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アカデミー作品賞、個人的ランキング⑧(20位~11位)


20位 『タイタニック』(第70回・1997年)

14ノミネート・11受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、撮影賞、美術賞、歌曲賞、劇映画音楽賞、衣裳デザイン賞、視覚効果賞、音響効果賞、録音賞、編集賞
ノミネート : 主演女優賞(ケイト・ウィンスレット)、助演女優賞(グロリア・スチュアート)、メイクアップ賞

他のノミネート作品
『恋愛小説家』(7ノミネート・2受賞)
『フル・モンティ』(4ノミネート・1受賞)
『L.A.コンフィデンシャル』(9ノミネート・2受賞)
『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(9ノミネート・2受賞)

 『イヴの総て』と並ぶ歴代最多ノミネート、『ベン・ハー』と並ぶ最多受賞を果たした本作は文句なしの歴史的傑作です。演技部門を除くほとんど全ての部門で受賞、圧勝でした。
 日本関係だと短編実写映画賞で杉原千畝を描いた『ビザと美徳』が受賞しました。これ、すごく観たいんですが今のところどこにもないんですよね。
 まあもうここまで凄いの作られたら仕方ないよね、という感じです。技術的にレベルが高いのはもちろん、ディカプリオとウィンスレットも最高に良くて分かってはいても号泣でした。
 切ない恋愛、スペクタクルと求める全てが入っている本作、文句のつけようがありません。まあキャメロンは『アバター』とかもそうなんですが、話の骨格だけ取り出すと別によくある話なのですが、そこにがっつり肉付けをしていくことで一級の作品を作り出すのは流石だなと思います。

19位 『アメリカン・ビューティー』(第72回・1999年)

8ノミネート・5受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、主演男優賞(ケヴィン・スペイシー)、脚本賞、撮影賞
ノミネート : 主演女優賞(アネット・ベニング)、編集賞、作曲賞

他のノミネート作品
『インサイダー』(7ノミネート・0受賞)
『グリーンマイル』(4ノミネート・0受賞)
『サイダーハウス・ルール』(7ノミネート・2受賞)
『シックス・センス』(6ノミネート・0受賞)

 この回は授賞式18日前に55体ものオスカー像が盗難にあうという珍事件にあいました。結局52体は食料品店のゴミ箱で見つかったそうですが、犯人は一体何がしたかったのでしょうね。また、授賞式にかかった費用は歴代一位、授賞式の時間も歴代一位だということです。
 最多受賞は本作ですが、その次が作品賞ノミネートされていない『マトリックス』の4部門、その次が『サイダーハウス・ルール』とこれまた作品賞ノミネートされていない『トプシー・ターヴィー』の2部門でした。作品賞ノミネートされた『インサイダー』『グリーンマイル』『シックス・センス』は一部門も受賞していないというなかなかアンバランスな結果となりました。
 ストレートにめちゃくちゃ面白かったです。割とゲスなコメディなのに撮影や画面構成がとんでもなく美しく芸術的です。サム・メンデスってすごいなと思った最初の作品ですね。
 役者だとアネット・ベニングが素晴らしいですね。無冠の名優として知られる彼女ですが、やはりここでとっておくべきだった…

18位 『ムーンライト』(第89回・2016年)

8ノミネート・3受賞
受賞
: 作品賞、助演男優賞(マハーシャラ・アリ)、脚色賞
ノミネート : 監督賞(バリー・ジェンキンス)、助演女優賞(ナオミ・ハリス)、編集賞、撮影賞、作曲賞

他のノミネート作品
『ラ・ラ・ランド』(14ノミネート・6受賞)
『メッセージ』(8ノミネート・1受賞)
『ハクソー・リッジ』(6ノミネート・2受賞)
『フェンス』(4ノミネート・1受賞)
『最後の追跡』(4ノミネート・0受賞)
『ドリーム』(3ノミネート・0受賞)
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(6ノミネート・2受賞)
『LION/ライオン~25年目のただいま~』(6ノミネート・0受賞)

