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小説「ファックスの終りとオフデューティ・マーダーケース」

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殺人の凶器は紙のファックス!? 地球外生命の到来によって「紙のファックスを使うと命を奪われる」ようになった世界が舞台の、特殊設定ミステリー。
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殺人の凶器は紙のファックス!? 小説「ファックスの終りとオフデューティ・マーダーケース」(1)

殺人の凶器は紙のファックス!? 小説「ファックスの終りとオフデューティ・マーダーケース」(1)



ファックスの終りと
オフデューティ・マーダーケース

 あの日、人類は思い知らされた。
 この宇宙の広大さを。
〈あの者たち〉にずっと見張られていたという、真実を。

 二十一世紀の幕が開けたその年。
 世界十二の都市の上空に、何の前触れもなく出現した巨大な影。その薄灰色の潰れたボールのような物体は、一目で地球外の存在だと理解できるものだった。いわゆる地球外生命とのファーストコンタクトが起きて

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殺人の凶器は紙のファックス!? 小説 「ファックスの終りとオフデューティ・マーダーケース」(2)

殺人の凶器は紙のファックス!? 小説 「ファックスの終りとオフデューティ・マーダーケース」(2)

 らしくない休暇の使い方をしたせいだ——稲塚はそう考えることにした。
 窓の外では今朝からの雨が降り続いている。朝食のとき「島の天候は変わりやすいんですよ」と、稲塚はこの民宿の主人から説明された。おまけに今日は、これから天気がますます崩れそうだとも。
 そもそもこのあたりの海は荒れやすく、船が出せなくなることも珍しくないらしい。
 稲塚が泊まっている部屋は十畳の和室で、古めかしい座卓の上には急須と

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殺人の凶器は紙のファックス!? 小説 「ファックスの終りとオフデューティ・マーダーケース」(3)

殺人の凶器は紙のファックス!? 小説 「ファックスの終りとオフデューティ・マーダーケース」(3)

 およそ四半世紀前の〈あの者たち〉の来訪により、ファックスが危険な凶器と化したことを受けて、日本の警察にもファックス事件を専門に扱う部署が設置されていた。
 警視庁刑事部特定通信機器対策課——稲塚はそこに所属している。

「この島に医者は私一人しかいないんですよ。だから急病の旅行客にも、私ができる範囲で対応していて」
 ゆおくり荘の主人が運転する軽ワゴン車の後部座席に収まりながら、稲塚は隣に座る大

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殺人の凶器は紙のファックス!? 小説 「ファックスの終りとオフデューティ・マーダーケース」(4)

殺人の凶器は紙のファックス!? 小説 「ファックスの終りとオフデューティ・マーダーケース」(4)

「話なら聞きました」
 係長の高尾が電話口で静かに言った。女性刑事がまだ珍しかった時代からの叩き上げである稲塚の直属の上司は、ちょうど警視庁本部庁舎にある特通課の大部屋にいたらしい。音声の背後から、騒然とした職場の気配が伝わってくる。
「どういう状況か、あなたの口からも聞かせてもらえるかしら」
 そこで稲塚は、今日の午後からの経緯をかいつまんで説明した。離島の民宿で一人の旅行客がファックス死したこ

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殺人の凶器は紙のファックス!? 小説 「ファックスの終りとオフデューティ・マーダーケース」(5)

殺人の凶器は紙のファックス!? 小説 「ファックスの終りとオフデューティ・マーダーケース」(5)

 土田は金子とはやや趣の異なる男だった。
 特にセットもされていない黒髪に、着古された灰色のパーカーという出立ちで、垢抜けない大学生のような雰囲気を漂わせている。
「この度はご友人を亡くされて、お悔やみ申し上げます」
「まあ、日下とはだいぶ古い付き合いですね」
 素っ気ない反応だった。それから稲塚は、金子にしたのと同様に今朝からの行動を訊ねると、事件発生時は民宿の裏でタバコを吸っていたという答えが

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殺人の凶器は紙のファックス!? 小説 「ファックスの終りとオフデューティ・マーダーケース」(6)

殺人の凶器は紙のファックス!? 小説 「ファックスの終りとオフデューティ・マーダーケース」(6)

 隅田からの電話が鳴ったのは、真夜中過ぎだった。
「面白いことがわかったぞ。ただ私用のスマホに捜査情報をメールするわけにはいかないからな」と前置きする隅田に言われるがまま、稲塚は電話越しに読み上げられる内容をメモした。
「お前がどういう見立てなのかは知らんが、確かにそっちの殺しとこの件、関係あるかもしれないぞ」
 そう話す同僚に、稲塚は改めて礼を言ってから電話を切ると、間髪を容れず駐在の木内の番号

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殺人の凶器は紙のファックス!? 小説「ファックスの終りとオフデューティ・マーダーケース」(7)

殺人の凶器は紙のファックス!? 小説「ファックスの終りとオフデューティ・マーダーケース」(7)

 警視庁本部庁舎の食堂で、食事中の稲塚を見つけた隅田は斜向かいの席に自分のトレーを置いた。載っているのは、きのこかき揚げ蕎麦の大盛り。
「高輪署の捜査本部、例の金子って奴を引っ張ったらしいな。お前が出会った釣りの三人組、あれはやはり詐欺グループだ」
 カツカレーを頬張る手を止めて、稲塚は同僚を見上げて言う。
「相変わらず耳が早いな」
 隅田は稲塚と比べるとやや小太りな男だった。彼は椅子に座るなり、

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