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パヤオヒロインにモデルはいるのか問題

や、どうも、悪意表出ソムリエです。

今はスタジオしばきシリーズ新作「焼き払え!」の下書き作業をしております。

パヤオの世界を蹂躙する以上、ある程度はパヤオ側に蓄積された文化資本を掘り下げる必要があるんザンスよ。
この掘り下げ自体は去年からやっているんだけどさ、本人も関係者も語ってなくて解明出来ない事ってどうしてもあるでしょ。

最大の問題はやはり、ヒロインにモデルがいるのかどうかなんだよ。
だから、そこはちゃんと見極めて行かないと、単なる原作レイプに落ちてしまうからね。
形だけを真似て精神的なバックボーンを無視するなんて、そんな薄っぺらなものを仕上げるのは、パヤオに対して失礼千万だろう。
パヤオ世界を蹂躙する以上、根底から蹂躙せねばならん。
死力を尽くすとは手加減しないという事だし、そういう礼儀を通さないとパロディのクオリティが保てないんだよ。

パヤオ当人に聞いたところで素直に答える人物じゃないみたい(ソースは岡田斗司夫の動画複数)だし、パヤオが通過したであろう文化資本を吸収し、推測や憶測でカバーするしかない。
運良く古い時代の映画のことは少しだけ詳しいオレである。
いや、専門家に較べたら全く詳しい内に入らんけどさ。

まず、これまでで何となく把握出来た自律志向のヒロインについて。

○風の谷のナウシカ
・ナウシカとクシャナ
知識人にして誇り高い戦士、同時に族長の子孫。
伝統を重んじる世界にいながら、最終的には理不尽な旧世代の呪縛を打ち破って争いに終止符を打ち、自ら歴史を刻み始める血みどろの姫たち。

この2人は相似形で、諸星大二郎「マッドメン」主人公のコドワが原型になっているとしか思えない。
いや、これは2日前にナウシカの原作を読破して把握したのだけど、物語といい絵柄といい、パヤオが諸星先生への憧れを相当募らせてたのは傍目に判るよそりゃあ。
漫画家にとって、諸星先生の持つ発想や知識や技術は喉から手が出るほど欲しいものだよ。
特に諸星先生は、手塚先生を敗北させた剛の者だし、あの世代のSF作家が憧れないとしたらちょっと不自然だよ。

神話対資本主義というマッドメンの物語の流れは「もののけ姫」にも続き、自然界対科学という面が更に強調される。
但し、コドワの役目はサンとアシタカに分割され、ちょっと軽めになる。

越えねばならない課題を持った自分自身をコドワに投影しているのではなかろうか?
つまりナウシカもクシャナも、若き日のパヤオの分身と思われる。
それ故、この2人は見た目が中性的なのではないだろうか?

○紅の豚
・ジーナ
表向きはホテル経営者兼歌手だが、自宅内の通信機器を操る技師でもある、自立した大人の女。
自宅の設備や所有する船などから、とんでもない大金持ちと推測される。

ジーナのモデルはマレーネディートリヒじゃないのかな?

みんな気付いてるよね、パヤオが大人の女を描く事を避けてるっぽいの。
だから、ジーナのモデルは推測しやすいんだよ。

ジーナが大人の女で、同時に大金持ちである必然性は、ポルコの根無し草的な暮らしぶりにあると思われる。
イタリアが舞台になってはいるが、パトロン的なジーナと甘ったれ中年ポルコの関係性は、第二次世界大戦中のディートリヒとジャンギャバンによく似ているのだ。

アメリカの市民権を得たディートリヒが、フランスを脱出&避難して来たジャンギャバンを匿った話は、彼女の伝記本で知る事が出来る。

言うまでもなくディートリヒは大スターで大金持ち、身内の面倒見がいい姉御肌だ。
あの時代の自立した大人の女代表格と言っても過言ではない。
ディートリヒは衰弱したジャンギャバンに一流ホテルの大きな部屋を充てがい、仕事まで振っていた。
どうですかこれ?ジーナの振る舞いみたいですよ?

それだけではなく、ナチスの国策映画出演を断り、米軍兵の慰問という形でヒトラーと闘った事が余りにも有名だし、エロスとロマンティシズムと戦士の要素を兼ね備えた女の人(つまりパヤオのストライクゾーンで尚且つ大人)なんて、ディートリヒ以外にいるか?

ディートリヒくらい強靭な大人でないと、ジャンギャバンもポルコも頼って行かれないだろうよ?
人脈の豊富な大金持ちじゃないと、ポルコをイタリア空軍から隠してやれないだろ?

