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平成ほのぼのホームドラマ『ふくよか君』 第一話 芸能リポーターに

約11年前、平成時代に書いたものを少し修正して掲載しております。
懐かしい雰囲気をお楽しみください。

第一話  芸能リポーターに 

里志 (さとし)(16)高校生 
豆太刀 (まめたち)親方(47)豆太刀部屋・里志の父 
紅熊 (べにくま)(19)矢蔵岳(やぐらだけ)部屋・幕内力士 
大豆山 (だいずやま)(28)豆太刀部屋・幕内力士 

「里志、肉を、食え、もっと、食え」 
眠っている小太りの里志(16)の口の中にすき焼きの肉を放り込む豆太刀親方(47)。
ムニャムニャと口を動かし眠りながら肉を食べる里志。 

翌朝、部屋の炊事場では部屋の力士達がちゃんこ鍋を作っている。 
お腹をさすりながら階段を下りてくる学生服姿の里志。 
力士A「ぼっちゃん、おはぅっす」 
里志「お、はよう」 
力士B「どうぞぼっちゃん、ちゃんこ出来とります」 
里志「いらない。何だかさ、朝起きた瞬間お腹一杯なんだもの」 
力士A・B「えー?」 

「コラ、里志、食え」 
豆太刀親方が入って来る。 
里志「だって」 
親方「食って食って大きくなれ、そしてお前はこの部屋を背負って立つ力士に、なればいいんだ」 
里志「嫌だよ、僕はお相撲さんになんてならないよ」
親方「なん、なんだっとおお」 
力士A・B「ぼっちゃんっんん」 
里志「僕は将来芸能リポーターになって、引っ張りだこになるんだ。僕の鋭い観察眼はスキヤンダルを見逃さないよ、きっとね」 
親方「お前に鋭い観察眼なんてねえ!」 
親方、里志を平手打ち。 
里志「うぅ、朝から、ぶつなんて」 
親方「す、すまん、だが、里志よ、お前は二世力士となり部屋を背負って立つ宿命なのだ、ぞ」
里志「そんなの知らないやい、僕は絶対芸能リポーターになるんだ」

涙目の里志。 

親方「ぬ、ぬぬぅ、このただ飯食らいめ」

力士AB、しょんぼり。
里志、出ていこうとする。 

「ギャアーー」 

稽古場からの方から叫び声。 
親方と力士達、急いで稽古場へ。 

稽古場の土俵の中央では矢蔵岳部屋の紅熊(19)が仁王立ちしている。 
土俵の外には大豆山(28)が倒れている。膝を痛めたようで起き上がれない。 
親方「どうした!大丈夫か!」 
大豆山「親方…すまんこつ…」 

駆けつけて来た里志、携帯電話を取り出し、 

里志「はい、怪我人が発生しております。稽古中に膝を捻挫したようです。重いのでこちらでは運べないと思いますね、はい、状況から見て折れてるかもしれないですね。体重は180㌔弱で、とても重い男性です」 

紅熊、倒れている大豆山を見下ろし、
紅熊「この部屋の力士も大したことないっすね」 
親方「誰だ、お前は」 
紅熊「俺はこれからの相撲協会を背負って立つ男、紅熊と申す者っす」 
親方「何をぉぉ、ぬぅぅ」
 
里志「救急対応も済んだし、学校に行ってきます」 
里志、そそくさと立ち去ろうとする。 
親方「そんなでかい口を叩くのはこの部屋で一番の力士、(里志を指差し)あいつを倒してからにしたらどうだい!」 
里志「えぇ?」
紅熊「なにぃ?こいつは学生服を着た小太りの少年じゃないか」 
里志「そうです、これから学校に行くところです」 
親方「里志、芸能リポーターに大切なものは何だ?」
里志「ん?はて?」 
親方「マイクを跳ね除けられても跳ね除けられても喰らい付く闘争心。 空気を読みつつも質問が重複しないよう周囲を常に見極める状況判断力。そして、もっとも大切なのは、視聴者に覚えられやすいキャラクターだ」 
里志「キャラクター?」 
親方「お前はこのままでは、ただの小太りだ」 
里志「うっぅ」 
親方「相撲で有名になって30ちょっと過ぎたら辞めればいい。それから芸能リポーターになったら、知名度は何倍にも膨れ上がり、各局のワイドショーから引っ張りだこになることは確実に約束されるのだ」
里志「ひ、引っ張りだこに、各局から…」 
親方「元お相撲取りの芸能リポーターは誰からも引っ張りだこなの、だ。そして、人気芸能人への単独インタビューも夢ではない、決して」 
里志「に、人気芸能人に、た、単独インタビュー、あ、あふぁぁあふぁ」 

紅熊「うるせえ!」
里志、紅熊の張り手をもろにくらう。

里志「げぴっ」
親方「里志!」

紅熊「小太りの学生風情が、簡単に相撲会に入れると思うなよ」
里志「ぼ、僕は負けない」
紅熊「なに?」
親方「立て!、里志!」
里志「君、紅熊とかいったね」
紅熊「ほう、やる気か、俺と」

里志「ぼ、僕に、素人学生の僕に張り手したことを相撲協会に密告したら、それはもう立派なスキヤンダルになるね」
紅熊「なにっ?」
里志「張られた瞬間もきっちり携帯カメラで撮らせてもらったよ」
紅熊「ハッ!」
里志「これがバレたら、部屋もクビになったり、相撲会からもクビを言い渡されることになるかもね、いや、なるだろうね!」
紅熊「き、貴様」

里志「この、スキヤンダルを報じられたくなかったら、同部屋力士の弱み、いや、全相撲部屋力士の精神的部分の弱みを探り、僕に報告するんだ!こっそりとね!」
紅熊「うう、おのれ」
親方「里志、なんて鋭い出足」

里志「君のまわし、がっちり取らせてもらったよ」

紅熊「く、くそう、この小太りが」
親方「でかした、里志。お前は相撲の枠を超えた、土俵の魔術師、といった感じ、だ」

里志「僕は、横の綱になって、それから大人気芸能リポーターになる、必ずやね。必ずやなるよね」

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