセラーがおしゃべりで、ずっと話し続けたらクライエントさんは自分のことが話せなくなります。またこれは精神分析的な文脈からですが、カウンセラーはクライエントさんの内面を正確に映し出すスクリーンにならなければいけません。人は鏡を見て、自分の姿かたちを確認するのと同様に、クライエントさんはカウンセラーを見て、話をし、そこに自分の内面を見出し、発見していきます。(「カウンセリングでカウンセラーが自己開示をすることについて」心理オフィスK)

心理学では同じ体験をしたことはないが、相手の話を聞くことから共感を行うことを、「共感的理解」というらしいです。これがこの記事で「深い共感」と呼んでいたものに近いなと思いました。

心理学はデザインリサーチでも応用できるところが多いので、けっこう調べると面白いです!

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