野中翔斗

BL小説を書いて生きてゆきたい。 雑誌等で何度か受賞しましたが、 自由にいろんなもの…

野中翔斗

BL小説を書いて生きてゆきたい。 雑誌等で何度か受賞しましたが、 自由にいろんなものを書いてゆきたく、 個人での発信に挑戦ちゅう!ですペコリ。 サンプル作品、幾つか無料で載せています。 気に入っていただけたら、有料作品&サポートも、どうぞよろしくお願いいたします!!

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  • ココロノコリ

    【長編小説】 十七歳になるはずの誕生日、川村若葉は、自分の通夜を眺めていた。 どうやら自分は事故で死んだらしい。そして、たったひとつの心残りのために、成仏できずにここにいる。 一緒に事故にあったはずの伊東雄大を探して、若葉はすでに自分の居ない夜へと足を踏み出した。 (某コンクール入賞作につき、無料公開しています。)

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ココロノコリ 1ー1

†  母さんが、泣いてる。  生きていたら十七回目の誕生日だったはずのその夏の夜、川村若葉が最初に気づいたのはそのことだった。  若葉の家は、祖父の代まで大きな農家だった。大学を出たあと地元の役場に勤めた父は家業を継がなかったけれど、今でも本家と呼ばれて盆暮れには親類縁者の帰省場所になるこの家には、仕切りのふすまを払ってしまえばだだっ広い空間に変わる和室が多くある。中でも、今若葉が立っている仏間は、普段は閉めてある左右の部屋との仕切りを開ければ、優に三十畳の広さになる。  知

    • ココロノコリ 1-10

      ☮ 「ほらほら、ここだって! めっちゃいっぱいパトカー停まってたもん!」  川村の問いかけにふいをつかれて、答えあぐねている内に、坂の上のほうから嬌声が降ってきた。そちらを振り返る雄大の視線を追って、川村がかすかに驚いた顔をした。 「えー、ちょっとやめなよ。人死んでんでしょ? 怖いじゃん」 「あー、暗くて全然見えないわ。落ちたの崖の真ん中へんだもんね。もっとこう、血がドシャーってなってて、チョークで描いた人型とかあるかと思った。ドラマみたいにさ」  図書館の職員と思われる人影

      • ココロノコリ 1-9

        ☮  雄大の寒さがうつったかのように、川村もきゅっと両腕で、自分の身を抱いた。 「撫でてほしかったんだね」 「え?」 「今の猫。さっき、うちの方でも見かけたんだ。もしかしたら僕についてきたのかもしれない」 「──へぇ」 「死んでるみたいなのに、普通にトコトコ歩いてるから、こいつにも心残りがあるんだなって……消えられないんだなって、思ったんだけど」 (心残り)  川村の口から発せられるその言葉は、なんだかやけにさらりとしていて、雄大をやるせない気分にさせる。  ──心残り。 (

        • ココロノコリ 1-8

          ☮  みゃあおう、と、夜の底から甘い声がして、雄大は足元を見下ろした。サンダル履きの雄大の足にするりと身を寄せる、猫の毛皮のしなやかさが、自分にはもう本当の触覚はないのだろうことを忘れさせる。  川村の小さな顔から目をそらさせてくれたことに感謝して、雄大はその猫の、小さな白い身体を抱き上げた。 「うわ、あったけぇ」  そう口にしてから、そういえば川村の言うとおり、なんだか少し寒い気がすることに気づく。晴れた夏の宵だというのに。  腕を返してじゃれつく猫を遊ばせていると、川村が

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        ココロノコリ 1ー1

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        • ココロノコリ
          10本

