第3話 デキる男の正体 【変愛小説 M氏の隣人】
毎週火曜日、僕は彼女でも付き合ってるわけでもない、でも身体の関係がある女子大生。
マユが一人暮らししているアパートの一室に訪れるようになった。
マユとの出会いは2カ月前のことだった。
仕事を終えた僕は、明日の会議で使うパワポデータの編集を中断し、データ保存したノートパソコンをカバンに突っ込み、エレベーターへと向かった。
会社を出ると、普段の通勤では乗ることもない地下鉄御堂筋線の電車に乗り込み携帯のメールを確認した。
今日の目的地を再確認するためだ。
本町駅を通り過ぎて心斎橋駅で降りると地上にかけ上がり、アメリカ村とは逆方向の夜の繁華街へ向かって歩いていく。
その途中に位置する待ち合わせ場所のコンビニに入ると、会社の同期キクチは分厚い風俗店紹介雑誌を立ち読みしていた。
キクチはお気に入りの激安ホテルヘルス店のページをじっくりと眺めている。
なんでもその店ではこっそり最後までやらせてくれる女が多いらしい(見た目度外視なのは言うまでもないらしい)。
「バックでやれば顔なんか関係ないやん笑 ケッケッケ」
以前にキクチが言ってたのを思い出した。
キクチはコスパ重視のなかなかなクズ男だと思うけど、それ以上にクズはたくさんいるのでむしろ可愛げがある。
僕の到着に気付いたキクチは、今日のBプランをすでに計画している=デキる男然のような態度で風俗店紹介雑誌を棚に戻し、肝臓に効きそうな清涼飲料水を持ってレジに向かった。
支払いを済ませたキクチが「お待たせ」と言いながら蓋を開け、デキる男然の態度のまま一気に飲み干し、空き瓶をゴミ箱に投げ入れた(投げ入れる姿もデキる男然だった)。
キクチは今日の飲み会の幹事様だ。
ここは彼の機嫌をとっておいたほうが良いのは間違いなく、僕は
「キクリン、かっちょい~!」と完璧に持ち上げておいた。
調子に乗ったキクチは親指を立ててニヤリとしながら「今日はイケるで」とつぶやいた。
ニヤリとした口元の前歯が、虫歯で黒くなり悪目立ちしている。
キクチは大の女好きでモテたい欲がある割に、一貫して虫歯を治療しようとしない。
モテたいならモテない理由をなくすことから始めるのが基本だけど、虫歯は治さない。
僕はそんなキクチが大好きだ。
キクチは風俗と出会い系サイトが大好きな男で、そっち方面も単独行動が基本で実際に絡んだことはほとんどなかった。
せいぜい、酒を飲みながら本当か嘘かもわからないキクチの武勇伝を聞くぐらい。
そのキクチが珍しく俺を飲み会に誘ってきたのは先週のことだった。
どうせネットで知り合った女だろう
ま・・まさか、
かなり年上のお姉様・・いや、お・・おばあ様!?
いや、少しふくよかな・・・いや、関取クラスかも!?・・・
考えれば考えるほどに、悲惨なイメージしか湧かない。
だが、来るもの拒まず、何でも前向きに楽しむをモットーにしている俺は快諾した。
意外だったのはリソースがネットではなく、バーで声をかけた女ということだ。
キクチがナンパなんかできるんだっけ?と思い、詳しく話を聞いた。
正しくは、キクチとキクチの友人が飲んでいて、主にキクチの友人が声をかけ、主にキクチの友人が会話をリードして飲み会にこぎつけたらしい(やっぱりな)。
しかも相手は清楚系女子大生で、キクチは自慢げに「最低でも30はあるで」と言っていた。
いや、ちょっと待って。
30て何?
キクチはときおり自分専門用語を当たり前のように使う。
30の意味を聞いたらドラクエⅢのレベルで言えばそれぐらいというあいまいな説明だった。
意味がわからないので「どういうこと?」と掘り下げるた。
「ドラクエⅢのラスボスを倒すにはレベル40ぐらいが必要だから、人間としての最高レベルは40だから30は良いほうだよ。30ということは30/40だから10段階だと7.5相当だね」
キクチはスラスラとデキる男然で無価値なことを説明してくれた。
だったら、最初から7.5か75で言った方がわかりやすいだろとツッコむのを遠慮したのは言うまでもない。
ちなみにドラクエⅢで言えば、キクチはせいぜいレベル15程度。
自分が低レベルなのに女の容姿にうるさく点数をつけたがるキクチって、本当に大好きだ。
という流れで、僕とキクチは10分前に予約した店に到着した。
つづく。
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