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2022/2/21週|Two-Sided Platforms(両面プラットフォーム)の12の成長戦略についてのお話

この記事は何か?

株式会社タイミーで執行役員CMOを務めている中川と申します。
マーケティング関連の仕事をしている中で感じたことを綴り、コツコツと学びを積み重ねる『CMO ESSAY』というマガジンの記事の一つです。お時間あるときにご覧いただければ幸いです。

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Two-Sided Platforms(両面プラットフォーム)

表題のTwo-Sided Platforms(両面プラットフォーム)とは、とある仲介者やプラットフォームを介して、2種類のプレイヤーがマッチングし、お互い何らかの利益を得る市場を指します。

Uber、Airbnb、Spotify、配車サービスなどもそうですし、よく考えるとクレジットカード、ゲーム機、携帯電話などもそれに該当します。
(そういえば自分が所属させてもらってきた事業会社はすべてこうしたTwo-Sided Platformsの事業をやっている会社ですね。フェーズも業界も変数も少しずつ異なるのでこの辺の分類でも何か書けそう)

で、で、直近、Two-Sided Platformsの成長戦略に関する海外の修士論文を目にする機会がありましたので、今回は備忘録も兼ねてまとめようと思います。

両面プラットフォームで用いられる12の成長戦略

読んだのはこちらの「Growth Strategies for Two-Sided Platforms - A Case Study of Graphiq(両面プラットフォームの成長戦略 -  Graphiq社の事例)」です。2016年に書かれたもののようです。

こちらの修士論文は上記の通り、公開されているものです。特にメモっておこうと思ったのは、両面プラットフォームで用いられる12の成長戦略について考察している点によります。
この12の成長戦略は、それまでに発表・出版されている両面プラットフォームに関する文献をサマライズし、リスト化しているものとのことです。
(以下、英語力の問題で正確性は保証できないのと、PDFにして123ページあるものの一部だけを切り取ったメモになりますので、興味のある方は原文をご覧ください。また今回は一部を除き事例研究のパートにも言及はしません)

まず、本論文の中にまとめられている12の戦略リストを引用すると下記の表になります。以下で補足を試みます。

P.28より引用: 文献調査で明らかになった両面プラットフォームの12の成長戦略カテゴリ

成長戦略1. 💰 サブシダイジング

市場の片側に補助金を出してプラットフォームに乗せる。
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補助金を出すことで、プラットフォームに参加してもらい、Two-Sided Platformsが直面するいわゆる「鶏と卵の問題」を克服しようというものです。補助金を出すことで、両方の市場の成長を高めるか、片方の利益を増やす目的を叶えにいきます。
補助金は、直接の現金送金の他に、価格割引、恒久的な割引、技術サポート、物理的な商品、無料の情報など、ユーザーを参加させる手段としての形をとることがあり得ます。

成長戦略2. 💹 価格戦略

ユーザーを惹きつけるために、最初は低価格または無料で提供する。
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価格戦略とは、プラットフォームの初期段階ではユーザーを惹きつけるために低価格または無料の料金を設定していくものです。
1の補助金とも関連します。一般的には、プラットフォームを利用するユーザーに料金や価格を課すことが一般的です。この理論では、プラットフォームに対する需要や、ユーザーグループごとに創出される価値が異なるため、各ユーザーグループから最高の余剰と契約を生み出す最適な価格均衡に達するように、グループ間で価格を調整することができるとしています。

成長戦略3. 🆓 トライアビリティ(試行性)

製品やサービスを期間限定で無料でユーザーに提供すること
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Gallaugher & Wang (2002) の説明によると、プラットフォームに新しいユーザーを引き付けるための戦略として使用されています。インターネットの台頭により、ユーザーに製品やサービスへのアクセスを提供することは、ほぼゼロの限界費用で行うことができるようになりました(Nejmeh, 1994)。また、こうしたトライアルは、消費者に品質の保証を与えるものであり、理論的には、ユーザーは製品を試用した後に、およそ110〜120%の高い価格を支払うことが予想される(Gallaugher & Wang, 2002)とのことです。

成長戦略4. 🏘 マイクロマーケット

ユーザーの小さなコミュニティに焦点を当て、コミュニティのメンバーの間で正のネットワーク外部性を生成する
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マイクロマーケットとは、小さなユーザーのコミュニティに焦点を当て、コミュニティのメンバー間で正のネットワーク外部性を生み出す戦略です(Van Alstyne, 2014)。
この戦略の狙いは、ターゲットとしているコミュニティのかなりの部分を惹きつけることで、より大きなコミュニティをターゲットにした場合よりも強いネットワーク外部性を生み出すことにあります。
このミクロの市場から成長するために、プラットフォームは、新しいユーザーをプラットフォームに引き付けることで、隣接するグループに参入し、ネットワーク外部性をさらに高めることができます。Uberは、他の都市に進出する前に、まずサンフランシスコでサービスを開始することに注力し、この戦略を成功させました。

