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2022年の音楽 個人的ベスト20

「新譜チェックばかりするような聴き方は豊かじゃない」とか、「分母何枚だよ」「どこの馬の骨かわからない奴のセレクトに何のニーズがあるのか」とか、順位をつける不遜さとか、わかりますし、ごもっともだと思います。
でもね、編む行為の面白さや、それによって自分が気づくことや、思いがけず誰かに良い出会いを提供できたときの嬉しさだって、まあ捨てたもんじゃないと思うんですよね。

そんな言い訳を用意して~、先日Otohatobaの「ランク王国」(いろいろな人が個人的年間ベストを流す毎年恒例イベント)でご紹介してきた20枚を、今年もnoteにも残しておこうと思います。


20. Bobby Oroza 『Get On the Otherside』

こういうレトロなソウルのざらざらした質感をわざと企図したような音楽を「ヴィンテージ・ソウル」と呼ぶんだそうです(モダン・ヴィンテージ・ソウル、ネオ・ヴィンテージ・ソウルとも)。
フィンランド出身、カリフォルニア拠点のシンガー。ちょっとMOCKYぽさもありますよね。


19. Field Guide 『Field Guide』

カナダのSSW。いわゆるオルタナティヴ・フォークって、深淵・深刻な方に向かっていくものが多くて、こういう明るさがある人は珍しいような気がします。
ペダルスティールが気持ちよく、生と加工の塩梅もいい具合です。


18. FKJ 『V I N C E N T』

フランスの人気トラックメイカー、5年ぶりの2作目(※その間に、ピアノ演奏のみのアルバムはリリースあり)。
生演奏成分多めで、リゾート感、エロさもありつつ、チルというよりどちらかと言えばダル、それでいてポップ。
カルロス・サンタナが参加している曲もあったりします。


17. Naima Bock 『Giant Palm』

元Goat Girl(私はそのバンド存じ上げなかったんですが)ベーシストの初ソロ作で、Sub Pop(ニルヴァーナ等でおなじみのレーベル)からのリリース。
いわゆるアシッド・フォークでありながら、「幼少期をサンパウロで過ごし、お父さんはブラジル人」という経歴がちょっとわかる気がするサウンドです。コーラスワークも印象的。


16. Charlotte Adigéry & Bolis Pupul 『Topical Dancer』

シニカルでややコミカルなダンスミュージックに聴こえますが、曲のモチーフは植民地のマイノリティの被虐の歴史だったりするようです(2人はそれぞれ仏領の島国とマカオがルーツ)。
トーキング・ヘッズやプリンスへのオマージュもあり。


15. Michael Scott Dawson 『Music for Listening』

決してダウナーは方にいかない、前向きで親しげな感じのアンビエント。
この方もカナダ人ですね。今年はなぜかカナダと南米のものを多く選んでいました。


14. Sam Gendel & Antonia Cytrynowicz 『Live A Little』

「当時11歳だった友達の娘が即興で歌う歌がめちゃめちゃ面白かったので伴奏つけた」というアルバム。制作風景の映像は否応なく映画『レオン』を想起させます。
サム・ゲンデルはここ何年かの全音楽を代表するトリックスター(?)で、非常に多作な人ですが(2022年は自分名義だけでアルバム3枚)、中でも異彩を放つ1枚です。


13. Shovel Dance Collective 『The Water is the Shovel of the Shore』

UK全土のトラッド/民謡から、労働者や奴隷、女性、クィア(と解釈できる?)のうたを収集・再解釈し演奏している全9人のコレクティブなんだそうです。
本作はタイトルの通り「水」にまつわる楽曲を集めたもの。フィールド・レコーディング&ミュージック・コンクレート的なアプローチもあって、サウンドの面でも面白いです。


12. Lucrecia Dalt 『¡ay!』

ニューエイジ×ラテン・フィーリング、ポップで前衛、浮遊感の中にアコースティックの生々しい質感が残る、未体験の音楽。
コロンビア出身ベルリン在住の音楽家。各所で話題となっていたのが納得の面白さでした。


11. Hiroe Morikawa & JAERV 『Hiroe Morikawa & JAERV』(JAERV 『A Swedish Mile』)

スウェーデンのトラッド・バンド=JAERVと、兵庫の箏奏者/シンガー=森川浩恵。両者共演による3曲がデジタルリリースされ、その後リリースされたJAERVのアルバムにも、その中からこの「花笠音頭」が収録されました。
邦楽を西洋音楽に変換する困難さやモヤモヤは残るし、まあ正直ややダサいとは思うんですけど、そこを超えてくるエモさがあります。(矢野顕子がマーク・リボウ、ジェイ・ベルローズ達と「ふなまち唄」をやったときのような。)