イングリッドバーグマンの線もアリかと思ったけど、国を捨てた理由が全く違うし、戦地へ行く強靭さがないから、多分それは外れだと思う。
それに、バーグマンの生き路やあり様はどっちかっつーとクラリスに近い。

ポルコが寄り掛かったら、フィオもクラリスも皇女アナスタシアも、みんな倒れちゃうだろ?
ジーナは強い大人じゃないと物理的に無理なんだよ。

ポルコの声をあてた声優がジャンギャバンの吹き替え担当だった森山周一郎氏で、パヤオたっての希望で配役したのだから、これはワシらにとっても巨大なヒントだろう。

パヤオが通過&吸収したであろうジャンギャバンの主演映画を何本か観ると、当時の実写映画フィルムの解像度や画面に含まれる情報量の重さが把握出来て、この密度をパヤオはアニメーション画面で再現しようと模索し続けたのだと察せられる。
その結実となったのが「風立ちぬ」のやたらとギッシリ詰まった綿密な画面作りであろう。

嘗て惹かれたものを再現したくなる気持ちは、作る側の誰もが持つものなので、それはわからんでもない。
それが吸収なのだし、再現したくなるのが作家なりの消化というものだから。
吸収されたものが更に、自分の乗り越えるべき課題や壁ともなるのだ。

パヤオの生まれ年が1941年というフィルムノワール期に重なっているので、当時の実写映画を一本も観た事がないとは言わせないよ。
…いや、これはオレが勝手に察しただけですけどさ。

別個のヒントがさらにある。
本編中に登場する劇中劇アニメがベティブープを真似ている点だ。
綿密且つヌルヌルした曲線的な動き、そして画面全てが動く作り、化け物や妖怪の登場する不気味な世界観、最先端の音楽要素などなど、フライシャー兄弟の仕事は手塚先生の憧れでもあった。
あの世代で、ベティブープを壁だと思わないアニメーション作家がいたら、そりゃやっぱりおかしいだろう。
その壁を超えるかどうかは別として。
ベティブープには当時のモデルとなった女優がいて、観る側としても当時の別人を投影し易かった。
そういう余地も含んだアニメーション映画だったのだ。

例えば、パヤオよりちょっと年上の筒井康隆先生はこう仰る。

「ベティブープの怒った表情は可愛い。1930年代にはマレーネディートリヒだとか、怒った顔が美しい女優がいた。」

この部分はうろ覚えスマソなのだが。
しかも、パヤオがベティブープに何を思い入れたのかもちょっと不明で、たぶん時系列説明のアイテムに過ぎないのだけど。

つーか、パヤオ本人がわざわざ出してくれてるヒントをちゃんと拾って行かないと、一枚絵の中に別のストーリーを持たせる事は出来ないんだよ。
パヤオ絵を何枚トレスしたって外側に散らばった元ネタまで拾えないんだし、自分の絵柄で描くパロディがオレのスタイルなんだし。

こうやって礼儀正しく誠実な姿勢で蹂躙するからこそ、オレのファンアートが成立するんじゃないかー!

以上、何となく察した処まで3人分だけなんだけど、メモ代わりに公表して置くよ。

じゃ、また!

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【注釈】

・ナウシカ原作の元ネタとなっていそうな諸星大二郎作品は、「マッドメン」「生物都市」「暗黒神話」の辺りと思われる。
諸星先生は作中で結論を明示する事が少なく、ハッキリと主人公の意思が描かれるものは珍しい。
この3作は主人公の意思が結末を決めてしまう物語であり、パヤオがナウシカにアイデアを拝借したと思われる点が多い。
物語の大筋は「マッドメン」、世界設定の一部は「暗黒神話」と「生物都市」に大別出来る。
コドワは自分の意思で旧世代を否定して神話の世界から抜けて行く強い存在だ。
ナウシカとクシャナの2人は物語の終盤で明確に、コドワと同じ選択肢を採る。
それ以上はご自分の目で確かめて下さい、と今は言って置く。
ナウシカ原作は腹わたが吹っ飛び生首がボタボタと落ちる世界で、とってもグロい。
映画版の様なパンチラサービスも皆無である。
残酷描写耐性のない方には推奨致しません。

・パヤオが真似た諸星先生の絵柄
まず、人ならぬものの皮膚の質感はパヤオが諸星先生の描き方を真似ている。
パヤオのストロークは短めであるため真似ていると把握しづらいかも知れないが、ナウシカの巨神兵とマッドメンの地底人デマや大いなる者、これらの描き込み方を比較されたし。
クリーチャー造形も、ナウシカのウシアブがマッドメンのンバギとそっくりである。それぞれの正面から見た顔面を比較されたし。

・諸星先生の絵柄に系譜はない
諸星先生の絵柄はどの系譜でもない、どうやって成立したのかも判らない、BS漫画夜話で皆さん方そう指摘なされました。
いや、諸星先生の絵柄は鉛筆デッサンをつけペンに持ち替えて描いてる絵柄なのよ。
基礎的な鉛筆デッサンの技術を一通りモノにしたら、中高生でも描けるんですわ。
脳内のSF的な設計をフリーハンドで自在に出力する方へ特化したのが諸星先生のオリジンたる所以で、そこへ至る絵柄の系譜は確かに存在しないと思う。
手塚先生も、鉛筆デッサンをモノにする時間を持てば、恐らく諸星先生の絵は描けたでしょうよ。
野暮な事を承知で言っちゃうけど、美大受験を経験した作家なら察しがついてると思う。
大昔はインターネットなんぞ無かったのだが、美術雑誌の美大受験特集(みすずなど)はあったし、そういった鉛筆デッサンの参考書みたようなものが1冊あれば、ひと回り分は自習で何とかなっちゃうものなんである。

