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渋沢栄一へのスキ|志は持ってるだけじゃダメなことを教えてくれた

計画をちゃんと遂行するのはなかなか難しい。

私は今年のはじめに、ある創作コンクールに応募する予定を立てていた。対象は文字数5000文字程度の短い小説で、毎月公募のあるコンクールだった。

今年からフリーのライターとなり、小説の創作も意欲的にチャレンジする目標を掲げていた私は、1月から最終公募の3月まで毎月作品を完成させて応募すると自らに課し、2021年を滑り出した。一年の計は元旦にありとの意気込みで力強く走り出したつもりだった。

弾んで立てた目標は早々と霧消した。何とか1作品の応募にはこぎつけたものの、本業その他のスケジュールと合わせて到底こなせるタスクではなかったことに気付いた。1月末の応募と同時に見切りをつけ、2月以降の作品は見送ることにした。「優先順位が低いから仕方ない」引きずらないように自分への言い訳を考えたけど、もちろん己の見込みの甘さを猛省しなければならないと自覚している。

「小説執筆の練習のため、とりあえず送る」もともとの応募動機がこれでは、はかなく潰えるのも無理はない。練習のためなら何もコンクールの応募である必要はなかった。期限が設けられていない自主練習でもよかったはずなのに、まぐれ当たり狙いのスケベ心を出してコンクールに飛びついたのがそもそもの敗因だった。

ただあるだけの計画に意味はない。どう計画を持つかの戦略がなければ宝の持ち腐れになる。もっと大きな言葉を使えば、志が足りなかったことになろうか。計画という言葉をそのまま志に入れ替えても通用する。ただあるだけの志に意味はない。どう志を持つかの戦略がなければ宝の持ち腐れになる。大事なのは志をどう持つかの「どう」の部分。志が理想の未来へとつながる橋なら、「どう」はそれを支える橋脚に等しい。

考えてみると、何でも「どう」が大事にならないか。勇気を持て、思いやりを持て、他人にもっと関心を示せ。これらが大事なのはわかっているが、みんなどうやってそうなればいいのかわからないから、実用化できないままで終わってしまう。そんな例はきっとゴマンと存在する。そして、その「どう」の部分まではなかなか言及されないのが真実だ。


志を持つことの「どう」を、どう解決するか。この部分に明快に言及し、自身の中でちゃんとした答えを持っている人物は、私の中では渋沢栄一になる。かの有名な「論語と算盤」は、渋沢の志をまっとうするためのツールでもあった。

渋沢栄一には志があった。それは、民を潤し国を潤すというバカでかいスケールの志だ。

明治新政府を率いる指導者たちは、富国強兵を掲げて国造りにまい進しているものの、なんせ商売の基本を知らない武士階級ゆえ経済政策に関してははなはだ心もとなかった。民間に目を向けるとなるほど功利に長けたしたたかな商売人ぞろいだが、彼らは反対に士道教育を受けておらず徳が育っていない。己だけが得すればよいと考える銭の亡者どもだった。これでは上も下も足腰が定まらず、とても殖産興業が育つ国家など望むべくもない。

大蔵省の重職だった渋沢栄一は官を辞して在野に下り、自ら商売で身を立て経営者の範となる道を目指した。国家経済を強くするには功利主義だけでは足らず、根底に道徳精神が流れていなければならない。そのために必要とみなしたのが論語だった。渋沢は己の志をまっすぐ貫き通すためにこの古典を活用した。渋沢の本意については『論語と算盤』にくわしいから興味のある方はご一読をおすすめする。

論語には「万人共通の実用的教訓」が込められていると渋沢は言う。また、欠点の少ない教訓で商売にも適用できると明言している。実際に渋沢は論語の精神を自らの経営哲学に注入し、歴史に残る業績を打ち立てた。成功を収めた偉人の言葉だから説得力をもって響く。『論語と算盤』は、実用性の高さに目をつけた現代のビジネスマンや経営者の間でも時代を超えて読み継がれている。

商売と経営哲学のエッセンスが凝縮された『論語と算盤』。人間や社会の本質を突いた言葉がふんだんに盛り込まれているので、読む人の置かれた立場や直面する課題に合わせてさまざまな示唆を与えてくれる良書でもある。私にとっては、「志をどう持つか考えたとき、論語が思い浮かんだ」というくだりがその言葉だった。

志をどう守るか。渋沢栄一の根っこはそれに尽きると思う。結果的に成功すればよいとの考えではなかった。

冒頭で挙げた自分の例に置き換えると、結果的に作品を書いて応募すれば済む話じゃない、と教えてくれる。自分の中心に確かに存在する核の部分。これを生かすにはどうするか。エンジンとして稼働させ、未来へ向けてなめらかに発進するには何が必要か。それを考えるきっかけを与えてくれた渋沢栄一にスキを送りたい。




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