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夜逃げ、パニック障害、仕事ゼロ……どん底の作家が売れっ子として復活するまで

こんにちは、フリー編集の元塚Bです。
現在、累計120万部突破のハード・バイオレンスシリーズの最新刊『もぐら新章 昴星(ぼうせい)』が発売中の矢月秀作(やづき・しゅうさく)氏。
今回は、そんな矢月氏が売れっ子作家となるまでの波乱の日々をご紹介します。
(前回はこちら)

編集者時代から作家デビューまで

父親の事業の失敗から、東京のボロアパートへと逃げ込んだ矢月一家。
何の保証もないどん底の暮らしのなか、家族4人のうち最も若く、まだ10代だった矢月氏の妹は書店でアルバイトを始め、徐々に生活を立て直していきます。
それがきっかけで出版業界とつながりができ、様々な変遷を経て、27歳の頃、矢月氏も小さな出版社に就職
そこで小説誌の編集を任されることとなります。
編集部、といっても、実質編集者は矢月氏ひとり。
しかも、連載原稿を落とす作家も多く、矢月氏自らが小説を執筆することもありました。
代替原稿を執筆する中で小説のいろはを実戦で学びながら、矢月氏は新人賞の公募にもチャレンジしていきます。
受賞に至らずとも最終選考に残るなど、手ごたえを感じ始めたころ、矢月氏は出版社を退社して独立。
30歳を迎えた頃、ついに『冗舌な死者』にて、初の書籍を刊行します。

代表作の誕生、そしてパニック発作

作家デビューを果たすも、その後は短編の連載程度。
なかなか次の一冊につながりません。
エロ記事の執筆や漫画原作、さらにはパチスロなどで食いつなぐ日々。
そんなある日、中央公論社(現・中央公論新社)の編集者と知り合い、かねてから矢月氏が構想を練っていた本格アクション小説の企画を語ってみると、あれよあれよと話が進みます。
こうして生まれたのが、のちに矢月氏の代表作となる『もぐら』でした。
しかし、『もぐら』も刊行当初の売れ行きは芳しくなく、シリーズは打ち切りに。
この頃には他社からも執筆依頼が来るようになっていましたが、腕が追い付きません。
次第に矢月氏は、自身の作品に対する酷評しか耳に入らなくなります
苦しみながらも執筆をつづけるうちに精神は蝕まれていき――とうとう矢月氏はパニック発作に襲われてしまうのです。

作家廃業を決意……からの復活劇!

医師の診断は「パニック障害」
矢月氏は一度執筆の仕事を整理し、療養することとなります。
しかし、当然のこととして作家の仕事はどんどんと減っていく。
別名義でミステリー小説を書いたりする傍ら、小説講座の講師、校正のアルバイトなどを掛け持ち、昼夜働く日々。
矢月氏は「こんときが、人生で一番キツかったわ」と振り返ります。
作家として再浮上のきっかけがつかめないまま、きがつけば40代後半に。
結婚し、すでに娘も生まれていました。
矢月氏はとうとう「作家活動はあと一年」と決心します。
時は2000年代。出版業界が斜陽と言われて久しい時代。
もがけどもがけど、なかなか結果につながりません。
そしてついに、紙媒体のすべての仕事がなくなってしまいます――。
いよいよ作家を辞めなくてはならない。
東京から地方に移住しよう、これからは肉体労働でもなんでもしなくては……
そう覚悟していた47歳の誕生日。
かつて「もぐら」シリーズを手掛けた編集者から、電話がかかってきました。

「『もぐら』をリメイクして文庫化しませんか?」

この一本の電話によって矢月氏は作家生命を救われます。
命を削るようにしてリメイクした「もぐら」シリーズは、瞬く間に大ヒット。
矢月秀作は、今や新作の絶えない人気作家の仲間入りを果たしたのでした。

(「もぐら」シリーズヒットの裏側はこちら)

(文◎元塚B)

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