見出し画像

カリキュラム変更の度に国家を憂う必要はない

指導要領の変更と新カリキュラムへの移行

学習指導要領が改訂され、本年度から高校でも新課程、新カリキュラムがスタートしたことに関して、noteで私自身も触れてきましたし、多くの教育関係者にとっては周知の事実です。

しかし、この手の変更の度に教育関係者だけでなく、普段は学校教育に関心の低い人達からも日本の教育を憂う言葉を聞くことがあります。

ネット上にあふれる憂国教育烈士

「〇〇を教えなくなったというのは、技術立国の日本の崩壊の始まりだ。」

といった論調の文章は、SNSの呟きだけでなく、多くのメディアが報じるところです。

今回の改定で言えば「ベクトル」になりますし、以前は「行列」が話題になっていました。

例えば以下の日経クロステックの記事です。これは2018年に書かれたものです。

要約すると、「行列を排除した数学のカリキュラムはネットや画像処理などを学ぶことに対し大きくマイナスであり、これこそが日本の技術軽視の一端である。」といったものです。

こちらのツイートは都心のハイレベル塾で数学講師をされている方のものです。

近年の改訂による行列の排除や統計重視の姿勢に反対の考えのようでそれを憂うコメントを書かれています。

リプの数もさることながら、引用ツイート数も本日(2022年5月28日)時点で1000件を超えています。

このことからも、非常に多くの人がカリキュラムに関心を抱いており、一家言を持つことがわかります。

新課程のカリキュラムは改悪か

カリキュラムの良し悪しを何で判断するのが妥当でしょうか。

教育成果とすると、現時点では卒業生が出ていない新課程カリキュラムは当然判断が不可能となります。

では、学問的なつながりや優先順位でしょうか。

しかし、これに関しても専攻する分野によって優先順位は異なります。

現在、社会情勢を鑑みて優先されている統計分野に関しても同様です。

代数や幾何専門の人達から見れば納得できないことであっても、統計専門の人からすれば順当であることもあるのです。

改訂による削減にデメリットはないのか

しかし、以前まで高校内容や必修内容に含まれていたものが改訂によって外された場合、その問題を解くことはできなくなり数年前と比較して学力が下がっているのではないか、という批判が存在します。

ただ、実際には試験にもその内容は削除されているため、状況は公平です。

いやそうではなく、専門領域を学ぶ場合に困るのだ、という意見があります。

行列の場合

例えば「行列」は2012年の変更で高校数学から排除された分野です。
しかし、大学入学後に学ぶ「線形代数」という分野の必須知識です。
そのため、理系進学者を軽視したカリキュラムではないか、とも言われやすいようです。

しかし、以下のリンクの日本科学教育学会研究会研究報告によると

必修であったのは1973年から1994年までの20年間、その後は選択科目で2012年まで高校数学で扱っていました。

ということは、それ以前の学生は高校で「行列」を学んでいませんし、文系の経済学部の学生も大学で初めて「行列」を学ぶことになります。

しかし、初学者であると多くの大学側はきちんと認識しており、問題は発生していません。

学問の有為性と高校でのカリキュラムは無関係

高校で選択領域分野の数学を学ぶ人の大半は、大学進学を考えている人でしょう。

だからこそ、数学の内容を学んだとして直接的に使うケースは少なく、ごくわずかの人たちだけは必要であるというのが現在の状況です。

直接的に使わない人にとって、数学は論理性の訓練や最低限の数式知識の習得を目標としているため、個別の単元の要不要にはあまり意味がないでしょう。

逆に数学などの分野に関わる人の場合、必要ならばその時点から学ぶ意欲がないのであれば理系専門職への適性の無さを示すだけのものでしょう。

したがって、高校での必修内容に何を組み込むかに正解はなく、大きく的はずれなカリキュラムでも無い限り本質的に問題は無いと私は考えています。

そして現在はたまたま、産業転換の時期から「統計」を重く扱っているに過ぎないのではないでしょうか。

私自身、「解析学」を専門にしていたので、現在の「統計」偏重に関して違和感を感じる部分もあります。しかし、それもまた個人的な意見に過ぎないと考えています。

結局は、ある程度の期間実施された後にきちんと検証した上で判断するしかなく、現時点の内容だけで将来を心配するのはそれこそ「杞憂」ではないかと思うのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?