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春助
2023年6月29日 19:17
午後3時、室外機。静寂の昼下がりは、まるで丑三つ時のようである。蝉は羽化していないのか、ひとつも鳴いていない。積乱雲は雪の壁のように街を包囲し、田んぼに映る反対の世界に挟まれたそこには、誰もいない。静かである。ただ聞こえるのは、見知らぬ家の室外機から発せられる低周波音だけだ。飛行機は音を立てずに、ゆっくりと空に筆跡を残している。私は宗教を信じない。しかし、このひとりの世界を見る
2023年8月10日 22:03
多摩川の向こうの灰色の都市は、よそよそしく砦を築いている。ビル群のスカイラインから湧き立つ雲は次第に橙色を帯び、煙が匂ってくる。私はひとりで散歩している。イヤホンから鳴るラヴェルの緻密な和音は、孤高の景色を彩る。青い空の奥から橙色が染み出している。こんな色のジュースをどこかで見たことがある。草むらに花火の残骸を見つけて、会わなくなって久しい人のことを思い出した。もし今、空が同じ色をし