・ナウシカ原作のクシャナ殿下
実の親兄弟に生命を狙われている上、族長の子として振る舞わなくてはならない板挟みの中で、ちゃんと親兄弟とも対峙して生き残る強いヒロイン。
ブラック企業の跡取りみたいな存在であり、気の毒な度合いがナウシカよりも遥かに高い。

・マレーネディートリヒに関しては、ジーナの声をあてた加藤登紀子が「リリーマルレーン」を和訳している他、高畑勲監督作「火垂るの墓」とも同時代的な接点があろうかと思われる。
「火垂るの墓」原作者・野坂昭如(中年御三家)には「ディートリッヒなんか知らないよ」という題名の持ち歌があり、ライブアルバム「武道館の野坂昭如」に収録されている。
ディートリヒがヒトラーに音楽で対抗した事が揶揄または誉め殺し的に扱われている。
ドイツ語と英語が意図的に混ぜ込んであることからも、ちょっとした悪ふざけであろうと思われる。
焼け跡派の中年男がふざけて甘えても倒れそうにない女戦士ディートリヒは、歌う戦時ヒーローと見做されていたのではなかろうか。
母国ドイツは別として。

・手塚治虫の憧れたアニメーション作家
ディズニーへの憧れは有名だが、殊にフライシャーへの憧れが強かった事は「どろろ」DVDボックス付属のブックレット内で解説されている。

・パヤオと手塚治虫
手塚治虫の死去直後、パヤオが手塚に対する恨み言を述べたというのは有名。
どういう動機なのかは不明だが、対抗意識すら持たない相手をそこまで貶す訳も無かろうと察する。
スタジオジブリは身内が亡くなると即座にクソミソ貶す様であるし、パヤオ側が手塚先生を対等な身内と見做して苦言を呈した可能性はあるだろう。

・ポルコはかっこ悪いオッサン説
あのですね、宣伝コピーに浮かされてたら見誤るポイントなのだけど、ポルコはダサくてかっこ悪いオッサンだからね?
逃げている自分の弱さが恥ずかしくて、それで顔貌を変えて正体を隠してる、そういう情けない弱虫だからね?
中年のオッサンがそんなじゃ頼りないと自覚してるから、フィオみたいな若い女の子を掻っさらう度胸もなく、むしろ無鉄砲なフィオに圧倒されてオロオロするし、ジーナに支えられて何とか大人のフリが出来てんじゃねーか。
ダサっ!!みっともなっ!!かっこ悪っ!!

【素材となった文献】

宮崎駿「風の谷のナウシカ」アニメージュコミックスワイド判1〜7巻 徳間書店
諸星大二郎「マッドメン」河出書房 Kindle版
諸星大二郎「妖怪ハンター 1地の巻」Kindle版 集英社
諸星大二郎「暗黒神話」集英社文庫

【参考文献】

筒井康隆「ベティブープ伝─女優としての象徴 象徴としての女優」中央公論社
髙橋暎一「愛しのマレーネ・ディートリッヒ」社会思想社 現代教養文庫
鈴木明「わがマレーネディートリヒ伝」小学館ライブラリー

【参考としたYouTube動画】

町山智浩×切通理作
宮崎駿の世界その1、その2、その3
町山さん、切通さん、いつも参考にさせて貰っておりまして、誠に有難う御座います。
感謝してもしきれないほどです。
いつか出来る範囲内で、何かお礼がしたいと考えております。

【参考資料として鑑賞した映画】

「モロッコ」
「間諜X27」
「上海特急」
「鎧なき騎士」
「ブロンドヴィナス」
「恋のページェント」
「砂塵」
「キスメット」
「黒い罠」
「異国の出来事」
「ニュールンベルグ裁判」
「フットライトパレード」
「望郷」
「大いなる幻影」
「現金に体を張れ」
「ギルダ」
「地獄の天使」
「誰が為に鐘は鳴る」
「カサブランカ」
「ジャンヌダーク」
「追想」
「無防備都市」
「自転車泥棒」
「鉄道員」
「苦い米」
「汚れなき悪戯」
「情婦マノン」
「狂熱の孤独」
「市民ケーン」
「第三の男」
「レベッカ」
「回転」
「サンセット大通り」
「第十七捕虜収容所」
「人生模様」
「マタハリ」
「グランドホテル」
「酔いどれ天使」
「生きる」
「羅生門」
「白痴」
「蜘蛛巣城」
「七人の侍」
「椿三十郎」
「赤ひげ」
「どん底」
「どですかでん」
「乱」
「夢」
「まあだだよ」
「チェブラーシュカ」
「雪の女王」

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【奥付】

パヤオヒロインにモデルはいるのか問題
2019年11月6日初版発行
記憶・考案・記録・権利保有
©夙谷稀
※引用の要件を満たす場合、権利者の許諾は不要とする。盗用剽窃行為に対しては法的措置を執らせて貰うので、知識盗人・言葉盗人の皆さんは覚悟して下さいね。

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アテクシは一介のサブカルクソ野郎で結構で御座いますよ。