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海のまちに暮らす vol.34|カレーを食べましょう

〈前回までのあらすじ〉
小さな犬をみると思い出す。

 先日は報国寺という、美しい竹林のあるところへ行った。境内の様子は写真で何度も目にしたことがあるのだけれど、実際に青竹の間に敷かれた石舗道をこつこつと歩くのは良いもので、朝濡らされたばかりの玉砂利から雨の匂いが盛んにたちのぼっていた。9月が見頃だというのも来て初めて知った。そのわりに空いていて、空いているのがやっぱり好きだと思う。

 竹といえばほっそりした背の高い印象だったのが、近寄ってみると案外太く、どっしりとした厚みのある円柱なのだった。そういえば以前、深夜のサバンナ特集で放映されていたキリンの細長い首も、実寸にして電柱ぐらいたくましい筋肉の塊だったのを思い出す。その長い首を互いに叩きつけ合うようにして雄同士が争うので、人に当たれば即死級なのだという。

 竹の幹(幹というものが竹にあればという話だが)には、よくみると文言が刻まれていた。鋭く尖ったもので表皮を削ったようなそれらは、気がつけばあちらこちらにある。鎌倉奥地の閑静な竹の庭で、湧き上がる言葉というのははたして一体どんなポエジーなのだろうと思いつつ、目を通すのだけれど、そのどれもがもれなく紹介をはばかられるような物騒な語句、あるいは完璧な罵詈雑言の類なので、なにぶん攻撃的な趣である。淡い浴衣の女性が淑やかにポーズを決める傍ら、一面に淑やかならざる竹の雨。ピントが女性だけに合いますように、など思う。

境内から見える山中に洞窟のような暗闇があり、そこへ言ってみたかったけれど、入れないらしい。歩くと石でできた品のよい池があり、鯉か金魚かどちらかわかりかねる美しい魚が泳ぐ。小さな地蔵のうち頭に苔が生えているものがあり、モヒカンのようで意図せぬロックを拝観する。感想を言い合いながらバス通りへ出る。

 そのあとにカレーを食べましょうということになり、若宮大路の近くで人の列に並んでいる、人の列に並ぶのは久しぶりかもしれない。店の敷地内に特大のツル性植物が茂っている。先端には茶色い毛むくじゃらのテニスボール状の実が下がっていて、これはなんと野生のキウイなのだった。数えても百近く立派なキウイが実っているので、帰ってきた今でもあれは一体どういうわけだろうと考えている。考えられるものを、いくつか以下に挙げる。

①キウイを使ったデザートメニューを提供している
②店主がキウイを鑑賞することを生活のよるべとしている
③カレーのルーを仕込むのに大量のキウイが必要である
④キウイを飼料として消費する何らかの愛玩生物:ペットを飼っている
⑤どこからか混入し、知らぬ間に大きく実った移入キウイである
⑥あれはキウイではない別の何かであり、不用意な詮索は身の危険を招きかねない

 こちら、理由のわかる方はぜひ教えてください。個人的に興味があります。カレーは米の量が豪勢で、普通盛りでも実に550グラムあるらしい。和風な味付けで汗をかきながら食べた。寒い時期の人の少ない鎌倉が好きなので、また行きたいと思う。


vol.35につづく


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