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長い夜を歩くということ 23

 彼の焦りは餓えた狼のように頭の中を暴れまわり、時に食らいつき頭痛となって現れた。

このままでは自社の勢いはなくなり、後発の新興企業に追い抜かれ飲み込まれる。彼にはその暗い未来が頭の中で想像できてしまっていた。

彼が社会人として積み上げた十年は時代に対する嗅覚を鋭敏にして、先を見通す思考を育てていた。

彼の背後には黒い影が靴音を響かせながら迫り、いつ肩を叩かれるかわからない恐怖は、一人となった夜に増大して魔物と化した。

そして、何も知らず危機感すら持たずにいる社員たちを段々と許せなくなっていった。

叩き上げで育ってきた彼だからこそ、フロアで怒声をあげるようなことはせず、深夜まで働くことを強要もしなかった。

自分の作り上げた会社の中で、自分だけが会社、そして社員の未来を考えて憂いている。

自分一人だけが強いモーターで歯車を必死に回すも、隣の歯車が噛み合わず、時々触れて、気まぐれに回っているようなやるせなさがあった。

社員から見ると彼は無意味に負荷をかけ、摩擦を引き起こす反乱分子に映っているのかもしれない。

彼はそう思うとこの気持ちのやりようがなかった。

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