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人間交響局

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日向修二のエッセイ集。 演劇関連の話をします。
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慣れの果てに

 僕も新入社員だったころがありました。
 一度転職をしているので、新入社員という意味では2度あります。1社目ははじめての会社勤めであり、地元から遠く離れたまちだったので、慣れるまでそこそこ時間がかかりました。
 しかし慣れとは不思議なもので、その土地の電車にも、街並みにも、食べ物にも、空気にも、水にも、ひと月もすれば慣れてしまいました。そのまちには5年ほど住んでいましたが、今では懐かしさを感じます

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演劇と家と日常/非日常と面白いと『彼方のアストラ』

 僕は幸運にも、「家」には良いイメージを持っています。それは両親や兄弟とそれほど仲が悪いというわけではない、というところに起因します。目に見えて虐待を受けていたわけでもないし、経済的に苦しかったわけでもなく、すこやかに成長できた僕にとって、家はポジティブなものです。ですが、世の中には、そういったポジティブな思いを家に対して抱けない人もいるであろうことは想像に難くありません。それは家族関係のことであ

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演劇と「家」と「生活」

 東日本大震災にまつわるお話から始めます。2011年3月11日以降、創作物において何かとテーマになりがちで、猫も杓子も震災のことを取り上げていた(取り上げている)ような気がして、僕は正直いい思いを抱いていません。みんな本当に震災のことを思って創作しているんだろうか、本当にそれがつくりたいものなんだろうか、流行りにのっているだけなんじゃないだろうか、と思ってしまった(しまう)のです。ただ、これは僕自

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「寂しさ」と「家」と『舞妓さんちのまかないさん』と演劇(※漫画のネタバレがあります)

※漫画『舞妓さんちのまかないさん』のネタバレを含みますのでご注意ください。

「寂しさ」というものについて考えてみます。僕は今、寂しさを感じることはあまりないとも言えるし、いつも感じているとも言えます。それは妻と結婚したからです。

 妻がいるので寂しくないというのは本当です。家に帰れば彼女と過ごせますし、休日も一緒に映画や演劇を見に行ったりします。ふたりとも予定がないときは、家で過ごします。誰か

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