 作品賞を間違えるという歴史的事件が起こったことで知られますね。『ラ・ラ・ランド』が当然作品賞と誰もが思っていた中での大番狂わせ、どちらもいい作品なので結果オーライかなと思います。
 日本関係で言うと、長編アニメーション映画賞にスタジオジブリ制作の『レッドタートル ある島の物語』が入っています。これはかなり地味ですが傑作だと思っています。
 さて本作ですが、同性愛をテーマにした作品で初めての作品賞受賞となりました。またキャスト全員が黒人という点でも初めての作品です。
 派手な『ラ・ラ・ランド』とは全く対照的、かなり地味な作品です。心の中にずっとしまっておきたいような、そんな作品です。黒人の肌を美しく映した撮影が本当に素晴らしいですね。意図的に青をキーカラーとして入れることで息をのむほど美しい映像になっています。
 思い出すだけで切なくなってしまうような感動的なラストは忘れられません。生きることの厳しさを感じるとともに、人生の美しさを教えてくれるような側面もある傑作です。

17位 『カッコーの巣の上で』(第48回・1976年)

9ノミネート・5受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、主演男優賞(ジャック・ニコルソン)、主演女優賞(ルイーズ・フレッチャー)、脚色賞
ノミネート : 助演男優賞(ブラッド・ドゥーリフ)、編集賞、撮影賞、作曲賞

他のノミネート作品
『ナッシュビル』(5ノミネート・1受賞)
『ジョーズ』(4ノミネート・3受賞)
『バリー・リンドン』(7ノミネート・4受賞)
『狼たちの午後』(6ノミネート・1受賞)

 この回は外国語映画賞に日本代表『サンダカン八番娼館 望郷』(熊井啓監督)とソ連代表『デルス・ウザーラ』(黒澤明監督)と日本人監督作品が二つノミネートされ、後者が受賞しました。
 さて本作はチェコ・ヌーヴェルヴァーグの巨匠ミロス・フォアマンによる作品です。『アマデウス』でも知られますね。フォアマンはかなり好きで、『アマデウス』も傑作だと思っています。(ちなみにまだランクインしていません…ということは?)
 ジャック・ニコルソンのお得意の演技、まあ早い話がイッちゃってる人にしか見えない演技が炸裂で面白い。そしてこの作品は「狂人を演じる」というそれを逆手にとったような話なので非常におかしな事になっています。いい意味で。
 「観るの辛いな」と思っていたんですが、それはやはり間違っていなくて、辛い話ではあります。ただ結末は意外と爽やかというか希望があって好きですね。
 ジャック・ニコルソンももちろんいいんですがやはり強烈なのはルイーズ・フレッチャー演じる婦長ですよね。これはすごい。主演ではないと思うのですが、あまりの強烈さに主演女優賞をとってしまったのも納得です。

16位 『マイ・フェア・レディ』(第37回・1964年)

12ノミネート・8受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、主演男優賞(レックス・ハリソン)、撮影賞(カラー)、美術賞(カラー)、衣装デザイン賞(カラー)、録音賞、編曲賞
ノミネート : 助演男優賞(スタンリー・ホロウェイ)、助演女優賞(グラディス・クーパー)、脚色賞、編集賞

他のノミネート作品
『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(4ノミネート・0受賞)
『ベケット』(12ノミネート・1受賞)
『メリー・ポピンズ』(13ノミネート・5受賞)
『その男ゾルバ』(7ノミネート・3受賞)

 最多ノミネートは『メリー・ポピンズ』の13部門、次いで本作と『ベケット』の12部門とかなり接戦ですね。ちなみに『ベケット』は日本ではDVD化されておらず日本語では観られないんですよね…輸入盤買うか…
 日本関係では外国語映画賞に『砂の女』がノミネート、翌年のアカデミー賞では勅使河原宏が日本人初(というかアジア人初)の監督賞ノミネートを果たしました。なぜ外国語映画賞と監督賞が別々の回かと言うと、日本代表として提出された年とアメリカでの公開年が異なっているためです。
 さて本作ですが、オードリー・ヘップバーン主演のミュージカルながら彼女が主演女優賞にノミネートすらされていません。それは歌の大部分が別人による吹き替えであることが原因と言われていますね。
 少し冗長に思うところはあるものの、ジョージ・キューカー監督の品格を保った軽やかな演出は流石です。目にも鮮やかな衣装や美術が素晴らしく、オードリーの美貌にも言わずもがな目を奪われます。

15位 『ベン・ハー』(第32回・1959年)

12ノミネート・11受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、主演男優賞(チャールストン・ヘストン)、助演男優賞(ヒュー・グリフィス)、撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞、編集賞、劇映画音楽賞、録音賞、視覚効果賞
ノミネート : 脚色賞

