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出版社の「冒険しない」問題

今宵、本の深みへ。編プロのケーハクです。

今回は、本の顔「カバーデザイン」の話です。シュッパン前夜chでも、ブックデザイナーの鈴木大輔さんをゲストに、いろいろと意見を交わしたのですが、その中で意気投合した話題が「出版社は冒険を避けがち」ということでした。

私のような編プロの編集者や、デザイナーさんは、提案するけれど、決定権がありません。カバーデザインは、最終的に出版社の意向で決まっていくのが普通です。

で、我々のような作り手側としては、ライバルである類書に勝ちたいし、面白いこともやりたい、という思いで割とインパクトが強めの提案をプッシュするわけです。

出版社も類書に勝ちたいという思いは、一緒であることは間違いがないのですが、このときに「前例がない」新しいことをやろうとすると、めっぽう腰が引ける傾向にあります。

確実にインパクトはあるし、実際気に入っている様子であっても、「いや、こっちで……」とか「営業が……」みたいな感じで、誰でも見たことがあるような保守的なデザインに収まることが多いんです。

つまんない……。

作り手側の立場としてはこうなります。

たしかに安定して売れたいという思いはわかりますが、ちょっと類書の売上データに引きずられすぎではなかろうかと思うわけです。

保守的に走るあるある

カバーデザインでは、本のタイトルが大事なのですが、これも割と出版社は保守的に走りがち。私も企画を提案する時点で、類書の状況を研究し、そこで勝てる可能性のあるタイトルを提案するのですが、「サブタイトル(わかりやすい)とメイン(インパクト重視)を逆にしてもよいですか?」となるのは日常茶飯事。

結局、類書と同じようなタイトルになり、挙句の果てに他社の新刊も似たようなタイトルの本が出てくるという始末。結局、戦うこともできないまま終わることが多々あります。

デザインでも例えば、文字(タイポグラフィー)のインパクトが売りのデザインなのに、通例に寄せたいあまり写真を大きくし、中途半端に文字の大きさを変えてしまうケース。なんのフックもないデザインに収まり、こんなことなら別案に差し替えたほうがよかったと感じることも。

売れる・売れないのデザインに正解はないので、一概に言えることではないのは確かです。保守的に舵を切って成功することも多いと思います。しかし、長い目で見ると、発展性がないというか、半歩でもいいから新しい表現に踏み込んでほしいな〜という思いはあります。

二匹目のドジョウを狙いすぎる

出版業界のパクリ慣習も依然として続いています。「柳の下には三匹までドジョウがいる」と戦略的にパクる編集者もいるそうですが、業界の未来を考えると健全ではない気がします。

カバーデザインも売れている本に寄せてしまう傾向が強いです。10万部売れている本に寄せて3万部を狙う意図なのでしょうが、オリジナルを超えてヒットすることはないので、成功しても小規模、負ける確率が高いとなると、なんとなく積極的に負け戦をしているような感覚になります。

これは個人の感覚なのですが、最近は本の売り上げ自体が落ちているので、少し臆病というか、「失敗しない」ことばかりに注目している気がします。ベストセラーを見ても、ここ数年同じような本が並んでいませんか?(今度は何割なの?)

それでは逆に、読者に飽きられてしまうのではないかと危惧しています。目先の成功を追いすぎて、市場全体の価値を自ら貶めている、そんな気がしてなりません。

繰り返しになりますが、半歩でもいいから新しいことに取り組む本。この割合をもう少し増やしませんか? 着実に稼げる本も必要だと思いますが、それだけではなく、本に可能性を感じさせる表現も必要だと思うのですが、皆さんはどう思われますか?

文/編プロのケーハク

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