マガジンのカバー画像

長い夜を歩くということ

162
【この夜はまだ明けない。まだ、明けて欲しくない。】 「雨は朝でも昼でもなく、夜に降るものが一番好きだ。なぜなら夜の雨は黒く、家や街すらも塗りつぶし忘れさせてくれる。そんな気がす…
運営しているクリエイター

2021年12月の記事一覧

長い夜を歩くということ 16

 彼は当時としては珍しく大学に通うことができた。幸いなことに両親は地元では有名な地主であ…

しゅん
2年前

長い夜を歩くということ 17

 彼が四年生になる頃には、最初に見た東京の景色は、灰色のビルの四角い姿に変わり、その時覚…

しゅん
2年前

長い夜を歩くということ 18

 仲間たちが簡単に就職を決めていく中、彼もまた簡単に広告代理店への就職を決めた。 最後の…

しゅん
2年前
1

長い夜を歩くということ 19

 二十八歳になった彼は仕事の余裕も生まれていた。 そして、空白の時間は彼の中で沈殿して見…

しゅん
2年前

長い夜を歩くということ 20

 彼が興した会社はなかなか糸口を見いだすことができずにいた。 退社する時は幸いなことに、…

しゅん
2年前

長い夜を歩くということ 21

 流石の彼もボディブローを打ち込まれ続けるような日々に落ち込み酒を煽った。 それと同時に…

しゅん
2年前

長い夜を歩くということ 22

彼の仕事が依頼だけで回るようになったのはそれから一年後だった。 前会社のお得意先も「ようやく上司からの許可が降りた」と仕事を振ってくれるようになった。 彼は前のお得意先に断られて以来、連絡をすることは控えていたので、突然のことで驚き、そして、感動した。 彼はこの手のひら返しを恨むようなことは微塵もなかった。彼らの立場や状況、考えを彼は理解していたし、何よりも彼らはもう一度戻って来てくれている。 自分の頑張りが一度切れた縁でさえ、もう一度手繰り寄せてつなぎ合わせることが

長い夜を歩くということ 23

 彼の焦りは餓えた狼のように頭の中を暴れまわり、時に食らいつき頭痛となって現れた。 この…

しゅん
2年前

長い夜を歩くということ 24

 彼の震える怒りは酒に向かった。 彼は一人、バーのカウンターでウィスキーを飲み干し、また…

しゅん
2年前
2

長い夜を歩くということ 25

 「マスターいつものちょうだい!」 隣から元気で強い女の声がした。でも、その声はまだ踏ま…

しゅん
2年前

長い夜を歩くということ 26

「あ、起きた」 女が拍子抜けといった声を出した。彼はもう少しだけ視界の中心に女を入れた。…

しゅん
2年前
1

長い夜を歩くということ 27

「ああ、そうかもしれないな。うん。おかしいのかもしれないね」 酒が彼の弱気まで流してくれ…

しゅん
2年前
2

長い夜を歩くということ 28

「最後の言葉がなければ、キスでもしてあげたのに。おじさん、勿体無いことしたね」 少女は太…

しゅん
2年前
2

長い夜を歩くということ 29

 彼はもうどうとでもなれと思った。なんのためらいもなく、自分の思いを少女にぶちまけていた。 このままでは会社は傾いて、社員の生活を守れないと確信していること。でも、その危機感を社員たちは感じていないどころか、安定に慣れてずっと続くという勘違いを起こしていること。 しかし、それを無理やりに伝えることも仕事をやらせることもできないこと。 少女は今までとは打って変わって、黙って話を聞いていた。時々聞こえる「うん」という相づちが、言葉に詰まって落ちそうになる彼の心を掻き出してく