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2023年の音楽 個人的ベスト20

神戸の音楽酒場Otohatobaで毎年開催されている、いろいろな人がその年好きだった音楽を流すイベントに、2023年も呼んでいただきました。
年々コンサバ中年化していく私にとって、このイベントに呼び続けてもらっていることが、めんどくさがらずに新譜を聴いてみる大きな動機になっています。ありがたいことです。
年末にそちらで再生してきた20枚を、noteにも残しておこうと思います。

noteやTwitterにはいろいろな人の「年ベス」(←この呼び方もねぇ……)が溢れています。
「年末になると、Pitchforkとミュージックマガジンのランキングを並び替えて悦に入る奴が大量発生する」みたいな揶揄も、けっこう目にするようになりました。
そう言いたくなる気持ちはわかるし、私自身も食傷気味なところはあるんですが……まあ、どなたかにとってよい出会いがあれば幸いですよ。

1. Siril Malmedal Hauge & Kjetil Mulelid 『Blues And Bells』

下記の記事の取材時に、BAR MEIJIUさんで教えてもらった1枚。ノルウェーのピアニストとボーカリストのデュオを基本としたアルバムで、ニック・ドレイク等のカバーもやってます。美しいのだけど、どこか変で、個性的な質感のあるアルバム。途中入ってくるゲムスホルン(笛)は、最初に聴いたときは声かと思いました。


2. Fred Hersch & Esperanza Spalding 『Alive at the Village Vanguard』

こちらもピアノと歌のデュオによるライブ盤。ここまでいわゆるジャズ・ボーカルに徹したエスペランサをまるごと聴ける作品はあまり無いような気がします。親密で気さくで、そして深い。未聴でしたら、M-7、エグベルト・ジスモンチ曲の「Loro」だけでも聴いてみてください。フレッド・ハーシュが去年もご無事で何よりでした。


3. Gabriels 『Angels & Queens』

M-7 「We Will Remember」、バーバラ・ストライザンド「追憶」にこういう今日的な解釈の余地があるとは思いませんでした。クィア・オルタナティヴ・ゴスペル。今年サマソニで見て感動した、という声を、周りでもちらほら目にしました。生で見たらすごいだろうなー。


4. säje 『säje』

「もしこんなふうに歌が歌えたらな。歌が上手いっていいな、うらやましいな」とより強く思わされるのは、すばらしいソロシンガーを聴いた時よりも、すばらしいコーラスを聴いた時です。女声4声によるジャズ・コーラスグループ。といっても、マンハッタン・トランスファーとかニューヨーク・ヴォイセスみたいなものとはぜんぜん違う、めちゃめちゃ今っぽい音楽です。コーラスアレンジすごい。ベッカ・スティーヴンス好きな人はぜったい好きなやつ。


5. KID FRESINO 『that place is burning (feat.ハナレグミ)』 [single]

KID FRESINOのラップも永積崇のヴォーカルも良いですけれど、何はさておき、演奏が好きすぎます。手数はあっても抑制的な倍転。フレシノバンド(=石若駿、三浦淳悟、小林うてな、斎藤拓郎、西田修大、佐藤優介)は今、優河の魔法バンドと並んで国内最凄の「バンド」だと思います。


6. Joni Mitchell 『Joni Mitchell at Newport』

昨年サプライズ復帰したジョニ・ミッチェルのステージを収録したライブ盤。(詳しい方曰く、わりとリプロダクションされているみたいですが。)もう、ジョニ・ミッチェルがそこにいて歌っているだけで、はわわわ、とならざるを得ないし、ジョニを囲む年下世代のミュージシャンたちも皆同じくそのモードにある感じが伝わってきて、ぐっときます。


7. NewJeans 『Get Up』 [EP]

NewJeansおじさんとブラー・オアシスおじさんはどちらがマシなのか問題(a.k.a おじさんがカラオケで古い歌を歌うのと新しい歌を歌うのはどちらがマシか問題)、考えれば考えるほど「どっちもダメ」という答えしか導き出せなくて、加齢ってつらいですね。


8. Rob Mazurek & Exploding Star Orchestra 『Lightning Dreamers』

シカゴ・アンダーグラウンドの作編曲家 ロブ・マズレクの新譜。前作『Dimensional Stardust』よりもキャッチーで、どこかユーモラスさも増した感があります。2022年に亡くなってしまったジェイミー・ブランチも参加。M-1「Future Shaman」、クセになります。


9. 中西レモン feat. Donuts Disco Deluxe & Monaural mini plug 『ODORI ONDO』

サブスクなし。岸野雄一さんが手がける隅田川の生演奏盆踊り(を中心とした地域とカルチャーのあり方を再考・再構築する一連の実践)から生まれたレコードで、A面は江州音頭のヒップホップ化(ANI、ロボ宙、AFRA、イトケン、栗原正己、エマーソン北村などなど参加)、B面はモーラム化。アレンジを手がける「すずめのティアーズ」は『ポリフォニー江州音頭』もすごかったです。


10. Pearl & The Oysters 『Coast 2 Coast』

Stones Throw(ベニー・シングス、ジョン・キャロル・カービー、Kieferなどなどをリリースしているロサンゼルスのレーベル)諸作の中でも、ひときわフレンドリーで「ちょうどいい」サウンド。聴くとちょっとだけ気が晴れます。夏に神戸ポートピアホテルのプールサイドでライブがあったんですよね。あそこで見たらぜったい気持ちいいよね。行きたかったな。


11. Brad Mehldau 『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles』

種々の革新的な作品を生み出してきたジャズピアニスト、ブラッド・メルドーが、ソロピアノによるビートルズ曲集をリリースしたこと自体に驚きました。リラックスしてみえる演奏だけど、メルドーの「ピアノの上手さ」が際立ちます。