成長戦略5. ✨ マーキー・ユーザー

通常のユーザーの何倍もの価値をもたらすユーザーをプラットフォームに採用する
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マーキー・ユーザーとは、通常のユーザーの何倍もの価値をプラットフォームにもたらすユーザーのことを指します。例えば、大量に購入するバイヤーや、何千人もの人々を魅了する著名人などがこれに該当します。
戦略としてのマーキー・ユーザーの誘致については、Eisenmannら(2006)が説明しています。彼らは、マーキー・ユーザーを惹きつけることで、市場の反対側にいるユーザーをプラットフォームに引き寄せることができると主張しています。
このようなユーザーを惹きつけることで、他方の市場の成長を加速させることができます。

成長戦略6. 👶 ピギーバック

既存のネットワークからのユーザーベースの活用
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両面プラットフォームを立ち上げる際の戦略として、他のネットワークにピギーバック(おんぶに抱っこ)することが挙げられます。Parker and Van Alstyne(2014)は、新しい両面プラットフォームが他のネットワークからユーザーを借りる戦略としてピギーバックを紹介しています。SunとTse(2007a)が論じているように、片方の市場からユーザーを呼び込むことができれば、両面プラットフォームを成長させるのは非常に簡単です。
既存のユーザーベースを新しいネットワークの参加者に変えることは、ゼロからユーザーベースを構築するよりもはるかに簡単であると主張しています。
例として、銀行がVISAカードを配布することが挙げられます。これは、Visaが銀行のネットワークにおんぶに抱っこしている、ある種のピギーバックと見ることができます。

成長戦略7. 🏢 エンべロップメント

既存のプラットフォームのユーザーベースを活用して、新しいプラットフォームを導入する
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企業が既存のプラットフォームのユーザーベースを利用して、類似のプラットフォームを導入して他のプラットフォームを攻撃することです(Eisenmann et al., 2011)。
マイクロソフトは、Windows OSのユーザーにWindows Media Player(WMP)を導入することで、同じユーザー層にサービスを提供していたRealNetworksのビデオプラットフォームを攻撃しました。
WMPは優れた製品とは考えられていませんでしたが、マイクロソフトがユーザーグループをコントロールすることで、RealNetworksを市場から締め出すことができたのです(Eisenmann et al., 2011)。
この戦略を採用する企業は、通常、攻撃を受けるプラットフォーム企業よりも規模が大きく、財務的にも強い(Suarez & Kirtley, 2012)。重要なのは、既存企業のユーザーグループと、新しいプラットフォームの潜在的なユーザーグループとの間に、ユーザーの重複があることとされます(Eisenmann et al., 2011)。

成長戦略8. 🤝 M&A、ライセンス、アライアンス

他のネットワークとの合併、買収、ライセンス、提携を行う
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企業のユーザーベースを拡大するための戦略として、競合プラットフォームの買収や合併があります。2つのネットワークを組み合わせることで、1つのネットワークよりも強力になり、鶏と卵の問題を克服する戦略にもなります(Sun & Tse, 2007a)。
ElanceとoDeskは2014年に合併し、フリーランサーと仕事をつなぐ世界最大のプラットフォームが誕生しました。

ライセンスや提携も、大きなユーザー層を獲得するための戦略の一つです。アメリカの銀行は、Visaに対抗するために提携してMaster Charge(現在のMastercard)を設立しました(Sun & Tse, 2007a)。また、企業は大規模なユーザーベースへのアクセスをライセンスすることもできます。

これらの戦略の欠点は、コストにあり、M&Aの場合は高いプレミアム、ライセンスの場合はロイヤルティ、アライアンスの場合はプロフィットシェアが必要となります。

成長戦略9. 👩‍💻 シード化

製品の利点を通じて、一方の市場が存在しなくても十分な価値を創造する
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シード化とは、市場の一方の側に十分な価値を創造することで、他方の側の存在を必要としない戦略です(Gawer & Henderson, 2007)。
これは、製品のベネフィットを開発するか、他社に自社のソリューションの補完的な機能を作らせることで可能となります。
Suarez and Kirtley (2012) は、この戦略を支持し、特定のユーザーグループを見つけて、そのニーズを解決すべきだと提案しています。あるグループのためにソリューションをカスタマイズすることで、そのグループ内に強力なネットワーク外部性を生み出し、自らの成長を促進することができます。
また、理論的には、現在解決されているニーズではなく、顧客の将来のニーズを解決することに集中できる市場に参入することを提案しています。これを実現するには、ターゲットとするユーザーグループが高く評価しているいくつかの製品の利点に焦点を当てる必要があります(Suarez & Kirtley, 2012)。

