Sho SAKAI

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最近の記事

「J-POP本歌取り袋回し」開催記

俳句をつくる際、ついつい歌詞の引用・借用・パロディをしてしまう。 このチープな楽しみを誰かと共有できたら嬉しいけれど、できた句は真面目な句会に投句するような代物でもない。 ではいっそ、それに特化した句会をやってみようと思いついたのが、「J-POP本歌取り袋回し」である。 袋回しというのは、俳句の遊び方のひとつで、その場で出されたお題をもとに短時間で即興的に俳句を量産するやり方だ。 句会後の酒席などで行う余興の性質が強く、お題には意表を突くようなものを選ぶことが多い。 それを

    • 映画『トノバン』が良かった。

      試写を拝見した映画『トノバン 音楽家加藤和彦とその時代』がとてもよかった。 加藤和彦と親交のあった人たちが彼のことを語る映像で、ほぼ全編が構成されている。ナレーションは無し。また、本人映像もかなり少なく、特に本人が話している映像や音声はほとんど無かったように思う。このつくりが、かえって立体的に「加藤和彦とは」を描き出すことに成功していると感じた。雰囲気だけの風景カットみたいなものも出てこない。 加藤和彦を追想したり振り返る企画は今まで、どうしても(きたやまおさむが語り部と

      • 「うむうむ。」定岡弘将インタビュー 「文法や型にはまるのを避け、うやむやにしていきたい」

        定岡弘将(サダオカヒロマサ)という神戸在住のジャズドラマーがいる。 藤井郷子&田村夏樹、加藤一平、高岡大祐、有本羅人、カニコーセン、ブルームーンカルテットといった、幅広く癖のある音楽家たちと共演を重ねているが、関東・全国ではマニアックなジャズファンにもまだあまり知られていない存在だろう。 彼の活動は、ジャズドラマーとしてはめずらしいことに、極端に彼自身のリーダープロジェクトが多く、そして、そのどれもがコンセプチュアルで一筋縄ではいかない内容だ。 例えばセロニアス・モンクの楽

        • 2023年の音楽 個人的ベスト20

          神戸の音楽酒場Otohatobaで毎年開催されている、いろいろな人がその年好きだった音楽を流すイベントに、2023年も呼んでいただきました。 年々コンサバ中年化していく私にとって、このイベントに呼び続けてもらっていることが、めんどくさがらずに新譜を聴いてみる大きな動機になっています。ありがたいことです。 年末にそちらで再生してきた20枚を、noteにも残しておこうと思います。 noteやTwitterにはいろいろな人の「年ベス」(←この呼び方もねぇ……)が溢れています。 「

        「J-POP本歌取り袋回し」開催記

          KANのこと

          NHKしか見せてもらえない子どもだった私が、小学校2年生のとき、ホームルームの余興(?)で同級生が歌っているそれを聴き、はじめて「ポピュラー音楽」という存在に出会って眼が開かれたのが、「愛は勝つ」(と「さよならだけどさよならじゃない」)だった。 それでCDをもらい、他の曲も聴き、民放テレビの歌番組的なものもはじめて見せてもらった。私にとって最初の歌謡曲/J-POPが、KANだった。 それをきっかけにテレビ/芸能界という存在を知り、ほぼ同時に「めずらしい人生」(めずらしい人生 

          KANのこと

          バイバイ、ショーター。

          18歳の夏、まだリリースのなかったウェイン・ショーターの新バンドがどうしても見たくて、0泊・在来線乗り継ぎで斑尾に行った。 知っているどのジャズとも違う、体験したことのない即興・相互作用での音楽の構築のされ方に、何が起こっているのかわけがわからなくて衝撃を受け、後にセットリストを見て知っている曲をやっていたと知ってまた驚いた。 翌年の「東京JAZZ」(初回)にも来日すると知り、すぐチケットを取った。 (余談だが、このイベントは席が埋まらなかったのか関係者招待をだいぶバラまいて

          バイバイ、ショーター。

          2022年の音楽 個人的ベスト20

          「新譜チェックばかりするような聴き方は豊かじゃない」とか、「分母何枚だよ」「どこの馬の骨かわからない奴のセレクトに何のニーズがあるのか」とか、順位をつける不遜さとか、わかりますし、ごもっともだと思います。 でもね、編む行為の面白さや、それによって自分が気づくことや、思いがけず誰かに良い出会いを提供できたときの嬉しさだって、まあ捨てたもんじゃないと思うんですよね。 そんな言い訳を用意して~、先日Otohatobaの「ランク王国」(いろいろな人が個人的年間ベストを流す毎年恒例イ

          2022年の音楽 個人的ベスト20

          𒄾𒆷𒍠𒈬

          タイトルはシュメール語でHappy New Year(のはず)、写真はチグリス川です。 チグリス川(Tigris)の源流はアルメニアにあるのだそうです。 同国出身で現代を代表するジャズピアニストのひとりであるティグラン・ハマシアン(Tigran Hamasyan)の名前とTigrisは、本を正せばきっと同じシュメール語が語源なのでしょう。 Tigrisはギリシャ語で「虎」の意。 ティグランの音楽にも、猛々しさと雄大さと歴史を感じる、というのは、さすがにこじつけがすぎるでしょ

