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これしかない感触

私が大学院の修士二年生だった頃の話である。芸術系の大学に通っていた私は数ヶ月後に修了制作展を控え、毎日のように試作を作っては手応えを確かめ、制作の構想を練っていた。

その時の試作は以下のようなものであった。

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①トグルスイッチがついた台があり、鑑賞者がスイッチを倒すと横からスイッチに向けて光が投影される。

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②光と反対側の壁にスイッチの影が映るが、数秒後に影の中だけに手が現れる。

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③影の手がスイッチを戻す動作をすると、実際のスイッチも影の動きに合わせて押し返され、その瞬間に光が消える。


この試作には可能性を感じていたものの、確実に何かが足りないと感じていた。どうも影の手がスイッチを戻すその瞬間がしっくりこないのだ。
タイミングは完璧に合っているのに、全くリアリティを感じなかった。
繰り返し動きを調整しても、その違和感は消えなかった。

頭を悩ませていたある時、興味本位で押し返される瞬間のスイッチを反対側から指で押さえてみた。
影の手が出てきてスイッチを押したその瞬間、「カツン」と小気味良い感触が押さえている指に伝わると同時に、ある映像が頭に浮かんだ。
それは人の親指くらいの身長しかない小人が、大きく振りかぶった足でスイッチを蹴り返している映像だった。

スイッチを見えないところから押し返すのには、プッシュソレノイドというパーツを使っている。プッシュソレノイドは電流を流すと電磁力によって鉄芯が押し出される部品で、これでトグルスイッチを押し返していた。
このソレノイドの鉄芯がスイッチにぶつかる瞬間の「カツン」という感触が、小人のキックという見たことも体験したこともないものを連想させたのである。

すぐさま映像を撮影し、影の映像を手から小人に差し替えて、同じ仕組みで作品を動かした。

スイッチを倒すと光が灯る。壁には自分の手とスイッチの影、そしてスイッチの影のそばには小さな椅子に座った小人の影が映っている。小人は椅子から立ち上がるとゆっくりとスイッチに近づき、後ろに大きく足を振りあげる。足を勢いよく下ろしてスイッチを蹴った瞬間、スイッチが戻され光が消える。

感じていた違和感は消え、私は影の小人に対して今までにない妙なリアリティを感じた。
これを最終的な制作方針にしようと決め、無事に修了制作展を迎えることができたのだった。


なぜこんな話をしたのかというと、ちょうど来週の土日(11/27, 28)に大阪でこの作品を再び展示する機会に恵まれたからである。
ぜひ小人に指を蹴られる感覚を、体験しに来て欲しい。

ということで最後は宣伝になってしまうのだが、展示のホームページを貼って終わりにしようと思う。

もし興味を持っていただける方がいたら、ご来場いただけると幸いである。


遠藤紘也
ゲーム会社でUIやインタラクションのデザインをしながら、個人でメディアの特性や身体感覚、人間の知覚メカニズムなどに基づいた制作をしています。好きなセンサーは圧力センサーです。
hiroya-endo.net
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