他のノミネート作品
『或る殺人』(6ノミネート・0受賞)
『アンネの日記』(8ノミネート・3受賞)
『尼僧物語』(8ノミネート・0受賞)
『年上の女』(6ノミネート・2受賞)

 本作は11部門受賞ということで『タイタニック』『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』と並ぶ歴代最多記録を保持している作品です。本作はルー・ウォーレスによる同名小説の実に三度目の映画化です。2010年、2016年にも映画化されており(2010年版はTV映画)、人気の高さが窺えます。
 正直もうここまでのスケールでやられたら仕方ない、という感じです。物語も文句なしで面白いですし、スペクタクル的見せ場も満載、チャールストン・ヘストンらの肉体美も存分に味わえる名作です。
 ウィリアム・ワイラーは『ミニヴァー夫人』『我等の生涯の最良の年』に続き三度目の監督賞を受賞、本当にこの人は上手いですよね。『月光の女』『偽りの花園』といった悪女もの、『嵐が丘』といった文芸映画、『コレクター』といったスリラー、『ローマの休日』『おしゃれ泥棒』といったラブコメ、『ファニー・ガール』といったミュージカルまで何でも上手くこなす大好きな監督です。

14位 『ハムレット』(第21回・1948年)

7ノミネート・4受賞
受賞
: 作品賞、主演男優賞(ローレンス・オリヴィエ)、美術賞、衣装デザイン賞
ノミネート : 監督賞、助演女優賞(ジーン・シモンズ)、劇・喜劇映画音楽賞

他のノミネート作品
『赤い靴』(5ノミネート・2受賞)
『ジョニー・ベリンダ』(12ノミネート・1受賞)
『黄金』(4ノミネート・3受賞)
『蛇の穴』(6ノミネート・1受賞)

 最多ノミネートは耳と口が不自由な少女のシリアスドラマ『ジョニー・ベリンダ』でしたが結局主演女優賞のみの受賞となり、俳優のローレンス・オリヴィエが監督を務めた『ハムレット』が最多受賞となりました。しかしながらオリヴィエが最も欲しかったであろう監督賞は『黄金』のジョン・ヒューストンにいきました。
 オリヴィエはこの前後に『ヘンリィ五世』『リチャード三世』とシェイクスピアの戯曲をもとにした三部作を手がけていますがいずれも監督賞は手にできませんでした。そのことから今に至るまで「アカデミー賞ではシェイクスピアは受けない」というジンクスが生まれました。実際オリヴィエの再来と言われたケネス・ブラナーも監督賞は受賞できていませんし、ジョエル・コーエンの『マクベス』も作品賞には入りませんでした。
 それはさておき、本作はやや話を簡略化した感はあるものの、芸術的に優れた映画になっています。美術、撮影が本当に素晴らしい。謀略で殺された父王が現われる場面は荘厳にして一つ一つがアートですし、城の内部のシンプルでありながら美しいセットには感嘆させられます。
 それこそコーエンの『マクベス』に劣らない素晴らしい芸術作品だと思います。

13位 『ミリオンダラー・ベイビー』(第77回・2004年)

7ノミネート・4受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、主演女優賞(ヒラリー・スワンク)、助演男優賞(モーガン・フリーマン)
ノミネート : 主演男優賞(クリント・イーストウッド)、脚色賞、編集賞

他のノミネート作品
『アビエイター』(11ノミネート・5受賞)
『ネバーランド』(7ノミネート・1受賞)
『サイドウェイ』(5ノミネート・1受賞)
『Ray/レイ』(6ノミネート・2受賞)

 この回は巨匠マーティン・スコセッシの『アビエイター』がダントツの最多ノミネート、遂にスコセッシが頂点に立つかと期待されていました。前哨戦ではゴールデングローブ賞、英国アカデミー賞を受賞しており前評判は高かったのですが、12月というシーズンギリギリに公開された本作が怒濤の追い上げをみせ主要部門を独占しました。『アビエイター』は最多受賞ではあるものの、ケイト・ブランシェットの助演女優賞以外は全て技術賞しかとれませんでした。
 さて本作は尊厳死というデリケートな問題を扱った作品で、キリスト教保守や障がい者団体などからかなりの批判を受けました。
 しかしながらイーストウッドの手腕は見事なもので、堂々たる人間ドラマになっていました。正直もう二度と観たくはありません。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』に近い感じですかね。それだけ強烈な作品でした。
 ヒラリー・スワンク、モーガン・フリーマンといった役者の最高のパフォーマンスを引き出す演出力も大したもの、彼らのベストアクトではないでしょうか。

