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科学的側面から考える人間の過敏さとは?そして精神科医から見た「HSP」とは?自分の敏感さを違った視点で見たい人向けの一冊。【岡田尊司『過敏で傷つきやすい人たち』幻冬舎新書】

「HSP」(Highly Sensitive Person:過度に敏感な特性を持つ人)にまつわる本は、HSP研究の第一人者であるエレイン・N・アーロン博士の『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ。』を筆頭として、5人に1人該当する性格の一部である、生まれ持った特性である、という視点で書かれているものが多い。

この本はその「HSP」を、科学的(ここかなり重要)に考察・研究してまとめられている。最近多く出版されているHSPに関する本の中ではかなり異色な部類であると言える。もっというと、そもそも「HSP」という概念すら否定している(後述)。

故に、セロトニンなど、脳の働きから過敏さのメカニズムを細かく説明しているなど、着眼点がかなり新鮮な論述が展開されている。さらに数多のHSP本でよく使われている『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ。』に収録されたHSPセルフチェックではなく、この本では著者オリジナルの「過敏性プロファイル」という尺度で、合計8項目から過敏さについて検討している。ちなみに自分は「馴化抵抗」の得点が高くなりそうなことは容易に予想できたが、いざやってみると「心の傷」の得点も高く少し驚いた。

また、この本では「愛着障害」などの著書が豊富である著者だからこその視点で「過敏さ」を論じている。実際に4章5章では発達障害や愛着障害、心の傷に関する内容を展開しており、これらが過敏性を引き起こす原因になっているという指摘もある。実際にこうしたところから音や味覚などを敏感に感じる人たちもいるはず、というのは、ほかのHSPに関する本を読んでいても気がつくところでもある。

しかし、読んでいてかなり気になった点もいくつかある。

まず、どこまでも「科学的」に分析しているため、書評冒頭で取り上げたアーロン博士の考え方を「科学的な精緻さに欠けている」として真っ向から否定しているのだが、これは本を読み解けば「そりゃそうだろ」と思う。そもそも、著者は愛着障害など「病気」になぞらえて、アーロン博士は生まれ持った「特性」である、と論じているのだから、根本的に意見が違ってくるのは当たり前のことなのだ。

著者は「ガンは断食すれば治る、という暴論に見向きしないのと同じ」などと、HSPという枠組みが科学的根拠に欠けるということをあらゆる喩えを持ち出して否定しているが、そもそも捉え方がまったく違うので、否定にかかる以前の問題だと思う。

それと、科学的根拠に欠けるHSPを「精神医学や臨床心理学を修めた人間は誰もまともに相手にしなかった」と論じているが、長沼睦雄先生のようにHSPをひとつの特性だと多く著書を出している精神科医も実在しており、このあたりは著者の認識不足やリサーチの足りなさが露呈したと言わざるを得ない。

正直な話、HSPの当事者としては、この本「だけ」を読んで敏感すぎるとは何か、過敏さとはどういう状態かを判断しないでほしいと思う。この本の帯には「敏感すぎる気質は自分で直せる!」と堂々と書かれているが、「敏感さが直る」というのはいったいどういう状態なのだろうか。そのあたりも気になった。


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