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家に帰りたくなる患者さんの気持ち。

飲水制限(1日1000ml)がある中、水を飲み過ぎないよう我慢しながら、ベッドで悶絶していると、遠くから高齢男性の声が聞こえてきた。

男性「お家に帰してください。○○(家族さんの名前?)は?いつ帰れるの??ゴホッゴホッ・・・」
看護師「今日はね、帰れないんです。ここでお泊りしないといけないんですよ・・・」
せん妄か、認知機能の影響か、状況が理解できずにひたすら帰りたいと、必死に訴える患者さんを、女性看護師さんがなだめていた。

自分も病院に勤めているので、そういう光景は今までたくさん目にしてきた。帰りたいよね・・・馴染みのない建物の中で、知らない人たちにいろいろ処置されて、自分はどうなるの?家族に会えないの?と不安に襲われて・・・
セラピストとして患者さんに向き合っている時の自分は、そういうことをいろいろ想像しながら対応していた。
でも、いくらその気持ちに寄り添おうとしても、それらは入院経験のない自分がイメージしたものに過ぎなくて、どことなく、他人事に終わっている気がしていた。

しかし、自らが今こうしてベッドの上で、いろいろ耐えながら、遠くから聞こえてくる患者さんの声を聞いてると
「あぁ、今ならとってもわかるような気がする」と思えた。

それは、単に現状が苦しいから、身内の人がいなくて寂しいから、というものだけではない。
妙な静けさの中にかすかに聞こえる機械作動音、時々心電図モニターから聞こえてくるアラーム音により、独特な緊張感を作り出しており、
さらに、首や腕に刺さっている点滴の針(留置カテーテル)、傷口の痛み、全身の火照りと寒気、同室にいる患者さんの咳払い、冷たい蛍光灯の明かり・・・身体に伝ってくるそれらすべての情報が、じわじわと自分を抑えつけてくるようだった。

でも、身体は思うように動かない。そして動かないように見られている。

そういったもどかしい状況から解放されたい・・・病気になる前の幸せだった情景が頭にあるからこそ、その時に戻りたいと願う。

その複雑な感情が「帰りたい」なのかもしれない。と。

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