12位 『サウンド・オブ・ミュージック』(第38回・1965年)

10ノミネート・5受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、編集賞、編曲賞、録音賞
ノミネート : 主演女優賞(ジュリー・アンドリュース)、助演女優賞(ペギー・ウッド)、撮影賞(カラー)、美術賞(カラー)、衣装デザイン賞(カラー)

他のノミネート作品
『ドクトル・ジバゴ』(10ノミネート・5受賞)
『ダーリング』(5ノミネート・3受賞)
『愚か者の船』(8ノミネート・2受賞)
『裏街・太陽の天使』(4ノミネート・1受賞)

 この回はかなり日本の存在感があります。監督賞にはアジア人として初めて『砂の女』勅使河原宏がノミネートされるという快挙を成し遂げています。また外国語映画賞には小林正樹監督の『怪談』がノミネートされました。どちらも受賞はしませんでしたが、非常に好きな二本なのでテンションが上がりますね。
 さてこの回は本作と『ドクトル・ジバゴ』が最多ノミネート、そして最多受賞です。しかし『ドクトル・ジバゴ』は『アラビアのロレンス』の監督やスタッフが集結した話題作で前評判は高かったものの結局技術賞しかとれず、主要部門は本作が大逆転勝利となりました。とはいえ演技賞はどちらも受賞できていないんですけどね。
 ミュージカルの名作として今もなお愛される本作、誰もが口ずさめる曲ばかりですよね。「私のお気に入り」「ドレミの歌」「ひとりぼっちの羊飼い」「エーデルワイス」…どれも聞いたことありますよね。
 楽曲がいいのはもちろん、主演のジュリー・アンドリュースが本当に素晴らしい。相手役のクリストファー・プラマーや子供たちもいいんですがやっぱり彼女の映画。快活で気取らない笑顔にクリアな歌声、これに惹かれない人います?
 また鮮やかなカラー撮影も素晴らしいです。お金のかかり方が段違いな『ドクトル・ジバゴ』と比べるとスケール感は見劣りするかなとは思いますが、長く愛されるにはそれなりの理由があるなと納得するしかないミュージカルでした。

11位 『羊たちの沈黙』(第64回・1991年)

7ノミネート・5受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、主演男優賞(アンソニー・ホプキンス)、主演女優賞(ジョディ・フォスター)、脚色賞
ノミネート : 編集賞、録音賞

他のノミネート作品
『バグジー』(10ノミネート・2受賞)
『JFK』(8ノミネート・2受賞)
『美女と野獣』(6ノミネート・2受賞)
『サウス・キャロライナ/愛と追憶の彼方』(7ノミネート・0受賞)

 この回はスケール感のあるギャング映画『バグジー』かケネディ暗殺事件を扱った社会派サスペンス『JFK』の一騎打ちとみられていました。実際ノミネートは前者が10部門、後者が8部門とリードしていました。しかし最後の最後で脚色賞、主演男優賞、主演女優賞、監督賞、作品賞の「主要五部門」を本作が独占、かなりの番狂わせだったと言われています。
 また作品賞に『美女と野獣』が入っていますが、作品賞にアニメーション映画がノミネートされるのは史上初でした。
 なんといっても本作、ホラーなんですよね。それも一番オスカー受けが悪そうなサイコホラー。現在まで作品賞を受賞した唯一のホラー映画です。
 目を背けたくなるほど残酷で凄惨な殺し方はある種の発明です。鮮烈なジョナサン・デミ監督の演出もいいのですが、やはりこの作品を面白くしているのは主演の二人でしょう。身も凍るサイコキラーを演じ本作で大ブレイクしたアンソニー・ホプキンス、彼を追う捜査官を演じた実力派スター、ジョディ・フォスターがとにかく素晴らしいですね。
 サイコホラーという枠の中で最高のパフォーマンスをみせる二人が文字通り対決しているような高揚感がありますね。もちろんサイコ・サスペンスとして面白いのですが、二大スターあっての傑作と言える気がします。


ということで残るはベスト10!
の前にワースト5を次は書いていきたいと思います。

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