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出版業界が「改革前夜」っぽい雰囲気になり始めているような気がする件

今宵、本の深みへ。編プロのケーハクです。

なんとも歯切れの悪いタイトルですよね?

今回は、出版業界にまつわる“ポツラポツラ”とした最近の話題にふれ、なんとなく感じた「変革の雰囲気」について、極めて個人的かつ、正直な思いを綴りたいと思います(笑)。

無人書店「ほんたす」がオープン

東京メトロと取次大手の日販、そしてディスプレイ業界大手の丹青社が組んで、溜池山王駅に9月にオープンした無人書店。

冷凍餃子とかの無人店舗はよく見かけますが、ついに無人の書店が登場。店舗面積は約15坪と小さめなので、品揃えとかどうなのだろうと思いますが、「1分でトレンドがわかる」をコンセプトに、ライトユーザーをターゲットとした現在の話題書などを中心に陳列しているとのこと。

なるほど。地下鉄の駅にあるので、ビジネスパーソンが仕事の合間に足を運びやすいというわけですね。

「本との出会いの機会が減少している」という課題を解決するためのひとつの手段といえそうです。

ここからは個人的な願い。

地下鉄の各駅にできてほしいのと、それぞれの店舗で専門性を出したらよいのではないかと。

すべての店舗が同じコンセプトだと、小さい店舗だし、すぐに飽きて「一回足を運んでみて終了」になってしまいそうなので、スタンプラリー感覚でいろんな店舗に行ってみたいと感じる仕掛けがほしいです。

正直、トレンド検索なんて、スマホで事足りるじゃないですか(言い過ぎか?)。

あの駅の「ほんたす」はミステリー小説、あそこは健康書、あの駅ではビジネス書、児童書……(もっと細かく)みたいに、かなりテーマを絞った店舗が各駅に展開したら、全店制覇したくなります。

しかも、毎月選書テーマを変えたり。

今月は「密室殺人」、来月は「胸糞バッドエンド」みたいに、ミステリー小説の店舗でも限定的なテーマを打ち出して、定期的に行きたくなる仕掛けをするとよいのでは? 小型書店の品揃え問題を逆手に取った面白みや深みが出せるかもしれないですよね。

ですから、この「ほんたす」ブランドは、店舗数が増えたとしても、できれば既存の「配本」システムの対象外であってほしいです。あくまで各店舗のテーマ展開優先で、店舗主体の運営ができると楽しそうな書店になるはず。

動きの少ない定番在庫を抱え続けるのではなく、在庫の中身を流動的にすることで、「本との出会いを増やす」という目的にもマッチするはず!

現代人の趣味は細分化&分散化の傾向にあるので、店舗ごとにニッチに掘り下げることでニーズが逆に広がる可能性もありますよね。少なくとも、そういう展開の仕方だったら、私は常連さんになります(地下鉄の駅だから寄りやすいし)。

複合型の大型書店が次々にオープン

「18万冊」と検索すると出てくるニュースです。今年の4月には福岡、そして10月に茨城と、蔦屋書店の複合型大型書店がオープンしています。

複合型というのは、書店に限らないさまざまな店舗を併設し、本以外の商品(文具、雑貨、食品など)を販売。書籍18万冊という膨大な在庫数もさることながら、文化の拠点、地域の人々が集まるスポットのような機能を持たせることがコンセプトのようです。

たしかに、一般的なライフスタイルを考えると、本だけを目的に出かけることは普通に考えて「ほぼない」わけで、いろいろ楽しめる大型複合型施設というのは理に適っているのかもしれないですね。

ショッピングモールに家族で出掛けて、その中に書店があると、やっぱりフラッと立ち寄っちゃいますし。

大型店舗なので一般書なら品揃えは問題ないと思います。
ライフスタイルに組み込ませる意味で、先ほどの無人書店とはまた異なる「本との出会いの創出」のためのアプローチといえるかもしれません。

逆にいえば、そうでもしないと、もはや本と出会えないわけです。

上記のような動きの背景には、いわゆる「町の本屋さん」のような小型書店が次々に閉店しているということも影響していると思います。

かつては、そういった本屋に毎日のように足を運んで、適当に立ち読みし、ほしい本があったら買う、というような、本は身近な存在であり、出会いも頻繁でした。

それも今となっては昔の話。その機能は、やがてコンビニに移行していった感じですが(そのコンビニからも本棚が消えた)、やはり小型書店なので品揃えが不足し、ほしい本がすぐ手に入らないという不便さがあります。

昔は書店で注文したものですが、今はネットでポチッとやれるので、必然的に「町の本屋さん」は、その機能を果たせなくなりました。時代が変わり、その役目を終えたともいえるでしょう。

かつて私を育んでくれた、地方の小さな老舗書店も、今年、長い歴史に幕を下ろしました……(涙)。

変わってしまったものは、嘆いても仕方がないので、やはり時代(現代のライフスタイル)に合わせた届け方を模索するしかありません。

今は、ちょうどその方策をいろいろ試している段階といえるのかもしれません。

変化する配本のシステム

出版界には、「委託販売制度」というものがあります。簡単にいえば、書店に置いている本は売れなければ出版社に返本できるというシステム。

他の業界から見ると、ありえないシステムのように思えますが、この制度のおかげで本の多様性が保たれるという利点もあるそうです(売上データだけに偏った在庫になるのを防ぐ)。

でも、最近は返本の損失(約2400億円との試算も)がかなり深刻な問題とされ、取次大手の日販やトーハンもシステムの効率化を目指し、いろいろと変革に乗り出しているそう。

これまでは、書店のランクによって取次が各書店に(ある種自動的に)配本する「見計らい配本」という仕組みで配本されていましたが、これをA Iを使ったり、オンデマンド化したり、マーケットイン型の配本(書店の注文、売れ行きに準じて適正に配本する)に変えていこうとしています。

これによって、返本の損失を減らそうというわけです。

まあ、当たり前といえば当たり前にやるべき対策なのですが、これまで独特なシステム慣習を前提に回ってきた業界なので、多くの出版社では「どうしよう」とざわついています。

出版営業さんは、書店からの注文がなければ配本できなくなるので、結構シビアな負担を強いられることに。また、書店側も「売れる商品」を置くことが死活問題となるので、既存の本の売上データに偏った注文になる可能性があり、その影響で、出版社側は斬新な企画や新しい挑戦の本が作りづらくなるリスクも考えられます(似たような本があふれる!?)。

しかしながら、客観的に見れば、損失を垂れ流すシステムは変革すべきであり、出版社側も既存の慣習にとらわれない発想で、出版ビジネスを見直さなければいけません

シュッパン前夜のメンバーとの会話で出てきたこれらの話題。

それぞれが単発の現象に見えて、実は根本でつながっていて、その背景には出版業界がようやく重い腰を上げて変革に乗り出した……雰囲気を醸し出しているな〜と感じたのでありました(ハッキリとは言えない感じw)。

まだ、正解が見えない手探りの状態ではあると思いますが。


文/編プロのケーハク

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