          𒄾𒆷𒍠𒈬

          2021年の音楽 個人的ベスト20

          ここ何年か、Otohatobaのいろいろな人が年間ベストを流すイベントに呼んでもらっていて、「好きだった新譜を選び、便宜上ランキングをつける」という行為を(無責任に)楽しませてもらっています。 先日そのイベントでご紹介してきた20曲を、ゆるっとnoteにも載せておきます。ご笑覧ください。(プレイリストは末尾にあります。) 基本はアルバム単位のつもりで選んでいますが、シングルも混ざっていたり、「これは主にこの曲がピンポイントで良い!」みたいなものもあったりします。 今年は結果

          2021年の音楽 個人的ベスト20

          夫婦別姓は筋が悪い

          夫婦別姓は、制度設計としての出来(でき)が良くない、と、ずーっと思っています。 ……と言うとだいたい「別姓に反対だと!? この家父長野郎が!」みたいなそしりを受けるんですけど、そうではないつもりです。 その誤解も解きたいし、自分の考えに誤りや理解の至らなさがあれば修正したいので、こわごわ考えをまとめます。 前置き私のことをご存知ない方も読むかもしれないので断っておきますと、私はいわゆる左翼・リベラルで、家父長制的なものは滅びればいいと思っている人間です。 なお、フェミニスト

          夫婦別姓は筋が悪い

          京極杞陽はビールをのむ

          「大衆にちがひなきわれビールのむ」(京極杞陽)という俳句がある。 私は大衆に違いないと認めるのは、しんどい。けれどそれは楽になることでもある。 四十手前になってもなお何者にもなれておらず、しかし自分が何者かであるような錯覚を捨て去ることもできていない私にとって、とても響く句だ。 とても響く、と書いたけれど、それはあくまでこちらの勝手であって、句自体は強烈な情緒を醸しているわけではない。 自嘲的とはいえ、ニヒリズムやペシミズムと読み取るにはどうも明るい。 この句の眼目はむし

          京極杞陽はビールをのむ

          あけましておめでとうございます。

          フランスの作曲家ダリウス・ミヨーに、『屋根の上の牛(Le Bœuf sur le Toit)』という曲があります。 ジャン・コクトー脚本によるシュルレアリスム・バレエの楽曲ですが、当初はチャップリンの映画のために書かれたものでした。 屋根の上の牛といえば、ペルーでみられる、ひょうきんなシーサーのようなこちら。 「プカラの牛」と呼ばれ、家内安全、幸運や繁栄のお守りなんだそうです。 大変な世界ですが、皆様が健康で楽しく過ごしていけますよう、祈念いたします。 本年もよろしくお願

          あけましておめでとうございます。

          If We Make It Through December

          こんな年のクリスマスにふさわしいというか何というか……。 フィービー・ブリッジャーズによる「If We Make It Through December」のカヴァーがすこぶる良くてすこぶる悲しかったので、みなさんも聴いて悲しくなったらいいと思います。 まず、マール・ハガードの原曲がこちら。 寅さん的というか落語的というか、「なんとか年が越せたら、あったかいとこでも行こう、温泉とかさ、まあどうにかなるよ、あっはっは」みたいな曲だと思ってました。 それが、こうなる、と。

          If We Make It Through December

          サマージャム'20(withコロナ)

          いつまで傷ついてんだ、この中でなんとかやってくしかしょうがないだろ、と言われても、それはそうなんだけど、わかってんだけど、“withコロナ社会”のやっていき方なんてクソほど考えたくない。 「withコロナ社会をサバイブする仕事術」とかまじサブイボ。サバイブ=サブイボ。 あれだ、大学三年生になったら、周囲が突然「やっぱり商社は〜」「私はもともと建築が好きで〜」とか言い出した気持ち悪さと似ている。(もっとも、仕事社会全般がこの気持ち悪さと似ているとも言え、目をつぶって猛進できない

          サマージャム'20(withコロナ)

          [備忘録] Music from Seattle

          Luke Bergman について調べていたら、シアトルの音楽シーンに興味がわいてきました。 古くはニルヴァーナ、パールジャムと「サブ・ポップ」みたいなイメージでしたけど、そうか、KEXP(NPRと並ぶ信頼のブランドですよね)はシアトルのFM局なんですねー。 アングラジャズ人脈的には Racer Sessions というのが重要な役割を果たしているっぽいですね。 ひとまず気になった名前をざっとリストだけ。 Abbey Blackwell https://soundclou

          [備忘録] Music from Seattle

          Introducing Luke Bergman

          久々に、好きな音楽家のリストに新しい名前が加わりました。 シアトルを拠点に活動するマルチ弦楽器奏者で、Bill Frisellのアルバム『Harmony』でサイドギターやベースを弾いていた、Luke Bergmanさんです。 * いきなり余談ですが、『Harmony』、個人的にはフリゼールのここ10年くらいの中でベスト、数あるリーダーアルバムの中でも屈指と思っています。おなじみペトラ・ヘイデンと、ハンク・ロバーツ、ルーク・バーグマンとの4人編成。タイトルの通り、ほぼ全ての曲

          Introducing Luke Bergman