バランス感覚
1) 21世紀を生きる若い人に必要なもの
21世紀が幕を開けた平成13年(2001)、私は尊敬する教育者の方とお話しする機会があり、その時に次のような質問をしました。
「21世紀を生きる若い人に一番必要なものとは何でしょうか?」
すると、即座に「それはバランス感覚だよ」と答えが返ってきました。
そのことが強く印象に残っています。
バランス感覚とは、
21世紀に入り20年以上が経過しました。
世界規模で社会システムがめまぐるしく変化する時代を迎え、現代社会に生きる人はあらゆる場面で、あの時教えていただいた「バランス感覚」が求められているように感じます。
2) コマの原理
バランス感覚を考える時、私はよく「コマ」を思い出します。
子供の頃よくコマを回して遊びました。不思議な魅力があり、何度も回してはジーッと見つめていたのを覚えています。
コマにはバランスを取る重心があり、中心軸を基点に回転力を与える自転しながら回り、ひとたびバランスを崩すとすぐ回転が止まってしまいます。
中心がしっかりしていないと回り続けることはできません。
また、回転が速くなればなるほど安定感が出てきますが、遠心力と求心力が拮抗した状態が安定すると考えられています。
さて、人はバランス感覚を維持しなければ、立つことも、歩くこともできません。身体的バランスを保つため、無意識に内耳、目、筋肉などの感覚器と脳の中枢神経の働きにより常にバランスの調節が行なわれて活動しています。
アスリートが体幹を鍛えバランス感覚を養うのもパフォーマンスの向上が目的です。スポーツや日常生活のあらゆる場面で身体的バランス感覚が求められ、私たちは無意識にバランスを取って生活しているのです。
3) 良識というバランス
思考にとってもバランス感覚は大切です。
柔軟な思考とは「バランスを取ること」とも言われます。
世の中には対極的な価値観から相反する意見が存在しています。さまざまな意見に接し、自分のとってのバランスポイントを認識するプロセスによって柔軟な思考力は培われていくのでしょう。
昔から「中庸(ちゅうよう)」という言葉が伝えられてきました。
「相反する二つの意見がある時、一方に偏って取り入れるのではなく、双方の良いところをバランス良く取り入れる」という意味です。
儒教の根本経典である四書の一つで、どちらにも片寄らないことで常に調和が保たれ安定することがいつの時代も求められてきたのだと思います。
私は先月伊勢に行き、20年振りに恩師(私の三代前の校長先生)と会うことができました。30年以上前に新米の私に、教師という職責をマンツーマンで教えていただき、とても感謝しています。
久しぶりにお会いしてお話を伺う中で「多様性が重視される現代社会において、これからの教育には『良識』というものをどのように教えるかが重要になってくる」と教えていただきました。
時代と共に価値観や常識、生き方が変化していくのは当然のことですが、いつの時代にあっても「良識」を身につけることは大切です。
相手を認める。決めつけない。という考え方と共に、礼節、親切心、責任感など人として大切なことはしっかりと伝えていくバランス感覚こそが「良識」を身につけることにつながるのだと思います。
まとめ
あらゆることにバランスは必要不可欠です。
バランスの取れた栄養、バランスの取れた運動、心と体のバランス…
小さい頃に遊んだコマのように、身体的にも精神的にもバランスを崩すと不安定になり、バランスをしっかりとれば回転数がいくら上がっても安定するのでしょう。
次世代を担う若い人たちにはバランス感覚を身につけた「良識のある人」になってもらいたい。そして私たちがそのようにサポートしてあげることが大人の責任であると思っています。
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