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絶版本がミリオンセラーに⁉

今回は、「絶版」になったにもかかわらず、その後奇跡の復活を果たし、ミリオンセラーになった小説をご紹介したいと思います。

絶版になった「もぐら」シリーズ

矢月秀作(やづき・しゅうさく)著『もぐら』。

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初版は1998年。
今はなき中央公論社(現・中央公論「新」社)より新書サイズで発売されました。

主人公・影野竜司(かげの・りゅうじ)が活躍する、バイオレンス・アクションものです。
2001年までに全6巻が刊行されましたが、「全く注目されることなく絶版」(当時の担当者談)となってしまいます。

文庫化が決まる

年月下って2012年。
当時30代そこそこだったわたくし・塚Bは、小説の編集部に異動となりました。
そこでの上司が、かつて「もぐら」を担当した編集者であり、塚Bに
「『もぐら』を文庫できないか、検討してくれ」
という任務が下ったのです。

さっそく「もぐら」を読んでみた塚Bは、度肝を抜かれました。
とても舞台が日本とは思えない、激しい銃撃戦と肉弾戦。
まるで戦争のようなド派手なアクションの連続。
いったい、なんだこれは・・・・・・。
こんな小説、読んだことがない。
昔は、こういうのが流行っていたのか?
戸惑うとともに、「今やったら逆に新しいかも?」とも感じ、塚Bは上司に
「今風にアレンジできれば、文庫で勝負できるかもしれません」
と伝えました。

こうして上司立ち合いの元、塚Bは著者の矢月先生と対面することに。
そこで上司が矢月先生に出した条件は、
「シリーズ6巻のうち、まずは2巻を文庫化しましょう。これがラストチャンス。売れなければ残り4冊はお蔵入りです」
というもの。
矢月先生は
「やるわっ!」
と即答。
しかし、まだ経験浅い塚Bは
「マジか……これ、売れなかったらちょー気まずいじゃん」
と焦っていました。

大幅リメイク

とにもかくにも、売れる形にしなければ。
矢月先生と打合せ、「もぐら」の現代版へのリニューアル作業が始まります。

まずは、当時流行っていた「警察小説」風に、警視庁を中心にした組織図を組み込みます。
そして古臭いファッションやセリフ回しを2010年代風にアレンジ。
ほかにも、

・新聞を読む→ネット、スマホを見る
・電車に乗るとき切符を買う→ICカードに
・多すぎる喫煙シーンのカット
・今ではNGな差別語・不快語のカット、言い換え

などなど、細かい修正が必要になってきました。
結局、通常の「加筆・修正」の域を超え、ほぼ全面書き直す事態に。
まだ編集部に来たばかりだった塚Bは心配になりましたが、矢月先生は
「おもろい!」
とノリノリ。
その勢いに飲まれるように、だんだん塚Bもノってきて
「カバーはこうしましょう! 帯はこうしましょう!」
と積極的にアイディア出しをしていきました。

快進撃のはじまり

こうして2012年4月。
「もぐら」の文庫版が発売されました。
キャッチコピーは、
「こいつの強さは規格外!」

もぐら1

発売後、すぐに売れ行きが好調だとわかりました。
間もなく重版出来となり、2巻目の発売を待たずして全6巻を隔月で刊行することが決定します。

先生の筆も乗りに乗り、改稿はより大胆に。
アクションシーンはどんどん激しくなり、元本以上にページ数も厚くなっていきます。
初版部数もどんどん増え、ついには1冊あたりの初版が10万部に……!

そうして2013年。
全6巻を文庫化しました。
しかし、まだまだ終わりません。

元の本にはなかった「もぐら」シリーズのラストを書き下ろした『もぐら 凱上・下』を同時刊行し、ついに累計で100万部を突破。
その後、塚Bは部署異動しますが、2019年からは新たな担当編集とともに「もぐら 新章」シリーズが始まりました。

オリジナル版との読み比べ

巻を進めるたびに、リメイク具合が激しくなった本シリーズ。
実は、1巻目については、元本との「読み比べ」ができます。

1998年当時のままを復刊した『もぐら――1998年オリジナルバージョン』が、2020年に発売されました。
あとがきには、作家業の廃業まで覚悟した矢月先生の、当時のさまざまな思いも綴られています。

絶版からミリオンセラーへの復活を遂げた物語。
ぜひ、ご高覧ください。

(文/塚B)


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