        記事

          ココロノコリ 1-7

          †  なんだか急速に、寒さが沁みてきたような気がして、若葉は両腕で、身体を抱える。死んで実体のない自分が、寒さを感じるというのが、妙に馬鹿げて感じられた。 「寒い、ね」  伊東はかすかに戸惑った顔で、ようやくもう一度若葉を見る。あざけり以外の表情を浮かべると、やはり自分と同じ年頃の少年の顔に見える。 「寒い?」 「うん。死んでるのにね」  ふ、と、伊東が笑った。キツい目元が緩むと、もとが整った顔立ちの伊東はずいぶん華やかに見えて、今度は若葉のほうがうつむいてしまう。 「やっぱ

          ココロノコリ 1-7

          ココロノコリ 1-6

          †  この一年、無抵抗の若葉に執拗に嫌がらせを繰り返した少年たちの中心には、いつも伊東雄大がいた。  上靴が消える。教科書が消える。忍び笑い、あからさまな当てこすり、机の上の落書き。ある朝、窓際の自分の席に白い花を入れた花瓶が置かれていたときに、ああ、これはイジメなのだと、若葉はようやく理解した。理解して、同時に、少し呆れた。 (オリジナリティがない)  まるでイジメとはこういうことをするものだというマニュアルでも参照したかのようだ。くだらない、と、頭では思っても、その個々の

          ココロノコリ 1-6

          ココロノコリ 1-5

          ☮  自分の下半身の不可解な反応はともかく、こんなに困惑しているかわいそうな生き物をなんとかしてやらなければ、それよりも何よりも、先に水をかけた件について謝らなければ、とは、思った。 (いや、だけど)  今もし川村が顔を上げて、雄大の身体的な異変に気づいたら、どうにも気まずい。軽く混乱していると、誰かが遠くから呼ぶ声がした。 「ユーダイ! 水やり!?」  グラウンドでサッカーをしていた連中が戻ってきたのだと分かる。それに気づいた川村が発する、ほんのわずかな、狼狽の気配。  ド

          ココロノコリ 1-5

          ココロノコリ 1-4

          ☮  きっかけは、実にささいなことだった。  倉庫からひっぱりだした給水用のホースが、ほんの少しだけ短かったのだ。 「くそ、足んねぇな」  一年前の夏。今より少しだけ、早い季節のことだった。高一だった雄大の髪は既に金色に近く、左の耳には二つ目のピアスが光り、その代償として毎昼休み、校庭の花壇に水をやること、と宣告された。  まだ何もかもが壊れだす前、雄大は明るい不良だった。成績はお世辞にも良いとは言えなかったけれど、クラスメイトともうまくやっていたし、生活指導の教師とも、いわ

          ココロノコリ 1-4

          ココロノコリ 1-3

          ☮  ほんの少し不思議そうな、夜の色の瞳が、雄大を見上げる。  こいつはいつもそうだ、と、雄大は思う。頭から水をかけても、目の前で机を蹴りたおしても、泣きも、わめきもしない。ただ、人を噛む犬でも見るような、怯えと蔑みと好奇心の混ざった目で、雄大を見る。 「伊東くんの、家……」 「──は?」  沈黙されることに慣れていた川村から反応が返って、雄大は寄りかかっていたガードレールからすべり落ちそうになった。 「三枝木町でしょう? 歩いて、来たの?」  雄大には、川村の言葉の意味が分

          ココロノコリ 1-3

          ココロノコリ 1-2

          †  隣家の犬が、びくりと若葉を振り返る。その口元が、わん、と吠えた気がしたが、声は聞こえない。 (不思議だ)  犬の声さえ聞こえない若葉の耳に、それでも世界の音が届く。風の吹きすぎる音、木々のざわめき。夜鳴く鳥の、ホウという声。足元をするりと過ぎた白いものが、若葉を振り返り、ミャオと鳴く。ほんのわずか挨拶めいたその高い声は、たしかに若葉の耳にも届く。 (──死んだ猫?)  月が昇る。この世に存在しない猫が、この世に存在しない少年に、小さくなれなれしい挨拶を送る。  それなら

          ココロノコリ 1-2