成長戦略10. ⚾️ バージョニング

垂直方向に差別化された複数のバージョンを持つ幅広い製品ラインを提供する
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バージョニングとは、プラットフォーム上で幅広いラインナップを提供することです。市場の細分化と製品差別化に関する既存の理論に基づきます。
事例研究のGraphiq社(= 顧客とフリーランスのグラフィックデザイナーをつなぐ両面プラットフォーム)の場合、ロゴ作成からアニメーションまで、幅広い専門性を持つデザイナーに参加してもらうことがその戦略にあたりました。
一般的に、バージョニングが効果的な成長戦略であるためには、プラットフォームは、需要グループがニッチ製品のフォーカスよりも幅広い製品レンジを重視しているかどうかを分析する必要があります。
また、プラットフォームは、需要グループのニーズと、彼らが必要とするものを提供できるサプライヤーグループをマッチングさせる必要があります。両面プラットフォームの場合、いわゆる「製品と市場の適合性」を見つけるための調整だけでは不十分です。2つの市場とプラットフォームがあることを考えると、両面プラットフォームは「プラットフォーム-市場-市場の適合性」を見つけるために調整しなければなりません。

成長戦略11. 🚨 ガバナンス

プラットフォーム上で提供される価値の品質管理
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プラットフォームでは参加する2つのプレイヤーがお互いに価値を提供し合うため、プラットフォームとしてはその価値に対する直接的なコントロールが弱い状況です。そのため、ガバナンスの必要性が生じます。
Strahilevitz (2006)は、ゲームプラットフォームとソーシャルネットワークが、低品質が高品質を駆逐するという「レモン問題」に対処していることを示した。プラットフォームは、技術的なロックアウト・メカニズム、品質評価、評判システム、契約、経済的手段などを組み合わせて、低品質を提供したり、悪質な行為を行う参加者を排除したり規制したりすることができます(例:Boudreau & Hagiu, 2009)。
例えば、Uberは運転手と乗客の両方に評価システムを導入しており、5つ星のうち3つ星以下の運転手はプラットフォームから排除されています。

成長戦略12. ℹ️ 情報

コスト削減と効率化のための情報提供
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市場の両側のプレイヤーに十分な情報を提供することは、コストを削減し、効率を向上させ、成長の原動力となることが証明されています(Evans, 2012)。
情報は、ユーザーが探しているものをより簡単に理解したり見つけたりすることで、検索や輸送のコストを削減するのに役立ちます(Sun & Tse 2007a)。
ユーザーが情報にアクセスできるようになると、取引から得られる価値が最も高い相手を見つけやすくなると言われています。
ほとんどの場合、情報は推奨されていますが、あまりにも透明性が高すぎると、あるユーザーグループにとってはマイナスとなり、ネットワーク外部性に悪影響を及ぼします(Evans, 2012)。
ベビーシッターの市場では、買い手はサービス提供者に関するできるだけ多くの情報を重視しますが、情報が多すぎるとサービス提供者のプライバシーが侵害される可能性があります。

(再掲)P.28より引用: 文献調査で明らかになった両面プラットフォームの12の成長戦略カテゴリ


以上、12の成長戦略についてでした。

この他、Graphiq社の事例分析では下記のような5つの戦略を優先したなど、具体例があるので理解が深められます。

1)良質なデザイナーの獲得(マーキーユーザー)
2)優れた製品機能の実装(シード化)
3)デザイナーのポートフォリオの公開と明確なプロジェクト概要の作成(情報)
4)プラットフォームの管理による高品質かつ迅速なプロセスの確保(ガバナンス)
5)Slackネットワークを活用した顧客の獲得(ピギーバック)

Growth Strategies for Two-Sided Platforms - A Case Study of Graphiq



こうした過去文献や事例の研究で一定の抽象化してくれたアウトプットは、いろいろな気づきを与えてくれますね。過去携わったものもこれに該当したな、、みたいなものも含めて。

自社事業のチェックリスト的に使うにもよしですし、これからプラットフォームを構築することを考えている方は戦略構築の際に意識されてみるとよいかもしれません。

ではでは今週はこの辺で失礼します。

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