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夫婦別姓は筋が悪い

夫婦別姓は、制度設計としての出来(でき)が良くない、と、ずーっと思っています。
……と言うとだいたい「別姓に反対だと!? この家父長野郎が!」みたいなそしりを受けるんですけど、そうではないつもりです。
その誤解も解きたいし、自分の考えに誤りや理解の至らなさがあれば修正したいので、こわごわ考えをまとめます。

前置き

私のことをご存知ない方も読むかもしれないので断っておきますと、私はいわゆる左翼・リベラルで、家父長制的なものは滅びればいいと思っている人間です。
なお、フェミニスト(的)でありたい、と思っていますが、フェミニズムの理論については勉強中なので、その部分でおかしなことを言っていたり、無自覚な差別意識やよくない男性性が発揮されてしまっていたら、そこはぜひご指摘いただきたいです。

論点の所在

夫婦別姓を求める理由は、ざっくり次の3つに集約されるように思います。

A. アイデンティティ的側面(=生まれもった/親しんだ名前を変えたくない)
B. 平等の側面(=二人のうち一方だけが何かを強いられるのはおかしい)
C. 手続き的側面(=改姓による面倒を無くしたい)

しかし、A・B・Cの間にはコンフリクトがあって、別姓にしてもこれらが同時に解決はされないだろう、というのが私の考えです。

姓って?

姓というのはそもそも「家族(ないし集合、出自や場所など)単位を表現する」ことによって「個体を識別するもの」だったわけですよね、たぶん。
太郎っつってもいっぱいいるけど、川んとこの太郎だ、的なことですよね。

ですが、現代では、例えばFacebookで知人の名前を検索したら、ざーーっと並んだ同姓同名の中から、顔写真・出身地・出身校・勤務先など他の情報をもとに本人を識別しますよね。
戸籍や住民基本台帳を、あるいはデカい会社の勤務表やら何やらを、氏名(だけ)で管理してたらどエラいことになります。
いま、姓に「個体識別」の機能はほぼ無いわけです。
となると、現状残っている「姓がある意味」(意味があるとすれば、です)は、前者の「家族(集合や出自や場所など)単位を表現するもの」ということになるのだと思います。(おかしかったらつっこんでください。)

姓にアイデンティティを持つこと自体が「伝統的家族観」的

であるならば、家族(集合や出自や場所など)を表現しようと思わないなら、そもそも姓はいらないわけですよね。
ひるがえって、姓を持ちたい、維持したい、「姓は自分のルーツを表現するもの」で「生まれもった名前を変えたくない」という考え・気持ちは、それ自体がイエ制度的なものに明確に依拠しているわけです。

加えて、その姓は、片方の親のものですよね。(且つ、現在では、その圧倒的に多くは父親のものでしょう。)
自分が失いたくないアイデンティティのように感じているそれは、誰かがアイデンティティを失ったことによって成立しているものなわけです。
平等を考えるならば、氏姓制度自体、そもそも構造的に難があると思うんです。

利便は正しさを損ない、正しさは利便を損なう

子供の姓に関しては、「夫婦は別姓で、子供はそのどちらかの姓を名乗ればいいじゃん」という反論があるんだろうと思います。
でも、片方が消える不均衡は残りますし、いつ・誰が・どのように選ぶのかに難しさがあると思います。(仮に「一定の年齢がきたら本人が決める」として、それまではどうするのか。本人が決めたタイミングで改姓するなら、手続きの面倒は残ります。)

「子供には、両親どちらの姓でもない姓を自由に名付ける」という考えもありますが、これはもう「姓」じゃなくて「名」ですよね。全部がgiven nameで、family nameという概念はなくなります。

では、どうすれば、正しく姓を姓として維持できるのか(維持したいとして)。

「子供は両親の姓を両方とも受け継ぐ」のはどうでしょうか。
現状よりはマシかもしれませんが、「どっちが先にくるか」に不平等・不均衡の問題が残りますし、また、何より次世代、次々世代と、名前がひたすら長くなり続けていくことになります。

あるいは、結婚したり、独立して親の戸籍を抜けたタイミングで、その新しい世帯固有の姓を作る(例:田中と鈴木が結婚して佐藤を名乗る)というやり方もあると思います。
これなら平等だし、家族単位の表現になるし、理論上は一番スッキリする気がします。
ただ、「改姓による面倒」を「全員」が負うことになるので、手続きの煩雑さをなくすために別姓にすべきと考える人たちにとっては何ら解決になりません。

じゃあどうすればいいのか

A、B、Cを同時に解決する方法があるとすれば、やはり「無姓」だと思います。姓じたいをやめる。
切り替える第一世代だけは面倒・不利益を被りますが、それ以降は全てスッキリします。

だいぶ極端な話で、別姓どころではなく国民的合意を形成するのが困難だと思いますけど、根本的に解決をはかるならそれしかなくないですか?というのが私の考えです。

かたや、姓というものをもし存続させたいのなら、同姓の方が理屈の上で合理的なように思います、と言わざるを得ません。書いてきたように、「姓」ってそういうものなんじゃないですか?
(※それが良いことだとか素晴らしいとか言ってませんし思ってませんよ。)


蛇足ですが、お前は選択的夫婦別姓に反対なのか、と聞かれれば、少なくとも反対ではありません。
現に多くの人に不利益や葛藤が生じていて、且つ、ほとんどの場合それを女性が負っている(法制度がそう規定しているわけではないにせよ現実として)のが、健全な状態だとは思いません。
あと、「別姓だと絆が壊れる」云々みたいな言説は、言うまでもなくただのバカだと思っています。
おそらく現状よりはマシであり、それを希求する人たちがたくさんいて、新たな害悪を生みもしなさそうである以上、「それだと筋が悪いし完璧に改善されないからダメ」と言う道理も無いでしょう。

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