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【1】“ステージに立つ”ということ ~舞台との出会い~

わたしが舞台芸術に出会ったのは、実は二十年以上も前のことです。

わたしの通っていた小学校は毎年学園祭の時期になると、クラスで舞台演劇や合唱などの出し物をすることになっていました。人見知りで、なかなか友達のできなかったわたしは、普段は話すことのないクラスメイトと、芝居の中では堂々と目を見て会話ができる、この”舞台演劇”の出し物が、実は毎年の楽しみの一つでした。
小学校6年生の最後の学園祭では、ミヒャエル・エンデの『モモ』を題材としたオリジナル作品を演じました。担任の先生が児童一人一人に役をあてがい、わざわざ台本を書き下ろしてくれたのです。作品の内容はほとんど忘れてしまったのですが、思春期真っ只中で、友人同士の仲たがいや先生とのトラブルも多かった時期だったにも関わらず、演じた後は、すっかりクラスが一致団結していたことを覚えています。台詞や段取りが指定されているので当たり前と言えば当たり前かもしれませんが、当時のわたしにとってはそれがとても不思議で、”舞台はまるで魔法みたいだ”と感動しました。

中学生になると、音楽好きだった父のすすめでオーケストラ部に所属し、ヴィオラという弦楽器に出会いました。
小さな頃からピアノを習っていたのでクラシックには触れてきましたが、複数のメンバーと一つの曲を奏でるということは初めてでした。しかもヴィオラは、オーケストラの中でセカンド・ヴァイオリンとチェロの間に配置される、いわゆる中低音楽器です。主旋律よりも伴奏が多く、オーケストラの中では”裏方"という印象が強くありました。
実は、この”裏方”の仕事は意外にも大変なものです。
知らない曲を演奏することが決まると、CDを何度も聴きながら楽譜とにらめっこ。主旋律に隠れたヴィオラのメロディーをなんとか耳コピで追います。しかも、ピアノとは楽譜の読み方が全く違うので、慣れるまでは楽譜にドレミを振る作業も必要でした。

それでも、わたしはステージの上にいることが好きでした。
眩しいくらいに明るい照明と汗ばむ手の感覚、普段は厳しい先輩たちと一体感を持って演奏ができる嬉しさ、そして、客席からの大きな拍手は、ステージに立たないと決して味わうことができません。

この感覚は、会社員をしながら俳優として活動をしている今でも変わっていません。
わたしにとって「ステージに立つこと」とは、多くの人と一つの作品を創り上げるということで、それはまるで、”魔法”のような時間なのです。
そして、作品を届けられた時の達成感と高揚感が忘れられないから、また舞台に立ちたいと強く願うのです。


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