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コーチの社会分析 Note【繰り返されるオーバーユース。「質」の理解とは】

【誰もが「東京、京都以外は失敗するからやめておけ」と言われた下諏訪のマスヤゲストハウスは今や国内を代表するゲストハウスの一つになっていますし、また、コロナ下もなんのそので躍進する熊本県・上天草エリアにおける瀬崎さん達の活躍は、地域(Local)ブランドのポテンシャルを証明したお手本のような挑戦と言えるでしょう。つまり、安易に大ブランドになれば解決するだろうという考え方がそもそも誤りです】 

という前回はこちらから。そして、そうこうしているうちに、足元の長野でもインバウンド絡みの山岳遭難を伝えるニュースが続いている最近です。
【救助された外国人パーティーの登山者は登山靴を履いておらず、足元はランニングシューズ。雨風を防ぐ上着はビニール製で薄手のポンチョ】といった山をなめて痛い目という状態が常態化してきています。

☆本当に自己責任だけなのか?

野口健さんが指摘しているように、例えば富士山で人が渋滞してしまい動ける空間がなくなると、落石を交わせずには事故の被害が拡大します。また、渋滞を嫌った人がコース外を歩きだし、落石を起こす可能性もとても高くなります。
 
長野の日本アルプスでも、事故を起こした誰かに巻き込まれて、なんの落ち度もない人が命の危機にさらされることもままあります。加えて、近年は山小屋やテント場、登山道での盗難に関する話をとてもよく聞くようになってきました。かくいう僕自身も登山のストックを穂高岳エリアで盗まれたことがあります。
 
これらは明らかに「数」を増やして「質」を低下させた弊害の側面があると言えるでしょう。そして、この弊害の根本要員には「2030年の訪日外国人数6000万人を堅持」といったKPIによる動機付けが多分に影響している・・とも言えるのではないでしょうか。

☆観光産業のリアルと「質」を考える

では、この観光の「質」とは何か?
このテーマを考えるうえでとても参考になったのがえぞ財団の道南ツアーでした。函館のリアルを生きる方々との交流は、今後に期待しかありません。
 
そこでまず、皆さんに共有したいことは、大ブランド「函館市」の数字です。人口約30万人の市に年間約550万人もの観光客が訪れます。全国市区町村魅力度ランキング1位。私たちは函館に暮らす人々が、その観光効果で豊かであろうとつい想像してしまいます。

しかし、実際には日本総研の調査による国内中核45都市中・幸福度ランキング42位。健康指標は生活保護受給率の高さから最下位。仕事指標も若者の失業率の高さや女性の就労率の低さが影響し43位とまったくいいところがありません。つまり、観光客が落としたお金は、この30万人にまったくといってよいほど行きわたっていないわけです。一方で、北海道の東の果てにあり、消失自治体になりそうという印象すらある十勝地域では

【農産物販売経営体の平均規模が5600万円(北海道平均3000万円)に代表されるように、就業者割合が大きな第一次産業が「稼げる産業」として機能している】(えぞ財団・北海道経済入門)

とあり、その中核都市である帯広市の人口はほとんど減少していません。
函館市が毎年2500人を超える人口減状態であることと比べても、本当に幸福なエリアはどちらか。持続可能な街はどちらかという点で、字面の印象と大きく異なっていることが、皆さんにもイメージできるかと思います。

*十勝といえばこちらですね!

☆稼げない三次産業を脱却してこその「質」

実際に函館市の平均所得は300万円を割り込んでいて、北海道179市区町村の中でも104位と順位は下位に該当します。これは基本的に第三次産業(主に卸売・小売業、飲食・宿泊業、サービス業など)では非正規雇用の割合が大きく、低賃金という全国的傾向に準じているからです。国内の雇用者報酬平均(年)でも観光・宿泊業は230~250万と全産業平均472万円との対比ではっきりしていますから、これは函館に限らない観光を主力とする国内都市全体の課題と言えるでしょう。
 
8年前に訪れたスペインでは宿泊事業者の雇用者報酬は320万くらいで、観光事業者全体では付加価値をつけて460万を超えるところまで上がっています。なので、日本でも観光を経済復興の起爆剤にしようとするのであれば、スペイン並みの報酬水準を得られる状況、環境をいかに整えるかが、政策決定の MUST な目標とならなければなりません。

その為には受け入れ限界を超える人員(数)を送り込んでも意味がないということです。ビジネス感覚のない方々には「値上げすればいい」と単純に考えてしまうところかもしれません。

実際、昨今の東京のホテルでは、価格帯が高すぎてビジネス客が悲鳴をあげている状態が続いています。円安で半額セールの海外の方々からすればなんてことのない金額なのでしょうが、本社機能が集中している東京で業務をするための日本人が東京で宿泊が難しくなっていく。これでは一体、誰の為の政策なのか?ということになってしまうのではないでしょうか。

*次回に続きます。そこで「時間」と「幸福」いう軸を見てみましょう。

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