12. Lankum 『False Lankum』

アイルランドのフォークロアと思って聴いていると、じわじわ悪夢のインダストリアル・ドローン・アンビエント(?)に突入していくM-1「Go Dig My Grave」をまずは聴いてみてください。昨年のShovel Dance Collective 『The Water is the Shovel of the Shore』にもビックリしたけど、これもビックリ。上記9.の中西レモン、すずめのティアーズや民謡クルセイダーズなど、国内でも民謡の再解釈的な活動が目立つ昨今ですけど、世界的にもその潮流がきているんですかね。


13. Loraine James 『Gentle Confrontation』

これ、すんごかった。ドリルンベースでグライムでアンビエントで、かなりしっかりR&B。新しくて変で尖った音楽でありながら、不思議と心地よく聴けます。1曲、mouse on the keysとの共演曲もあり。


14. Genevieve Artadi 『Forever Forever』

ルイス・コールとの2人ユニットKNOWERで知られるジェネヴィーヴ・アルターディのソロアルバムで、ペドロ・マルチンスらブラジルの新世代へんてこ音楽家が参加しています。曲によってはエルメート・パスコアール風味を感じる、いかにもイマドキの音楽オタク受けしそうな作品(まんまと好き)。
(個人的にはWuja Bin Bin / MONG HANGとかなり通じる部分を感じるんだけど、ジャズプロパーではない人がつくるこの種の音楽、という点で通じるものがある……のかな?)


15. The Rolling Stones 『Hackney Diamonds』

大傑作だとは思わないけれど、80歳のミックとキースが、ある意味「通常運転」な新譜をリリースしてくれただけで嬉しいです。(*通常運転=サウンドプロダクションはめちゃくちゃ時代がかっていて、しかし演奏内容や楽曲自体の作風は昔と何も変わらず、1〜2曲キャッチーな曲があって、それらはリリースツアーで演奏された後に次のツアーの頃には本人たちにも存在を忘れられることがほぼ確定している)
ポール・マッカートニー参加曲は、ベース歪ませすぎで面白かったですね。個人的なハイライトはM-3「Depending On You」でした。


16. FIZZ 『The Secret To Life』

ごった煮でパーティー感のあるロック。Superorganismとか、あるいはBOaTを少し思い出したりもしました。アイルランドのバンドで、本作が1枚目とのこと。


17. Beharie 『Are You There, Boy?』

2023年はソウル/R&Bの良作も多かった気がしますが、個人的に特に刺さったのはこれですね。ノルウェーのフランク・オーシャン? 明るさも暗さもありつつ、基本的に穏やかな音楽。


18. Arooj Aftab, Vijay Iyer & Shahzad Ismaily 『Love In Exile』

ウルドゥー語で歌うパキスタン系のSSW、アルージ・アフタブ。2021年のアルバム『Vulture Prince』があまりに良くて、ずっと愛聴しています。この3人の組み合わせでリリースの準備があるという情報は以前からあって、楽しみにしていましたが、個人的には悪い方に予想通りの作品でした(素晴らしいんだけど、聴くとどんよりする)。NPR Tiny Deskにも登場してるんですけど、あの部屋がこんなに不穏になってるの、はじめて見ましたよ。


19. Gia Margaret 『Romantic Piano』

少しだけ気分が上向くような、アコースティック楽器をベースとした、ポジティブでものわかりのよいアンビエント。ぜんぜん存じ上げなかったんですが、一時的に声を失っていたSSWが、リハビリ的に(?)作ったアンビエント/インスト基調作なんだそうです。


20. Rhiannon Giddens 『You're the One』

リアノン・ギデンズは、Tボーン・バーネット案件への参加や、クロノスカルテット、ベン・ハーパー等との共演もあるSSWで、本作が5枚目のアルバム。まるで70年代名盤のリマスターのようですが、2023年に新しく作られた作品です。新譜にはどうしても未知の新規性を希求しがちですけど、特に斬新ではない音楽が新しく作られたっていいし、そういう良い音楽だってあるよね、と改めて。


以上です。

2023年の話題作といえば、カッサ・オーバーオール、サンファもありました。生音派ライブ主義者の私は、どちらも、タイニーデスクになるとぐっと魅力的に感じるし、タイニーデスク見てから聴くと音源の解像度も上がるし、けどやっぱり音源よりタイニーデスクの方が好きと思っちゃうんですよね……。

そして、あまりに相次いだ音楽界の訃報は、今までの年とはちょっと比べ物にならない感じでしたね。
2023年が特異点というよりは、これから毎年ずっとこうなんじゃないか、という気がしますし、そう思うと加齢ってつらいですね。

Jeff Beck、 高橋幸宏、 David Crosby、 鮎川誠(シーナ&ロケッツ)、 Burt Bacharach、 Trugoy the Dove(De La Soul)、 岡田徹(ムーンライダーズ)、 恒岡章(HI-STANDARD)、 黒田隼之介(sumika)、 Wayne Shorter、 David Lindley、 Jim Gordon、 坂本龍一、 Ahmad Jamal、 Mark Stewart(The Pop Group)、 Harry Belafonte、 Tina Turner、 Astrud Gilberto、 夏まゆみ、 PANTA(頭脳警察)、 Jane Birkin、 Tony Bennett、 Sinead O'Connor、 Robbie Robertson(The Band)、 谷村新司、 OLAibi、 Carla Bley、 もんたよしのり、 櫻井敦司(BUCK-TICK)、 犬塚弘、 HEATH(X-JAPAN)、 KAN、 Shane MacGowan(Pogues)、 チバユウスケ、 巽朗、 Amp Fiddler

ありがとうございました。あらためてご冥福をお祈りします。

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