10. Amanda Sum 『New Age Attitudes』

カナダ産のインディ・ポップ。いろいろちょうどいいです。
タイトル『New Age Attitude』の通り、さらっと政治的に正しい感じや、「パフォーミングアートやってるんだけど初の音楽作品を作ったよー」的な気張らないスタンスに、今っぽさ・若さを感じます(ポジティブな意味で)。
サウンドは、もしかしてシティポップブームの影響もあったりするのかな。


9. Beth Orton 『Weather Alive』

震えっぽく、タイムがどっしりと後ろな歌唱が印象的。サム・アミドンの配偶者で、ケミカル・ブラザーズ作品への参加等でも知られるイギリス人シンガー。
6年ぶりの本作にはSons of Kemet界隈の面々(UKジャズ新世代)やShahzad Ismailyなどが参加。この曲はU2みたいな趣もありますね。


8. Jacob Collier 『Piano Ballads (Live From The Djesse World Tour 2022)』

YouTube時代の若きバカテク・マルチプレイヤーとして登場し、いまや大スターとなったジェイコブ・コリアーが、ピアノ弾き語りだけで臨んだツアーの模様を収録したライブ盤。
あまりにも有名な曲のオンパレードで(「Let It Be」に「Can't Help Falling In Love」みたいな感じばかりで2枚組!)、全曲で会場全員が大合唱。「誰もが知ってる曲をみんなで歌う喜び」のエモさが満ち溢れています。おなかいっぱい。


7. Anat Cohen 『Quartetinho』

タイトルはポルトガル語で「カルテットちゃん」みたいなニュアンスみたいです。
イスラエル出身でアメリカで活躍中のクラリネット奏者。近年はブラジル音楽に傾倒していて、本作ではジスモンチの「Palhaço」やジョビンの曲も取り上げています。可愛げとシリアスが同居する快作だと思います。


6. 池田若菜 『Repeat After Me (2018-2021)』

吉田ヨウヘイgroupの元メンバーで、ザ・なつやすみバンド等にも参加していたフルート奏者。
現代音楽のコンポジションとインディポップ的なものの間をやりたかった(というような説明をどこかで見た記憶があり)という本作は、まさにそのハイブリッドな良さを感じました。? meytél(vo)や岡田拓郎(g)が参加。


5. Ovilia 『Imágenes a Través de la Ventana』

コロンビアのインディー・バンド(SSWなのかな?)。
背筋がピリッと伸びる感じ(畏)と、癒し的な感じ(慈)の両方を同時に備えた、神様みたいな音楽だと思います。霧がかった早朝の伊勢神宮を思い出しました。


4. Bruno Berle 『No Reino Dos Afetos』

ブラジル版タイニー・ポップ? 宅録っぽいローファイさが絶妙に心地いいです。
曲ごとのバリエーション、引き出しの多さと、根明っぽい明るさも印象的。
鳥 & Bruno Berle 名義(鳥……??)のシングル「Descese」も良かったです。


3. John Scofield 『John Scofield』

※上の映像は、アルバムに収録されているものとは違う演奏です。

高度な技術と個性で「変態ギタリスト」と呼ばれたジョンスコが、齢を重ねて至った境地のようなソロギター。
焼きが回った、みたいな評価もあると思いますけど、僕はキャリア最高傑作と言ってもいいと思っています。
ジャケットも良いし、何十枚もアルバムを出している人が71歳ではじめてセルフタイトルというのもグッときます。


2. Michelle Willis 『Just One Voice』

デヴィッド・クロスビーの近作にも参加していた、イギリス出身カナダ育ちSSWのセカンド・アルバム。
この曲はとにかく、意表をつく展開(最後まで聴いてね!)にブチ上がり、マイケル・マクドナルドで涙腺崩壊します。
この#7「How Come」から#9「Til the Weight Lifts」(グレゴア・マレ参加)までの流れは特に素晴らしいですね。


1. Delfina Mancardo 『Octante』

2022年に圧倒的に一番よく聴いた(ミニ)アルバムです。
アルゼンチンのSSWで、ネオソウル、ジャズ、フォーク、フォルクローレなどをふまえたアコースティック・ポップ。
特に目新しい音楽ではないけれど、美しく、心地よく、バンド・アンサンブルのよろこび(ラスト曲「Paraguas Multicolor」の、抑制的なベースと若干やりすぎなドラムでリフレインする終盤とか!)にも満ち溢れています。



以上です。
今回はなんだか、低体温でふわっとした音楽が多く、来場した友人からは「仕事休んでだらだらしてる平日の午後2時の音楽」と評されました。(たしかに個人的にそういうムードが漂う2022年ではありました。特に前半。)
結果的にDOMi & JD BECK、宇多田ヒカル、The 1975、The Weeknd、Beyonce、Arctic Monkeys、Bad Bunny、Immanuel Wilkins、Samara Joy、松丸契、岡田拓郎 などなどが選外となったわけですが、逆張りやマニア志向と思われたら嫌だなーー。

気に入っていただけるものがあれば幸いです。

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