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長い夜を歩くということ 18

 仲間たちが簡単に就職を決めていく中、彼もまた簡単に広告代理店への就職を決めた。

最後の瞬間まで彼の学生生活は彩られ、時間は瞬く間に過ぎ去ったというのに、思い出だけは無限の時間を有するほど彼の頭の中に焼き付いていた。

 彼の入った会社に昼夜はなかった。研修もなく、初出勤日を迎える前に上司から伝えられていたのは「寝袋を持参するように」という淡々とした言葉だった。

同期は二十人おり、彼ら彼女らは皆とても頭はキレ性格も良かった。

朝から飛び込み営業で名刺を配り、夕方に帰社し、その後は先輩の手伝いや仕事のチャンスを掴んだ同期のプレゼン資料を全員で作成した。

奇跡だと言えるのはこの状況に対して、誰一人として疑問を持つ人間がいなかったことだ。

当たり前のように二十二時に同期で会議が始まり、スケジュールを立て、深夜になるまで仕事をしていた。

彼らは同じ辛さを志という形に昇華した同志となっていった。

それはもう今で言う所の洗脳に近いものであったのかもしれないが、彼らにはそんなことはどうでもよかった。

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